燃料が必要

 それから、手持ちの魔石を使って幾つかステータス向上薬を作ってみた。もちろん、死の呪いみたいな致命的なマイナス効果が怖いから、一日一個ずつ、数日に分けて作ったよ。それでわかったんだけど、どうも魔物のランク差で効果に大きな違いがでるみたいだ。


 試してみた魔石は、Cランクのリザードソルジャーとゴブリンコマンダー、そしてDランクのゴブリンリーダー。Cランクの魔石で作ったステータス向上薬は中級、Dランクだと下級となった。リザードソルジャーの魔石では筋力が、ゴブリンコマンダーの魔石では生命力がわずかに上昇したけど、ゴブリンリーダーの魔石に関してはステータスに変化なしだ。たぶん、複数回服用してようやく効果が表れる程度なんじゃないかな。


 さすがにDランクの魔物の魔石では、効率が悪そうだ。ゴルドディラはまだたくさんあるけど、それでも限りはあるし、他の材料だって数を集めるとなるとそれなりに大変だからね。ステータス向上薬に使う魔石は少なくともCランク以上に絞った方が効率的だと思う。


 ただ、魔物のランクと能力向上幅が相関関係にあると断定はできない。例えば、レアメラットはランクDの魔物だけど、敏捷に関してはCランクのゴブリンコマンダーよりもずっと上だ。こういう魔物の場合、もしかしたら敏捷の上昇幅が高い魔法薬ができあがる可能性はあるからね。残念ながら、遺跡ダンジョンで倒したレアメラットは魔石をドロップしなかったから確認することはできないけど。


 ひとまず、手持ちのCランク以上の魔石は全部ステータス向上薬にしようかと思っている。特に地下水路でリザードソルジャーの魔石はそこそこ拾ったから、あと20個くらいはステータス向上薬を作れそうだ。まあ、調薬失敗によるマイナス効果がどれほどかわからないから、被害が大きければ取りやめる可能性もあるけど。


 さて、調薬関係に関しては引き続きパールさんに鍛えて貰うとして、装備方面の強化も考えていきたい。ダンジョンで宝箱を探すのもいいけど、料理コンテストがあるから王都から離れるのは難しい。なので、手持ちのミスリルコインを武器にしてもらおうと思ってるんだよね。


 ミスリルを使った武器はマナの伝導性が高いので、魔法の発動媒体としても使える。あと、特殊な技能がある鍛冶職人なら魔法武器として加工できるそうだ。僕らが所持しているミスリルの量からいえば、剣一本分くらいにはなるはずだから、ローウェルの武器を作って貰おうかなと思っている。剣に魔法を宿すなら、材質が鋼だと効率が悪いと思うんだよね。ミスリルの剣にすれば、それだけでローウェルの戦力は大きく上がるんじゃないかな。


 まあ、ローウェルを説得するのがちょっと大変だったけど。まずは僕の武器を新調するべきだっていうのがローウェルの主張だ。でも、ミスリルって物理攻撃力に関しては鋼と大差ないんだよね。最近は魔法も使う機会が増えてきたけど、それでも僕は物理攻撃が主軸だ。貫きの短剣は貫通力にプラス補正が掛かっているから、ミスリルで短剣を作ったからといって攻撃力が高まるとは限らない。そう説明することで納得してもらった。


 そんなわけで、都合が合う日にローウェルと一緒に鍛冶工房まで依頼に出向くことにした。向かう先はもちろんザルダン工房だ。親方の腕は確かみたいだからね。武具コンテストも近づいてきたから、忙しい時期かもしれないけど……。それでも、とりあえず聞くだけ聞いてみようと思ってね。





「こんにちは!」

「おお、トルトか! よく来たな!」


 工房の入り口をくぐると、受付には顔見馴染みとなった鉱人職人が座っていた。たいていは見習いのマーク君が座っているんだけどね。ときどき職人としての指導を受けているみたいで、そんなときは代わりの職人が休憩がてら番をしているんだ。


「今日はどうしたんだ? また仕事の依頼か?」

「はい、そうです。親方はいますか?」

「ああ! ちょっと待ってろ」


 そう言うと、その鉱人職人は奥の工房へと駆けていく。


「親方! テリヤキバーガー……じゃなかった、トルトが来てるぞ!」

「おお、そうか!」


 工房の奥からそんなやり取りが聞こえる。

 ねえ、今、すっごい失礼な言い間違いしなかった?

 まあ、いいけど……。


「よくきたな、トルト! そっちのは、ローウェルだったな? また調理器具か? 報酬はテリヤキバーガーで頼むぞ。新作があるんだろう?」


 ザルダン親方が笑顔で工房から顔を出した。屋台で顔を合わせているのでローウェルも面識がある。依頼内容を聞く前に、報酬をテリヤキバーガーと指定するところが実に親方らしいよね。ハンバーガー店が出来てテリヤキバーガーを好きなだけ食べられるようになったけど、それでも僕のテリヤキバーガーが食べたいって言ってくれるのはうれしい。報酬が本当にそれでいいのかってことは気になるけど。


「あ、いえ。今日は武器を作って欲しいんですけど……コンテストの準備はどうですか?」

「おお、コンテストか! もう提出用の武器はできあがっているぞ!」


 あれ、そうなんだ。勝手なイメージだけど、職人のこだわりみたいなものがあって、ギリギリまでクオリティを高めるために力を尽くすものなのかと思ってた。そのことを告げると、親方は大きな声で笑った。


「もちろん、自らの技を尽くして最高の品を作り上げるのが職人ってもんだ。そして、儂はすでに全力を注いだ武器を作り上げた。ただそれだけのことだ。コンテストの規定で使える素材は鋼と決まっとる。さんざん扱った素材だからな。どこが現状での限界かなんて把握しておるさ」


 うーん、そういうもんか。常にそのときそのときのベストを尽くしているから、今更じたばたしても仕方ないってことかもね。まあ、それなら僕たちも依頼をしやすいからありがたいけど。


「さて、武器といったな。ローウェルの武器か?」


 まだ、何も言っていないのに、親方は見事言い当てた。まあ、普段は一人で来てるからね。珍しくローウェルを連れてきたから、そこから推測したんだと思う。


「そうだ。本当はトルトの武器を作った方がいいと思うんだがな……」


 ローウェルは不承不承といった感じで答えた。まだ、あんまり納得していないようだ。パーティー全体の戦力底上げのためにはローウェルの武器にした方が絶対にいいんだけどなぁ。


「あ、材料はこれを使ってください」


 収納リングからミスリルコインをじゃらじゃらと取り出した。

 親方は、訝しげな表情だ。まあ、コインを材料として提示されたら、そんな顔にもなるかもしれない。だけど、手にとってまじまじと観察したところで表情が変わった。コインの素材に気がついたみたいだ。


「これはミスリルか!? しかも、これほどの量があるとは! これで儂に武器を打たせてくれるのか? そうなんだな!」


 親方のテンションは爆上がりだ。テリヤキバーガーを目にしても、これほどではないよ。やっぱり、鉱人にとって希少金属というのは、それほど心躍るものなんだね。これなら、依頼を引き受けてもらえそうだ。


「ミスリルで武器が打てるなら報酬などいらん! むしろ、依頼自体が報酬みたいなものだ。是非、やらせてくれ!」


 まさか、親方がそんなことを言うなんて!?

 ミスリルの魅力ってそれほどなの……!?


「……と思ったがやっぱりテリヤキバーガーはいるな! むしろ前払いで頼む! テリヤキバーガーは鉱人の燃料だからな、不足すればいい武器は作れん!」


 ……やっぱり、親方は親方だった!

 というか、テリヤキバーガーが鉱人の燃料って最近言われてる冗談でしょ! 昔はテリヤキバーガーなんて食べてなかったんだから、そんなわけないじゃん!


 まあ、無料で作って貰おうなんて思ってないから、別にいいんだけど。テリヤキバーガーも渡すし、報酬もきちんと支払うよ!

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