取引をしよう
こういうときってどうすればいいんだろう。仲裁に入った方がいいの? いや、無理か。さすがに僕みたい子供が仲裁しても従ってくれるとは思えない。
だとすると、トラブルに巻き込まれないようにそっと離れる? うーん、それが無難だと思うんだけど、たぶん出口に向う進路上なんだよね。声が聞こえるの。
悩みながら耳を澄ませてみると、朧気ながら内容が把握できてきた。どうやら、探索中に宝箱を見つけたけど、パーティーの中に解錠や罠解除の技能を持つメンバーかいないみたい。それで開ける、開けないで言い合いになったようだ。思ったほど深刻な感じじゃないね。
これだったら、あえて避ける必要はないかな。宝箱、僕も見てみたいし。なんだったら、開封を申し出てもいいかもね。
というわけで、僕はそのパーティーがいる方へ歩いていった。そのパーティーも灯りをつけているから、居場所はすぐにわかる。
向こうも僕が近づいていることはすぐに気がついたみたいだ。言い合いがピタリと止まった。
「あの!」
ある程度、近づいたところで僕が声を掛けた。そこに居たのは、ダンジョン前で見かけた駆け出しっぽい三人パーティーだ。駆け出しと思った理由は単純でみんな若いんだよね。僕よりは少し年上だと思うけど。
メンバーは少年一人に、少女が二人。少年は戦士風で盾まで持っている。少女のうち、一人は剣士タイプに見える。もう一人はローブ姿に杖を持っている。格好から判断すると魔術師だね。
「なんだ?」
代表して少年が反応を返してくれる。少し警戒されている感じはあるけど、それは仕方がない。世の中には同業者を襲って上がりを奪うような不良冒険者もいるらしいからね。
「話が聞こえたんですけど、宝箱を見つけたんですよね? もし良かったら見せてくれませんか? あと、僕で良ければ開けますよ。【解錠】ありますから」
「え、ああ。ちょっと相談させてくれ」
「はい」
僕の提案に、そのパーティーはこそこそ相談を始めた。これも無理はないかな。だって、いきなり見ず知らずの人間が宝箱を見せてくれって声かけてきたら戸惑うよ。
僕だって、今日の探索中に一つでも宝箱を見つけられていたら、そんな提案をすることはなかった。だけど、見つけられなかったんだからしょうがないよね?
「……よし、話はまとまった。君に宝箱を開けてもらうことにしよう。分前は我々と君で半々。それでいいか?」
なんと! 分前まで貰えるの!?
でも、そうか。向こうは宝箱を開けたいけど、安全に開ける技術がない。それを提供するわけだから、その報酬が貰えるってことか。ただただ宝箱が開けたいって気持ちが先行してたから、こんなことまで考えが及んでいなかったよ。しかも、半分もくれるって凄くない? 太っ腹だね!
でも、報酬が貰えるなら別の形がいいかな。いや、せっかくのチャンスだしね。
「分前はいらないので、僕をパーティーに入れてもらえませんか?」
「えっ?」
僕の提案は何故だか驚かれてしまった。そんなにおかしなこと、言った……?
「その提案は、こちらとしてもありがたいんだが……、いいのか? 何か理由があってソロで活動していると思ったんだが?」
なるほど?
僕が好きこのんでソロ冒険者をやってると誤解してたのか。それなのに仲間に入れてほしいと提案したから意表を突かれたってことね。なんで、そんな誤解をしていたのかよくわからないけど。
「そういうわけじゃなくって、仲間に入れてくれそうな人を見つけられなかっただけです」
「そうなの? 【解錠】スキルを持っている人はそれほど多くないから、引く手数多だと思うんだけど……。ひょっとして、冒険者の酒場に行ってないの?」
誤解を解こうとしたら、剣士風の少女が聞いてきた。やっぱり【解錠】スキルは求められるスキルだったみたいだ。僕の考えに間違いはなかったんだ!
でも、冒険者酒場にいる人たちのパーティーで僕が活躍できるビジョンはまるで見えなかったんだけど……?
「冒険者酒場には行ったけど、ベテランの人ばかりみたいだったから、僕が入れそうなパーティーはなかったんだ……」
「なるほど。たぶん、ベテラン向けの酒場に行ったんだね」
魔術師ルックの少女から衝撃の発言が!
もしかして、冒険者酒場って複数あるの!?
魔術師ルックの少女が説明によると、冒険者の酒場と呼ばれる場所は複数あるみたいだ。そして、実力とか経験年数とかで利用するお店の棲み分けがあるらしい。明確な決まりがあるわけじゃないけど、大体同じ実力の者同士でパーティーを組むのが普通だから、自然とそうなっているみたい。
そうか。そうだよね。
さすがに僕みたいな駆け出し冒険者が一人もいないのはおかしいと思ったんだよ。単純に僕が場違いな客だったのか。
うわぁ、恥ずかしい……。
駆け出しがイキってるって思われてたかもしれない。うぅ……。
まあ、仕方がないね。僕の聞き方が悪かったんだ。道行く人に「このあたりに冒険者酒場はありますか」って聞いたのが悪い。ちゃんと、ギルドでニーナさんに教えてもらうべきだった……。
「どうする? 酒場で改めてパーティー探すか? 【解錠】スキルがあるなら、歓迎してくれるパーティーは結構あると思うが」
ちょっぴりショックで固まっていると、少年が苦笑いしながらそう言った。
おっとっと、呆けている場合じゃないね。この少年はそう言ってくれるけど、本当に他のパーティーが歓迎してくれるかどうかはわからない。だったら、こうして縁ができたパーティーに入れてもらったほうがいいよね。
「ううん。できれば、このパーティーに入れてもらえないかな?」
もう一度お願いすると、少年はニヤリと笑った。まだ幼さが残っているけれど、どこか風格があって頼りがいのありそうな笑顔だ。
「もちろんだ! 俺はレイドルク。レイと呼んでくれ」
「アタシはミルよ。よろしく!」
「サリィだよ。よろしくね」
「僕はトルト。こちらこそ、よろしく!」
酒場のことはビックリだったけど、こうしてパーティーに入れたわけだし、問題ないね! 年も近いし、うまくやれそうな気がするよ。
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