45. 創造神

「終わったの……?」


 僕の腕の中、いつの間にか目を覚ましていたハルファが静かに呟いた。


「うん、終わったよ」

「そうなんだ。でも、トルトは……」


 不安そうな顔。僕の神気はまだ失われていない……どころか、過去にないほどに高まってるものね。どうも異界から流れ込んできてたような気がする。もしかして、この力って向こうで亡くなったっていう創造神様が残した力なのかな。


「大丈夫だって。この力は――」

「おめでとうございます。トルト様」


 僕の言葉を遮るように、突然、目の前に人影が現れた。全部で五人……というが五柱。声をかけてきたのは太陽神様。他に精霊神様、幸運神様、大地神様、職業神様もいる。面識がある神様が勢揃いだ。しかも、何故か僕に跪いている。


 やっぱり、これってそういうことなのかな。僕は神様になるつもりはないのにね。


「プロミナ! 瑠兎を無理矢理神にするのはやめようって言ったじゃないか」


 戸惑っていると、廉君が割って入ってくれた。後ろから、物言いたげな表情のガルナもついてくる。


「何を言っているのです、ラムヤーダス。無理矢理も何も、トルト様は誰がどう見ても神です。侵略者を異界へと送り返したのでしょう? 実績もある。今更それを否定したところで意味はありません」

「それは……」


 太陽神様が目を伏せ首を振る。その言葉には廉君も言い返せなかったみたい。そんなに神様っぽく見えるんだね、僕って。自分としては、前とあんまり変わらない気がするんだけどなぁ。まあ、創造の力が強くなったのは確かだけど。


「トルト、お前……」


 レイ、ミル、サリィ、ローウェル、スピラ、シロル、そしてプチゴーレムズも。みんなが僕を取り囲み、痛ましそうな顔をしている。みんな、僕が神様になったんだと勘違いしているみたい。


「僕は神様にはなりませんよ」


 きっぱりと告げると、跪いたまま太陽神様が困ったような顔で首を振った。


「残念ながら、それは叶いません。それほど強い力を持ったまま、人の世で暮らすことは許されないのです。加えて、追い払ったとはいえ、銀の侵略者があれで諦めたとは限りません。トルト様には首座として神々をまとめ、脅威へと立ち向かって貰わなければ」


 異界の神が侵略を諦めていなければ、再度ちょっかいをかけてくる可能性はある。太陽神様の懸念はもっとおだ。


「トルト……」


 今にも鳴きそうな顔でハルファが呟く。大丈夫だよって意味を込めて、ハルファの頭をぽふっと撫でた。


「問題ありません。それを含めてどうにかなる方法を考えてますから。今から説明しますね」

「は? いったい何を……」


 僕の言葉に太陽神様が動揺している。チャンスだ。この間に畳みこもう。


「要は僕から神の力を取り除いて、代わりにその力を引き継ぐ存在がいればいいんでしょ?」

「え? いや、それはまあそうですけど、そんなに簡単なことでは……」

「大丈夫ですって。任せてください」


 さて、まずはボディ作りだね。空間改変の影響で足元はクローバー畑になっているから、ここの土を使おう。クリエイトゴーレムの要領で、土を人型に形成する。


 人型……ひとが……うーん、ハニワだ!

 何でハニワになるんだろう。もっと、ちゃんとした人型にしたいんだけど。


「瑠兎……いったい、何をやってるの?」

「いや、人型のゴーレムボディを作りたいんだけど……」

「ひと……がた?」


 廉君が唖然とした表情で、僕の作ったハニワを見た。言いたいことはわかる。


「瑠兎は世界創造の力を手に入れたんじゃなかったの?」

「それは僕にもわからないけど……でも、大仏は作れるようになったよ」

「大仏……」


 廉君が穴を塞ぐ台座の上に鎮座する大仏を見た。ハニワに比べると、かなりちゃんとした人型だ。確かな成長を感じるよね。


「あれ、瑠兎の趣味じゃないよね? 絶対別の物を出そうとしたよね?」

「う、うん。本当は巨大ロボを出そうとしたんだけど」

「どうして、それが大仏に……?」


 廉君が顔に手をやり首を振る。しばらくそうしたあと、太陽神様たちに視線を向けた。


「本気で瑠兎を創造神にするつもりなの? 本当に?」

「そ、それは……」


 あれほど強硬に主張していた太陽神様が動揺している!


 凄い交渉術だね。交渉材料になったのが、僕のデザインセンスなのは釈然としないけど。


 まあ、いいや。今のうちに作業を終わらせちゃおう。ゴーレムボディにするとどうしてもハニワになるから、パンドラギフトから出すことにしようかな。それでもハニワになるリスクはあるけど、イメージがしっかりしたものなら出せると思うんだよね。イメージがしっかりしている人型のものって何かあったかな。


 ぱっと思い浮かんだのはジャンクなフードのお店のマスコットキャラクターだった。できるだけそのキャラクターを思い浮かべ、パンドラギフトを開封する。ポンと飛び出してきたのは、赤髪で白塗り、カラフルな衣装を纏ったピエロのキャラクターだ。


「なんで、それ? ハンバーガーが食べたくなってくるじゃん……」


 廉君の感想に、ハルファたちが不思議そうな顔をしている。まあ、あんまりハンバーガーとは結びつかないよね、このキャラクター。


「あの、トルト様。その像はいったい……?」


 不安そうな顔で太陽神様が聞いてくる。だから、僕は安心させるようにニッコリ笑って答えた。


「今から、これに創造神様の魂を宿します」

「「「はいっ!?」」」


 凄い! みんなの呼吸がぴったり合ったよ!


 神様たちだけじゃない。ローウェルやレイたちまでが、声を揃えて驚いた。“何を言ってるんだお前は”みたいな顔まで揃ってる。


 ただ一人、廉君だけが焦った様子で僕を止める。


「ちょ、ちょっと! 流石にコレに宿すのはマズいでしょ! マズいって!」

「大丈夫じゃない?」


 だって、神様は自由に姿を変えられるって聞いてるよ。僕は無理だけど。


「とにかく、やってみるね」

「あっ、ちょっと!?」


 心配性の廉君はスルーして、取りだしたのはパンドラギフトだ。思えば、これには本当にお世話になったよね。もしかしたら、これで最後かもしれないけど。


「創造神様の魂を出して!」


 願いを口にして、箱を開ける。その直後、僕の体から何かキラキラ光るものが飛び出していった。同時に、溢れ出すほどの力が抜けていく。


 思った通りだ。あれはやっぱり、創造神様の力だったんだね。何となくそうじゃないかなって思ったんだ。


「あっ……」


 小さく声を漏らしたのはハルファ。そのハルファからも光る何かが飛び出してきた。僕から抜け出た光とは比べものにならないほど小さいけれど、それは確かに同じ物に見える。ハルファだけじゃない、ローウェル、スピラ、レイ、ミル、サリィ、そして、廉君。それぞれから小さな光が抜け出て、僕から出た光を核に集まっていく。光はぐんぐん強くなって、眩しくて目が開けられないほどだ。


 最後にチカリと輝いて、眩い光は幻のように消え去った。そして――――


「お、おお、なんじゃ? 儂は……蘇ったのか?」


 物言わぬはずのピエロの像が、ゆっくりと体を動かしながら声を上げた。

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