44. 強引に押し込む!
理の掌握。支配権の奪い合い。何だか小難しいことのように感じるけど、やってるうちに段々わかってきた。これはあれだ。陣取りゲームみたいなものだね。この空間を僕と銀の頭で奪い合う。自分の色に染め上げた方が勝ち。そんな単純なゲームだ。
――なんだ……なんだ、その力は!
思わぬ反撃に狼狽えているのか、銀の頭にさっきまでの余裕はない。でも、いいのかな。余計なことに気をとられていたら、僕がガンガン塗り替えていくよ。
「じゃあ、次はベエーレさんのカレー屋を再現してみようかな。〈リビルド〉」
趣味の悪い内臓風内装を呪文ひとつでささっと改変。リフォームに使えそうな便利な魔法だよね。まあ、世界を再構成するっていうのが本質的な効果なんだけど。
――潰してやる……潰してやるっ!
おっと、銀の頭が仕掛けてきた。でも、大丈夫。あっちの攻撃は起点がわかりやすいんだよね。どうやら、自分の周囲からじわじわと書き換えることしかできないみたい。僕と違って“世界を呑み込む”ってイメージで改変しているからかな。そんな気がする。
攻撃される場所がわかっていれば対処は難しくない。伸ばしてきた手をぺちっとたたき返す感じだ。上手くいけば、相手の空間改変を阻止できる。そうなると塗り替えの手間がかからないので、こっちの負担はほとんどない。
一方で、僕は自由に塗り替える位置を選べる。銀の頭からするとランダムにターゲットとされる場所が変わるから待ち受けて阻止するってことが難しいんだ。
というわけで、僕に有利な戦いなんだよね。向こうの空間改変はほぼ無効化され、一方で僕の改変はほぼ成功するんだから。その繰り返しで、この空間はほとんどが僕の支配するところとなった。苦しげだったみんなも、調子を取り戻している。
ハニワナイトも絶好調だ。どうやら僕が支配権を奪った領域において、僕の創造物はパワーアップするみたい。逆に銀の魔物は不調に陥る。どちらも劇的な効果はないけど、均衡状態では僅かな差が勝敗を決するんだ。一時は押されていたハニワナイトたちも、僕の支配領域が半分以上になった時点で銀の魔物に対して優位に立った。そして、今、両者の戦いは完全にハニワナイトが優勢だ。まだギリギリで銀の魔物が踏ん張っているけど、きっと長くは保たないだろうね。どこか一カ所でも崩れれば、勝敗の天秤は一気にハニワナイトの勝利へと傾くはずだ。
「もう終わりだよ!」
ここで追い打ちのパンドラギフトだ。ハニワナイトよりもさらに大きな……今度こそ正真正銘の巨大ロボを召喚する。デカいの出ろと念じながら開封した箱から飛び出してきたのは、ピカピカ輝くフォルムの巨大な人型だ。土色とは明らかに違う光沢。凹凸の少ないのっぺりボディではない。ついに、僕は埴輪以外のゴーレムボディを出すことができたんだ。でも……
「何で、大仏!?」
出てきたのはくるくる丸まった髪が特徴的な大仏様だった。全てを見通すようなアルカイックスマイル。座禅を組んだ状態から、妙にぬるぬると動き出した。その全長は、銀の頭を優に超えている。
――ぐっ……なんだ!?
――私たちを、浄化しようというのか!
流石は大仏様って言えばいいのかな。存在しているだけで、浄化効果があるみたい。銀の頭や魔物たちが苦しみだした。
――させん……させんぞ!
それでも抵抗しようというのか、銀の頭が髪の毛をうねうねと伸ばして、大仏様を絡め取ろうとする。
だけど、無駄だ。大仏様はいとも簡単にそれを打ち払う。そして、邪魔だとばかりに髪の毛を引きちぎりはじめた。
もはや戦いは一方的なものになっている。大仏様の浄化の力で、銀の魔物は滅んでしまった。本体は健在だけど、大仏様相手に為す術もない。
だけど、それでも銀の頭は諦めない。
――む、無駄だ! あちらに繋がっている限り、私たちの力は尽きることはない!
――先に力尽きるのはお前たちだ!
うーん、この状況でよく強がれるよね。さっきからずっと大仏様に髪の毛毟られ続けているのに。
とはいえ、毟っても毟っても生えてくるので、異界から力を補充できるのは間違いないみたい。自己申告通りの無尽蔵ってことはないと思うけど、このまま毟り続けるだけでは長期戦になりそうだ。そこまで付き合ってはいられないよね。
だったら、こちらと異界との繋がりを断ち切ってしまえばいい。起点となっているのは、銀の頭の真下にある大穴。あの場所だけは、銀の頭も死守しているってわけ。穴を塞ぐには銀の頭をどかす必要があるけど……面倒だし、そのまま異界に送り返してしまおうかな。
「よし、大仏様! その頭を穴に突き落として!」
返事はないけど、僕の指示は伝わったみたい。髪の毛をひっぱるのをやめた大仏様は、組んだ両手を振り上げて、思いっきり銀の頭に振り下ろした。激しい衝撃に銀の頭が沈み込む。一回で、全体の半ばまでが穴に沈んだ。
「大仏様、そのまま押し込んで!」
無言のまま大仏様が指示を遂行する。左手で頭を抑えて、右手の拳をドン、ドンと振り下ろした。
――やめ……やめろぉぉおおお!
必死の抵抗を続ける銀の頭。当然だけど、大仏様は取り合わない。そして、ついに、銀の頭が完全に穴の中へと消えた。
今だ!
「〈リビルト〉」
すかさず再構成の魔法を唱えた。ぽっかりと空いた大穴がぐいっと縮まる。完全には塞がらなかったけれど、代わりに小さくなった穴を塞ぐ形で丸い金属板がすっぽりはまった。マンホールの蓋みたいなヤツだ。
「〈リビルト〉」
それだけだと不安だったので、さらに空間改変。マンホールの蓋が開かないようにコンクリートで補強する。がちがちに固めたからそう簡単にはこじ開けられないはず。さらには――
「大仏様、その上に座ってて!」
僕の指示を受けて、大仏様がコンクリートの台座の上で座禅を組んだ。
これでよし!
異界に繋がるゲート、封印完了だ!
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