46. 僕たちの冒険はこれからだ(最終回)

『本当に……? 本当に父様なのですか!』


 恐る恐ると言った様子で尋ねるのは、ガルナだ。


「お? おお、その気配はガルナラーヴァか。どうしたのだ、その姿は。なんでまた猫の姿に」


 そう言う推定創造神様は、ピエロのままだけどね。でも、そんなこと関係なくガルナは飛びついた。


『本当に父様だ! 父様、良かった……良かった!』

「おやおや。本当にお前は甘えん坊だね」

『そ、そんなことはありません!』


 ガルナの喋り方が普通だ。ちょっと違和感があるね。


「ち、父上なのですか?」

「まさか本当に?」


 精霊神様と幸運神様が信じられないという様子で問いかける。それに対して創造神様は穏やかな笑みを浮かべた。


「アステリオンとルーライナか。久しぶりだな。まさかこうして再会できるとは思わなかった」

「では、本当に!」

「おかえりなさい、お父様!」

「「「おかえりなさい!」」」


 気がつけば、周囲にはたくさんの人影。全然見たことがないけれど、気配でわかる。みんな神様だ。


 そうか、これが神気なんだね。創造神様の力が失われたせいか、はっきりと感じられるようになったみたいだ。


 次々に現れる神様たちは、代わる代わる創造神様に挨拶をしていく。感動的な光景なんだけど、その中心にいるのは見覚えのあるピエロなんだよね。


「瑠兎……」


 廉君が恨めしげに見てくる。いや、まあね。あのピエロの元を知っている僕らからすると違和感が凄い。


「こんなことになるとは思わなかったから」

「まあ、僕ら以外はそれほど気にしてないみたいだけどさ……」


 神様たちはみんな嬉しそうだ。


「廉君はいかなくていいの?」

「僕は面識ないしね」


 廉君が肩を竦める。それもそっか。


「ねえ。これでトルトは神様にならなくていいんだよね?」


 抱えたままだったハルファが、ちょんちょんと僕の肩をつついた。その顔には不安と期待。もう僕に宿っていた神気はすっかりと消え失せていると思うんだけど、それでも確信が持てないのかな。


「大丈夫だよ。ねぇ……って、あれ?」


 同意を求めようとして気がついた。廉君からも神気が消えてる。


「ああ、これ? 瑠兎と一緒だよ。さっきのアレで僕からも神の力が抜けたみたい」

「ええ!? 大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫! 神ではなくなったってだけで、体に異常はないよ」


 爽やかな笑顔でひらひら手を振る廉君。神様じゃなくなったなんて大事だと思うんだけど、気にしてはないみたい。むしろ困惑しているのはシロルだ。


『ラムヤーダス様、神様じゃなくなったのか?』

「そうだよ。僕のことはレンって呼んでね。もう神じゃないから」


 しゅたっと手を上げて、アピールするレン君。みんなは戸惑い気味だけど、神気を感じなくなったせいか、“神ではなくなった”という事実は意外とあっさり受け入れられたみたい。


『だったら、僕はどうなるんだ? 僕はラムヤーダス様の神獣だぞ?』

「あ、そうだったね。すっかり瑠兎のペットみたいになってたから、うっかりしてた」

『えぇ!?』


 レン君のあんまりな言葉にシロルが固まる。それをごめんごめんと撫でつつ、レン君が続けた。


「まあ、今まで通りでいいじゃない? 神獣ではなくなったけど、シロルはシロルだよ」

『お、おお? そうだな! 今まで通りでいいなら問題ないぞ!』


 シロルもシロルで、神獣じゃなくなったことを気にしてないみたい。まあ、そんなものかもね。僕らだって、神獣だから一緒にいるわけじゃない。シロルだから、一緒にいたいんだもの。


「あ、それでね。僕、神じゃなくなったから、行くあてがないんだ。だから、瑠兎……トルトのパーティに入れてよ。しばらくはお荷物だろうけど、修行して強くなるからさ」

「本当!? もちろん歓迎するよ!」

『おお、ラムヤーダス様も一緒か!』

「レンだよ。レン!」


 なんとレン君が仲間になった!


 うれしいな。前世でも一緒に遊ぶこともあったけど、僕は大抵ベッドの上だった。でも、これからは一緒に冒険できるんだ。いろんなところを旅して、一緒に笑い合うことができる。こんなことができるようになるなんて思わなかったよ。


 勝手に決めてしまったけど、レン君のパーティ加入はみんなにも歓迎された。スピラとローウェルも以前から面識があるからね。


「にぎやかになりそうだな」


 レイが少し寂しそうに笑う。彼はキグニルの代官だ。僕らと違って、気軽に冒険に出かけるわけにもいかない。それでも、僕らは仲間だ。僕はそう思う。


「いつか暇ができたら、レイたちも一緒に行こうよ」

「そうだな。いつかきっと」


 力強く頷くレイ。うん、いつかきっと。


「ところで、いつまでそうやって抱えているつもりなの?」

「ハルファちゃん、今日は甘えん坊だね」


 レイを押しのけて、今度はミルとサリィが話しかけてきた。僕にって言うより僕とハルファにだね。どうやらからかわれているみたい。恥ずかしがって飛び退くかと思いきや、ハルファは僕の服を掴んで縋り付いてきた。


「今日はいいの! 今日だけだから!」

「あらら」

「ふふ、仲良しさんだね~」


 まあ、心配かけたしね。ハルファがそうしたいっていうなら、そのままでいいか。


「あの光はなんだったんだろうな……」


 ふとローウェルが呟いた。引き継ぐように、スピラが口を開く。


「パンドラギフトを開けたときの、だよね。トルト君ほど大きくはなかったけど……みんなの体からも出たよね?」


 ハルファ、レイ、ミル、サリィが頷いた。やっぱり、そうだったんだ。気のせいじゃなかったみたい。


「あれはね、きっと創造神の力の欠片だよ」


 推測を口にしたのはレン君だ。みんなの顔を見回して続ける。


「トルトや僕ほどではないにしろ、ここにいるみんなは僅かなりとも創造神の力を宿していた。きっと、その力が僕らをここに導いたんだ」

「それって私たちがこうして集まったのは、運命に定められていたってこと?」


 何とも言えない表情でスピラが尋ねる。全ては運命によって定まっている……なんて言われたら、もやっとするよね。その気持ちはわかる。だけど、レン君はそれを笑って否定した。


「それは違う。運命は切り拓くものだよ。決めるのはあくまで自分たち。ただ、あの力はほんの少し手助けをしてくれたんじゃないかな」


 レン君が優しく微笑む。元運命神が言うんだから、きっとそうなんだろうね。


 ただまあ、ここまでの冒険が運命によって定められていたのだとしても、僕は感謝したい。だって、こうして素敵な仲間に出会えたんだもの。


 それに僕らを導いていた光はもう消えてしまった。仮にこれまでが運命だったとしても、ここからはそうじゃない。


 つまり――――僕たちの冒険はここからはじまるってことだ。





 どこかの森の中。のんびりと進む冒険者の一行がいました。


『トルト、イガイガがたくさん落ちてたぞ! これ、食べられるのか?』

「あ、栗だ! どこに落ちてたの?」

『お、食べられるんだな? 向こうだぞ!』

「たくさん拾わなくっちゃ」

「私も手伝うよ」

「ありがとう、ハルファ」


 白くてもふもふの獣、それに仲睦まじい黒髪の少年と翼人の少女。彼らは森の中で栗に出会いました。美味しい物に目がない彼らです。たくさん拾おうと、みんなで駆け出しました。


 少し後ろから、その様子を窺う三人。黒髪少年と翼人少女を見守っていた精霊少女がやきもきとした様子で頭を振ります。


「ああ、もう。せっかく二人にしてあげたのに。シロルってば」


 その言葉を聞いた森人青年が苦笑いを浮かべました。


「何かと思えば、これはそういうことだったのか」


 只人のような、そうでないような、不思議な雰囲気の少年も頷きます。


「突然二手に分かれようなんて言うから、何事かと思ったよ」


 二人の反応に呆れの色を感じ取った精霊少女。だって、と抗議の声を上げます。


「このまま放っておいたら、あの二人、いつくっつくかわからないもの」


 不服そうに唇を尖らせる精霊少女。森人青年と不思議少年は顔を見合わせます。


「と言ってもな。二人ともまだ若いんだ。別に焦ることはない」

「お兄のそれは森人感覚だって。只人も翼人もあっという間に成長するんだからね!」

「いや、それにしたって急ぐ必要はないだろ」

「むぅ」


 森人青年に頭をポンポンと撫でられ、精霊少女はますます不服そうに唸りました。そこに不思議少年が疑問を投げかけます。


「そもそもトルトとハルファは恋人として付き合うつもりがあるの?」

「ハルファちゃんは絶対そうだよ! トルト君はわからないけど……」

「トルトはまあ、完全に妹として見てるよね」

「……やっぱり?」

「間違いなく」


 きっぱりと断言する不思議少年。精霊少女は肩を落としました。がっくりです。


「そんなぁ。ハルファちゃんが報われないよ……」

「あくまで今の段階はって話だけどね。先のことはわからないよ」

「そうだよね!」


 たちまち元気を取り戻した精霊少女にたじたじになりながら、不思議少年は頷きます。我が意を得たりとばかりに精霊少女が拳を突き上げました。


「そういうことだから二人も協力して。トルト君とハルファちゃんを恋人にする計画に!」


 それでも二人は乗り気ではありません。森人青年が諭します。


「スピラ。これは余計なお世話、というヤツではないか」


 不思議少年も頷きます。


「そうだよ。こういうのは干渉するべきじゃないって。変にこじれたらどうするの」

「でも……」


 精霊少女は思うのです。大好きな二人には幸せになって欲しい。これだけ仲の良い二人です。一緒になるのがきっとお互いにとって幸せなことなのだと。


 その気持ちを汲んだ不思議少年がふわりと笑いました。


「大丈夫だって。だってさ、二人が一緒にいないところなんて想像できる?」

「え?」


 言われて、精霊少女は考えました。翼人少女が困ったり悲しんだりしたとき、黒髪少年はきっとすぐに駆けつけるでしょう。そして“大丈夫?”って微笑むのです。想像の中の二人はいつでも一緒です。


 二人だけではありません。自分も、森人青年も、不思議少年も。みんなでニコニコ旅をするのです。何が起きても、きっと。みんなで力を合わせれば、どんな困難でも乗り越えられる。そんな未来を思い描くのは難しくありません。だって、いつだってそうやって来たのですから。


「ね、大丈夫そうでしょ」

「そうだね!」


 不思議少年の言葉に素直に頷けました。どんな形になるかわかりませんが、きっと二人は……そして自分たちはずっと一緒です。


「スピラちゃ~ん! 一緒に栗拾いしようよ~!」


 翼人少女が手を振って精霊少女を呼んでいます。隣にはニコニコ笑顔の黒髪少年。やっぱり、二人が離ればなれになるところは想像できません。


「ほら、呼んでるぞ」

「行っておいでよ」

「うん!」


 森人青年と不思議少年に背中を押され、精霊少女は走り出します。




 それは何でもない日々のできごと。だけど、その積み重ねを幸せと呼ぶのです。これからも彼らはニコニコ笑って過ごすことでしょう。楽しいことも、ときには悲しいことも乗り越えて。


 めでたしめでたし。


---

ここまで読んでくださってありがとうございます!

本作はここで完結となります。


ちなみに豪運少年トルト君は創造力を失っても豪運のままです。

さすがにパンドラギフト開封で好きなもの召喚とかはできなくなりますし、

流石に以前ほどの豪運ではないですけど、カジノにとっては天敵のまま。

信じられないほどの強運を発揮しつつも、仲間たちには「控えめになったね」と言われ、周囲からは驚かれるというのが定番のやりとりですね。

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転生したら奴隷だったので人生絶望的かと思ったけれど豪運スキルをきっかけになんだかんだうまくやれてます 小龍ろん @dolphin025025

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