本気を見せてやる
何で僕らをバンデルト組だと判断したのかなと思ったけど、考えてみれば当たり前だった。僕らは元賊の面々を連れて歩いているからね。砦を通過するには都合が良かったけど、この村では逆に悪感情を抱かせる結果になってしまったみたいだ。
どうやって、誤解を解こうかと考えていると、ベエーレさんが任せろというように僕の肩を叩いて、お爺さんに声をかけた。
「おいおい、俺をバンデルト組と見間違えるとは、いよいよ耄碌したか?」
「ベエーレか。お前もいたとは……小さくて見えなかったぞ」
「それは残念だな。目まで衰えてしまったのか。余生は精々養生しろよ」
「抜かせ!」
モヒカンお爺さんはベエーレさんと顔見知りだったみたい。お互いに言葉は友好的とはいえないけど、表情からは険しさが薄れている。
「で、何故、お前がバンデルト組の連中とつるんでいる? まさか、奴らに尻尾を振ったわけではないだろうな」
「まさかだな。コイツらは、足を洗ったのさ。今では俺の部下兼従業員だ」
さりげなく、元賊の人たちを部下扱いするベエーレさん。だけど、元賊の人たちも満更ではないみたい。いつの間にか、しっかりと上下関係が築かれているんだよね。
鈍器片手にニコニコ笑うピノが鞭役で、ピノから彼らを庇いつつカレー屋の展望を語るベエーレさんが飴役。その役割分担で彼らの心をしっかりと掴んだんだ。そういう意味ではピノの貢献も大きい。でも、彼女に指示を出していたのもベエーレさんだったりするんだよね。つまりは、マッチポンプなんだ。
……まあ、誰も損してないから悪いことじゃないよね。
ベエーレさんの人心掌握技術はなかなかのものだということにしておこう。
「こいつらが従業員? 馬鹿な真似をしたものだ。奪うことしか頭にない連中が、そう簡単に足を洗えるわけがないだろう。いつか後悔することになるぞ」
ベエーレさんは誇らしげにしているけど、モヒカンお爺さんは納得していない。よほど、バンデルト組に対する鬱屈が溜まっているんだろうね。すぐに関係改善とはいかないか。
だけど、ベエーレさんはモヒカンお爺さんの懸念を笑い飛ばした。それどころか、びしりと指を突きつけて宣言する。
「それはどうかな、デンデ爺。あんたに、コイツらの本気、見せてやるぜ!」
「何?」
モヒカンお爺さん――デンデさんが怪訝な表情でベエーレさんを見る。いや、事態についていけないのは僕らのパーティーも同じだ。ハルファもスピラもポカンとしている。
だけど、すぐにベエーレさんの言わんとすることを理解した人たちもいるんだよね。それが、元賊の人たちだ。彼らは興奮した様子でベエーレさんに声をかけている。
「ついにお披露目ですか!」
「おう! ジェスター、頼むぞ!」
「任せてくだせえ!」
ジェスターっていうのは、元賊たちのリーダーだ。何というか、彼が一番従順なんだよね。ピノの鈍器攻撃の直接の被害者だからかな。
彼らがお披露目というからには、披露するのはカレーだろう。だけど、当然ながら、彼らが材料を持っているはずがない。必然的に彼らの視線が僕へと集まる。ただ見られているだけでも、20人ほどとなると、なかなか圧を感じるよね。
「あ、材料だね。はいはい。でも、これで最後だよ。もう残ってないから」
素直に出してあげると、“ありがとうございます!”と声を揃える元賊――いや、従業員たち。かなり大きな声だったから、ひょっとしたら村中に響いたかもしれない。何ごとかと顔を出す村人が増えたような気がする。
「すまんな! 材料はちゃんと倍にして返すから」
『絶対に返せよ! 絶対だぞ!』
「わかったわかった。食い意地の張った奴だな」
『大事なことだぞ!』
謝罪するベエーレさんには、僕の代わりにシロルが答える。思念伝達で話せることはバレてしまったんだよね。
実はカレーの材料を提供するのはこれが初めてではない。カレー店を出すための訓練がしたいというので、僕が材料を使いながら指導もしてたんだ。当然、カレーの材料はかなりの勢いで消費される。それに我慢できなかったシロルが、抗議の声を上げちゃったんだ。
従業員たちは驚いていたけど、ベエーレさんは面白そうに笑っただけだった。一緒にいればシロルが賢いのは見てわかるし、僕らもついつい話し掛けちゃうからね。喋れることも察してたんだと思う。
「ベエーレさん、カレー屋さんやるんだ?」
「私たちもアイスクリーム作ろうよ、ハルファちゃん」
「私もそう思ってたところだよ、スピラちゃん!」
カレー作りの準備が着々と進む中、ハルファとスピラが名案とばかりに頷き合った。彼女たちは、アイスクリームが大好きだからね。食べるのはもちろん、人に振る舞うのも。だから、こういう機会には嬉々として参加しようとするんだ。
「ご主人様は何か作らないの~?」
『そうだな! トルトも何か作るといいぞ!』
ハルファたちの様子を微笑ましく見ていると、食いしん坊コンビのピノとシロルが声をかけてきた。言葉にはしてないけど、アレンたちも期待するような目でこちらを見ている。
「あはは。そうだね。何か作ろうか」
その期待に負けて、僕も参加することにした。料理を振る舞うのは嫌いじゃないしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます