モヒカンのある風景

 銀混じりの魔物との遭遇戦以降は特に問題なく、僕らはアルビローダへの潜入を果たした。いや、潜入と言うには、ちょっと堂々としすぎてるかな?


 アルビローダへの正規ルートには、討伐軍の侵攻を警戒して簡易的な砦で守りが固められている。その他にも、人が通れそうな道は見張りが立てられているんだって。


 だから、当初は険しい崖を強引に上って潜入するつもりだった。予定を変更したのは、元賊の人達がベエーレさんの説得によって協力してくれることになったからだ。彼らは、砦を守るごろつきたちと知り合いらしい。そのおかげで、砦の先へと進むことができたんだよね。ボロ切れを被って浮浪者のような姿に偽装していたとはいえ、僕らのことは一切咎められなかった。


「まあ、それだけバンデルト組の勢力が強まってるんだろうな」


 ベエーレさんはそんなことを言っていたね。ちょっと複雑そうな表情だった。


 さて、潜入さえしてしまえば、警戒度はぐんと下がる。全域をしっかりと監視するなんて不可能だからね。不用意にバンデルト組の重要拠点に近づかなければ、騒ぎになることはないだろう。もちろん、変な目立ち方をしなければ、だけど。


 砦を越えてからは、ベエーレさんの先導で進む。目指す先は、彼が懇意にしているという村だ。行商として何度も訪れたことがあるお得意様らしい。


 正面から潜入したことはないはずなのに、ベエーレさんの足取りは淀みない。本人が言うには、なんとなく方向がわかるんだって。種族特性なのかな? 旅好きの草人なら、何となく納得できる気がする。


「見えてきたな。あの村だ」


 やがて、たどり着いたのは、何の変哲も無い……というのはちょっと難しいけど、まあそれなりの規模の村だ。


「あ! あの髪型だ」

「本当だ。あっちの人もそうだよ」


 ハルファとスピラが話している髪型というのは、モヒカンのこと。今まで幾つかの街を訪れたけど、ティラザと戦っていた冒険者以外には見たことがなかった。それなのに、この村ではモヒカンスタイルの住人が少なからずいるんだ。十人に一人くらいだけど、それでも他の場所ではまったく見ないわけだから、立派な特徴といえる。


「思ったよりも平和そうだな。だが、やはりモルブデンの連中は少ない、か」


 村の様子にベエーレさんは少し安心したみたい。バンデルト組が支配力を強めたことによって、穏健派の村々に悪い影響が出ていないか心配していたからね。今のところ、大きな問題はなさそうだ。


 とはいえ、懸念もあるような口調だね。モルブデンって、何かな。


「モルブデン組は、アルビローダの有力な組織のひとつ……だったところだ」


 疑問が表情に出ていたのか、ベエーレさんが説明してくれた。


 それによると、モルブデン組はアルビローダの中では数少ない真っ当な倫理観を持つ組織だったみたい。武闘派ではあるけど義を重んじる人たちで、周辺国への略奪行為に反対する筆頭的な立場だったようだ。


 当然ながら、略奪や侵略に躊躇いがないバンデルト組とは対立関係にあったそうだ。バンデルト組が勢力を拡大した以上、モルブデン組は少なからず被害を受けているはず。ベエーレさんはそう思っていたみたい。村の様子を見て確信を持ったというところだろう。


 ちなみに、モルブデン組の戦闘員を見抜くのは簡単だ。彼らは、とある特徴的な髪型で己の立場を明確にするんだって。それが、モヒカン。ベエーレさんが、村を見てすぐに状況を判断できたのは、モヒカンのおかげってわけだね。


「まずは情報収集か」

「そうだね。バンデルト組の勢力がどのくらいまで広がっているのか。それと、彼らの管理下にないダンジョンが存在するのか。それが知りたいかな」


 ひとまず、みんなでこれからの行動指針について相談する。

 僕らの目的はアルビローダに新しくできたというダンジョンについて探ることだけど、実はダンジョンについての情報は結構集まっている。元賊の人たちが知っていたからだ。


 彼らが言うには、新しいダンジョンには例のカルト教団、エルド・カルディアが関わっているみたい。詳細は知らないらしいけど、エルド・カルディアが何らかの手段でダンジョンを作り、それを利用してバンデルト組は力をつけていったそうだ。そのせいで、新しいダンジョンは基本的にバンデルト組が管理しているらしい。


 そんなわけで、迂闊にダンジョンについて調査するわけにもいかないんだよね。いざとなれば強引に潜入することになるだろうけど、その前に情報収集くらいはしておく必要がある。


 排他的な村だと話を聞くのもひと苦労だけど、こちらにはベエーレさんがいる。顔見知りの住人もいるはずだし、情報が集まるかどうかはわからないけど、話は聞けるだろう。


 と、方針が決まったところだった。


「お前ら、バンデルト組の者だな! 何をしにきた!」


 突如、怒鳴り声を上げて、こちらにやってきたのは一人のお爺さん。とはいえ、弱々しい雰囲気は全くない。その頭には、白髪ながら立派なモヒカンが鶏冠とさかのようにそびえ立っていた。

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