カルト教団の影

 銀混じりの魔物は面倒だけど、そこまで強敵という感じでもなかった。スピラの氷蔦で拘束してから、みんなで総攻撃すれば、向こうは体の維持で攻撃に手が回らなくなる。倒すのに時間は掛かるけど、厄介なのはその程度だ。とはいえ、そう感じるのはベースになった魔物があまり強くなかったせいかもしれないけど。


 結局、こちらが受けた被害は埴輪ゴーレムが二体壊されただけ。それも魔法で復元できるから、実質的な被害はなしだ。


「ちょっと気持ち悪かったね」


 快勝と言ってもいい結果だけど、ハルファは顔をしかめている。とはいえ、その気持ちはよくわかった。言葉にこそ出していないけど、みんな同じ気持ちだと思う。


 異形へと姿を変えながらも戦い続ける様子は怖気を誘うものがあったし、何より奴らの最期がまた不気味なんだ。


 ダンジョン外の魔物は、通常ならば死骸が残るはず。だけど、銀混じりたちは違った。損傷率が高くなると、奴らは肉体が維持できなくなるみたいなんだよね。ダメージが蓄積すると、突然、ドロリとした銀色の液状へと姿を変える。そして、黒く変色しながら縮こまっていき、最終的には塵になって消えるんだ。


 肉体の欠片すら残さず、銀の異形に浸食されて、消えていく。魔物とはいえ、哀れに感じちゃうね。


「異形の奴らは消滅したのか?」


 奴らの死骸が消えた場所から視線を外すことなく、ローウェルが問うた。彼はまだ警戒を緩めていないみたい。たしかに、異界の兵たちは、この世界の魔物たちとは性質が違いすぎる。依り代の肉体が滅んだからといって、油断するのは早計かもしれない。


 問われたガルナは目を瞑って、異界の兵の気配を探っているようだ。しばらくして、小さく頷いた。


『……どうやら消滅したようだ。もう気配を感じぬ。依り代が消滅すれば、奴らはこちらに干渉する手段を失うようだな』

「そうか」


 ガルナの返答を聞いて、ローウェルもようやく構えを解いた。これで本当に戦闘終了かな。


「依り代を消滅させれば、異界の兵を倒せるってわかったのは良かったね」

「そうだな。姿を消したまま潜伏されると厄介だからな」


 ローウェルと話していると、そこにベエーレさんがやってきた。その表情は険しい。今の戦いを見たせいかなとも思ったけど、そういうわけでもないみたい。


「お疲れさん。ちょっといいか?」

「どうしたんですか?」

「ああ、アイツらがちょっと気になることを言ってたんでな。あんたらにも共有しておいた方がいいだろう」


 アイツらというのは、元賊の人達のことだね。彼らは銀混じりの魔物を見て、酷く怯えていた。それ自体おかしな反応ではないと思うけど、ね。


 気になるのか、パーティーメンバー全員が寄ってきた。ガルナもだ。みんなの聞く準備が整ったところで、ベエーレさんが語りはじめる。


「アイツら、さっきの化け物たちが、自分たちに差し向けられた刺客だと怯えてたみたいだ」


 なるほど。元賊の人達があれほど怯えていたのには、そういう事情もあったのか。でも、何で、銀混じりの魔物が刺客だなんて思ったんだろう。


 似たような疑問を抱いたのか、スピラが首を傾げて言った。


「え、なんで? あの人たち、銀の魔物を知ってたの?」

「いや、そういうわけでもないらしい」


 それもまた変な話だ。未知の存在を自分への刺客だと思い込むとなると、被害妄想が強すぎる。こんなことを言うと何だけど、あの人たちがそれほどナイーブな心を持っているとは思えないんだよね。


 とはいえ、話はまだ途中。今の段階で話が読めないのも当然のことだ。視線で話の続きを促すと、ベエーレさんは頷いて口を開いた。


「アイツらの心当たりっていうのは、エルド・カルディアという組織らしい」

「エルド・カルディア?」


 初めて聞いた名前だ。他のみんなも、視線を合わせるとふるふると首を横に振った。誰も知らないみたい。


「まあ、そうだろうな。元々はアルビローダで細々と活動していたカルト教団だ。“今の間違った世界を作り直すために、一度破壊しなくてはならない”というヤバい連中でな」


 世界を破壊しようだなんて危険思想だ。真っ当な国には受け入れられないだろう。アルビローダで活動していたというよりは、他では活動できなかったというのが本当のところかな。


「そのエルド・カルディアというのが、どう関係するんです?」

「最近、アルビローダでバンデルト組が外部組織の力を借りて勢力を伸ばしているって話は聞いただろ。実はその外部組織っていうのがエルド・カルディアのことだったらしい」

「それで?」

「協力関係にある組織だ。当然、多少の交流はある。それで、幹部連中の姿を何度か見たことがあるらしいんだが――――そいつら、体の一部が銀化していたそうだ」


 ……それはまたきな臭い話だね。


 それだけで、銀混じりの魔物との関連を断定するのは早計だと思うけど、嫌な予感を覚えずにはいられない。シロルでさえ、げんなりとした表情をしている。


「まあ、アイツらへの刺客ってことはないと思うがな。言っちゃあなんだが、わざわざ下っ端連中の動向なんて監視していないだろうし、刺客を差し向けられるほどの重要なポジションでもないだろう。ただ、教団との関連はないとも言えん。一応、覚えといてくれ」


 そう言ってベエーレさんは話を締めくくった。


 銀混じりの魔物にエルド・カルディアというカルト教団か。アルビローダに出来たっていうダンジョンと、何か関係があるのかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る