ランクは後からついてくるもの

 第三十階層はごつごつした岩場が続く歩きづらい地形。しかも、ところどころに溶岩溜まりがあるので非常に危険だ。その影響もあってか、他の階層に比べて温度が高い。耐えられないほどではないけど、じわじわと体力が奪われるんだ。こまめに水分補給しないと脱水症状で倒れることになるだろうね。


 一応、耐熱ポーションは幾つかあるんだけど急なことだったので数が十分じゃない。最短経路で階段に向かうにしても、途中で足りなくなるのはわかりきってるから、結局は使わずに行動している。


 ゴーレム式飛行船を使えればよかったんだけどね。巨鳥に壊された骨組みは修理したけど特に補強したりはしてないそのままの状態だ。ラーチェさんだけならともかく、マッソさんまで乗り込んだらゴンドラがぎゅうぎゅうのすし詰め状態になってしまう。それに、この階層では飛行型モンスターが出る。飛行中に襲われて溶岩溜まりに墜落するようなことになったら無事では済まない。そんなわけで僕たちは岩場に苦戦しながらも徒歩で進んでいる。


 魔物に関しては、思ったよりも危なげなく戦えている。Aランクの魔物にはまだ遭遇していないしね。


 一番多く遭遇するのはロックマジロ。岩のように見える堅い甲羅を持ち、火を吐いて攻撃してくる厄介な相手だ。ただショックボイスの通りがいいので、ハルファが大活躍している。ついで、脱水魔法のディハイドレイトがよく効く。シャドウリープで距離を詰めて、背後からディハイドレイトを使えばわりと簡単に倒せるので、僕らには相性がいい。


 面倒なのが、デビルイーグル。上空からの急襲は発見しにくいし、対処もしづらい。しかもヒットアンドアウェイですぐに空に逃げてしまうから攻撃も難しい。ただ、何故か背の高い人を優先的に攻撃するらしくて、狙われるのはほとんどマッソさんかローウェルだ。二人なら攻撃を上手く捌けるので問題はない。むしろ、攻撃をいなされたデビルイーグルが硬直している隙にスピラが蔦で拘束するという戦法を確立してからは苦戦しなかった。


「お前たち、Cランクじゃなかったかニャ~? 完全にランク詐欺ニャ! これだけ戦えるんならさっさと連れてくればよかったニャ!」


 僕たちの戦いぶりを見て、ラーチェさんは呆れたような、それでいて怒ったような声で言った。この階層でも不足ない実力がある、と認めてくれたってことかな。


「ランクはあくまで冒険者としての実績ですから。アイングルナではそうでもないですけど、ダンジョン専門の冒険者だと戦闘力はあってもランクは下位なんてことも珍しくないですよ」

「それはそうかもしれニャいけどニャ~? 前に一緒に探索したときはここまでじゃなかったはずニャ!」


 以前ラーチェさんと行動をともにしたのは、第十階層の転移扉を探したときだね。あのときに比べると、たしかにかなり強くなったはず。邪気転換の指輪はまだ持っていなかったし、ステータス向上薬もまだそんなに量産していなかった。特殊ゴーレムの研究もあんまり進んでいなかった頃だ。


「なかなかの戦いぶりだが、筋肉が足りないな。やはりローウェルを鍛えなければ……」


 マッソさんが何か不穏なことを呟いているけど……まあ聞かなかったことにしよう。ローウェルも気がついているようで、すすすっとマッソさんから距離を取っていた。


 そんな具合に、しばらくは何の波乱も起きずに順調に進むことができた。足場が悪いし魔物も手強い。水分補給にちょくちょく休憩を挟むこともあって進行速度は遅いけどね。それでも、半日かけて階層の中央付近までやってきた。


「……ニャ?」


 先頭を歩いていたラーチェさんが、急に足を止める。後ろからだと表情は伺えないけど、それまでだらんと垂れていた三角耳がピンと立っていた。何かの音を捉えたのかも知れない。


「……どうした?」

「何か戦闘音のようなものが聞こえた気がしたニャ」


 マッソさんが小声で尋ねると、ラーチェさんは自信がなさそうに返事をした。かすかな音が一瞬だけ聞こえたようだけど、すぐにわからなくなってしまったみたいだ。だけど――


「ニャ!?」

『今のは僕にも聞こえたぞ! 戦いの音だ!』


 またすぐに音が聞こえたらしい。今度はシロルにも聞こえたようだ。進行方向から少し右手に外れた方向にわふと吠えた。僕らには全然聴き取ることはできないけど、ラーチェさんとシロルが言うのなら間違いは無いだろう。


「グレイトバスターズか?」

「わからんニャ! でも、今、この階層付近に他の冒険者はいないはずニャ!」


 第三十階層ともなると、到達できる冒険者はかなり絞られる。アイングルナ全体でも数パーティーらしい。それだけ数が少なければ、同ランク帯の冒険者は全員知り合いって感じみたいだね。探索への協力要請も考えていたラーチェさんは全員の動向を把握しているようだ。


「行って確認してみましょう」

「そうだニャ! ただ、かなり激しい戦いをしてそうニャ。トルトたちは十分に気をつけるニャ。まあ、お前たちの戦いを見る限り、あんまり心配はいらないかもしれニャいけどニャ」


 ラーチェさんから警告を受ける。もしかしたら、ついにAランクの魔物と遭遇することになるかもしれない。


 僕たちは改めて気を引き締めると、音の発生源へと急いだ。

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