4. 夕飯はどうしよう

 そのあとも、おかしな魔物を倒して、色んな食材の確保に勤しむ。


 ランドクラーケンは本当に陸に上がったタコだね。動きが遅いので、距離を取って戦えば、駆け出し冒険者でも充分に倒せる魔物だ。とはいえ、ゴブリンよりは格段に強い。迂闊に近づくとスミを吐かれるし、絡みつかれると振りほどくのは難しい。接近戦を挑むなら、それなりの実力が必要だと思う。


 農家冒険者だとちょっと倒すのは難しいかもしれない。彼らにも倒せるならタコの供給量も増えるんだけどなぁ。そしたら、たこ焼きを普及させるんだけど。いや、むしろ、たこ焼きを流行らせたら、冒険者たちがランドクラーケンを狩るようになるかも。今度、ダンジョン前でたこ焼き屋台でもやってみようかな。


 たこ焼きといえば、材料として小麦粉も必要だ。ここのダンジョンでは、魔物の背中から収穫できる。グラスタートルっていう背中から草を生やした亀の魔物がいるんだけど、ここにはその亜種が生息しているんだ。イネ科の植物を生やすことに特化しているみたいで、小麦だけじゃなくてお米も獲れる。本体に攻撃しない限りは大人しい魔物だから、農家の人たちでも充分に収穫できるんだって。僕らも少しだけ収穫させてもらったけど、その間ものんびり眠っているだけだったね。


 ちょっと手強かったのが、牛系の魔物だ。その名もワイルドホルスタイン。倒すと牛乳――しかも何故か小瓶入り――をドロップする。お菓子作りするなら、確保しておきたい素材だね。


 この階層では珍しく討伐ランクはD相当。駆け出し冒険者には危険な相手だ。そんなリスクを冒しても小瓶の牛乳しか手に入らないから、冒険者からの人気はない。そもそも、酪農を営んでいる地域以外だと、牛乳を飲んだり素材に使うっていう文化がないからね。需要がなければ、狩ろうって人がいないのも当然だ。


 とはいえ、アイスクリームやその他諸々のお菓子の材料になるから、そのうち人気が出るんじゃないかな。ベエーレさんもすでに目をつけているみたいだし。


 僕らの戦力なら倒すのは簡単だ。でも、ちまちま小瓶を集めるのはとても大変。だから、乳搾りをして一気に確保することにしたんだ。ただ、ワイルドホルスタインはとても暴れん坊だから、ゆっくり乳搾りしてる余裕はない。数体のゴーレムで取り押さえて、ゴーレム乳搾り機でスピーディに牛乳を確保した。できれば自動化したかったけど、あまりに暴れるので普通のゴーレムだと壊されちゃうんだよね。まあ、一体で50リットルくらい確保できるから、五体分の牛乳を確保したところで切り上げることにした。


 そのほかにも香辛料や野菜、果物と採取できそうなものは手当たり次第に採取した。気がつけば、周囲が薄暗くなっている。この階層はダンジョンの外と明るさが連動しているので、もう夕方ってことだ。


「張り切り過ぎちゃったかな……?」

『僕はもうお腹ぺこぺこだぞ……』


 食材確保に夢中になって、ついついお昼ご飯も忘れていた。さっきまで一緒になって燥いてたはずのシロルも、空腹を自覚したせいか元気がない。ハルファとスピラも限界みたいで、しきりにお腹をさすっている。


「ご主人、今日はごちそう、お願いね!」

「俺たちがんばりましたから!」

「報酬を要求する。ご飯で」

「お願いします!」


 空腹なのはプチゴーレムズも例外じゃないみたい。君たち、魔力補給さえできれば食事はいらないはずなんだけどな。もう当たり前のように食事するよね。まあ、いいんだけどさ。


 というわけで、僕らは速やかにダンジョンから帰還。ローウェルやガルナと合流して、早速夕飯の準備をすることになった。


『そうだ! タコがあるんだから、たこ焼きをやりたいぞ! ロシアンたこ焼きだ!』

「えぇ? 普通のたこ焼きじゃダメなの?」

『いひひ……せっかくだから、モヒカンたちにも食べさせるんだ!』


 何を作ろうかと考えていたら、シロルがロシアンたこ焼きを提案してきた。たこ焼きを食べたいと言い出すかなとは思ってたけど、まさかのロシアンルーレット方式かぁ。


「いいね、いいね! 賛成!」


 おまけにピノまで乗ってきた。この二人、こういうの好きだよね。以前、アイングルナでやったときには、自分たちが激辛たこ焼きを食べる羽目になったのに……。


 いや、もしかして、だからこそ、かな? 自分たちだけじゃなくて、他にも犠牲者を増やしたいとか。


 僕としては別に構わないけど。食べ物で遊ぶのはよくないって考え方はあるけど、食材を無駄にするわけじゃなければ、わいわい楽しみながら食べるのもアリだと思う。


 ……それに僕の幸運なら、外れたこ焼きにあたることはきっとないし、ね?


 みんなの意見も尋ねてみたけど、特に反対意見はなかった。ローウェルは苦笑いしてたけどね。


「激辛たこ焼きもいいけど、他にも色々な具材を使ってみるのはどうかな?」

「筋肉焼きだね、ハルファちゃん!」

「そうそう!」


 ハルファとスピラは、アイングルナの筋肉冒険者たちがやってた筋肉焼きを思い出したみたい。まあ、名前はともかく、具材を変えて楽しむのは悪くないかもね。どうせだったら、大規模なタコパをやるのもいいかも!

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