5. ジェスター式たこ焼き

 大規模なタコパをやるには準備が必要になる。さすがに、今から準備すると遅くなるし、人も集まらない。というわけで、今日のところは普通に夕食をとって、タコパは明日開催することになった。まあ、それでも充分に突発的だけどね。


 そして、次の日。


 僕らは町長のバディスさんに話を通してから、ダンジョン前の広場に陣取った。冒険者を巻き込んだ大規模なタコパの開催だ。誰でも参加できて、費用も無料。そして、中に入れる具材は随時受け付ける。と言っても、街の人たちはたこ焼きがどんなものか知らないから、具材を持ち込むのは事前に話を通した人たちくらいだと思うけどね。


 開催の挨拶みたいなものも特になく、早速ジュージュー焼き始める。


「お、なんだなんだ?」

「また神が何かしてるのか?」


 ダンジョンに向かう冒険者の大部分が、屋台を見て足を止めた。彼らの言う“神”っていうのは不本意ながら僕のことだ。街にゴッドトルトなんて名前がついちゃったから、あんな風にからかわれるんだよね。まあ、嫌われたり変に距離を取られるわけじゃないから、別にいいんだけど……。


「たこ焼きだよ! 食べていってね」


 手が空いていたスピラが、この催しの説明を買って出てくれた。話を聞いた冒険者たちも面白そうだと、参加を決めてくれたみたい。ここのダンジョンは稼ぎやすいから、みんな余裕があるんだよね。だから、一日くらい活動を休んでも平気なんだ。


 最初の具材は、スタンダードなタコ足。まずは、たこ焼きがどんなものかを知ってもらわないとね。


『ひひひ。普通のはトルトに任せて、僕たちは激辛を作るぞ!』

「ふふふ、そうだね~」


 別の屋台では、シロルとピノが激辛たこ焼きの仕込みに入っている。何故か、こそこそと人目を忍ぶように作業してるね。参加者には外れたこ焼きがあることを知らせるようにしてるから、隠す必要はないんだけどね。


「トルト、こっちは焼けたよ!」

「ありがと! こっちもできた」


 ハルファと僕で焼いたたこ焼きをお皿ゴーレムに乗せていく。ゴーレムといっても、手足がないから歩けないんだけどね。代わりにクリーンの付与魔道具が内臓されているので、食べ終わったら自動で綺麗になる。それを普通のゴーレムが回収すればすぐに使えるんだ。


 とっても画期的……と思ったんだけど、ガルナからは『いや、回収するゴーレムにクリーンを使わせればよいじゃろ……』と呆れられてしまった。確かに、その通りかも。何でもゴーレムにする癖がついちゃってるなぁ。


 まあ、それはともかく。ロシアンルーレット方式にするなら、シロルたちの激辛たこ焼きを待つ必要があるんだけど――……


「あはは! 唐辛子たくさん入れたら真っ赤っかだ!」

『ぬぅ? これじゃすぐにバレちゃうぞ?』

「あ、そうだね。どうしよう……?」


 なんだかしばらく時間がかかりそうなので、今できた分は普通に出してしまおう。せっかく参加してくれた人を待たせるのは悪いからね。


「おお、美味いなぁ!」

「ヤバい……このソース、癖になる!」

「これがランドクラーケンか。意外と悪くないな!」

「うぇ? 本当かよ……?」


 冒険者からの評価は良好だね。といっても、ランドクラーケンの見た目が受け入れられず、食べるのを見送った人も結構いるみたい。ちょっと残念だけど、無理強いはよくない。他にも色んな具材を試すつもりだから、そっちを楽しんでもらえればいいかな。


「師匠、俺たちも参加しますよ」

「あ、ジェスターさん! 参加って、お店ですか?」

「はい。もちろん、無料で提供しますから」


 しばらくすると、ジェスターさんがカレー屋の従業員を連れてやってきた。彼らは食べる側じゃなくて、提供する側で参加するつもりみたい、


「今日はたこ焼きですよ?」

「問題ありません。ちゃんとピノさんから聞いてますから。あ、おひとつどうです?」


 そう言って差し出されたのは、小さくて丸い食べ物。見た目はたこ焼きだけど、この匂いは……?


「もしかして、カレーのスパイスを混ぜたんですか?」

「はい! カレー焼きです!」


 なるほどなぁと思いながら、アツアツのカレー焼きを頂く。カレーの風味が強いけど、食べた感じはたこ焼きとそこまで違いは無いね。中の具材は……お肉の塊! 小さめのサイコロステーキみたいなのが入っている。


「美味しいです!」

「本当ですか! それはよかった!」


 ジェスターさんがニコニコと笑う。強面だけど、ここまで満面の笑みだと、凄みみたいなのは感じない。普通に人の良さそうなおじさんだね。もともと山賊まがいのことをしてたけど、今ではすっかり料理人だ。ジェスターさんを見てると、本当に環境って大事だなって思う。


「ちなみに具材は何でした?」

「え? 肉でしたけど。他にもあるんですか?」

「はい。今日の趣旨は聞いてますんで」


 いろいろな具材を楽しむという趣旨に沿って、ジェスターさんたちはカレー焼きにも幾つかバリエーションを用意したみたい。僕が食べたコロ肉の他に、ニンジン、たまねぎっぽい野菜、芋が入ったのがある。見事にカレーの材料だね。


 お肉が一番美味しかったけど、他の具材も悪くなかった。セットにすると、カレーを食べてるみたいで面白いね。


 ジェスターさんたち、やるなぁ。

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