ボーナスダンジョン?
この遺跡ダンジョンは、キグニルのダンジョンに比べるとかなりこじんまりしている。早朝から探索を始めたとはいえ、お昼前には第一階層のほぼ全域を探索し終えてしまった。残すは少し立派な扉だけだ。周りをぐるっと通路に囲まれているから、この扉の先に階段でもなければ、ここは一階層だけの小規模ダンジョンってことになる。
「このダンジョン、やばいな」
「ああ。どういう扱いになるかわからないが、無制限に開放すれば冒険者が殺到するのは間違いないな」
ゼフィルとローウェルが言うように、このダンジョンの価値は計り知れない。規模が小さいのに、宝箱がよく見つかるんだ。宝箱の出現率が高いんだと思う。今回の探索だけで十個以上の宝箱を見つけたからね。かなり効率がいい。もちろん、他に競争相手がいないからって理由もあるだろうけど。キグニルだと何組もの冒険者たちが探索をしていたけど、この遺跡ダンジョンは僕たちだけしかいないからね。
宝箱の出現率に加えて、魔物の弱さもポイント。この遺跡ダンジョンの探索を始めてから、おおねずみとしか遭遇していないんだ。戦いの相手としては物足りないかもしれないけど、安全に探索出来ることを考えれば大きな利点だ。
駆け出しの冒険者でも安全に探索できて、しかも宝箱の獲得率が高いとなれば確実に人気がでるだろうね。まあ、宝箱には罠が仕掛けられてるから、全く危険がないわけじゃないけど、それでも他のダンジョンとは比べものにならないほど安全だ。今のところ、フロアに仕掛けられている罠もないし。
「しかも、宝箱の質が高すぎるだろ」
「あ、それは……」
宝箱から獲得したアイテムはどれも素晴らしい性能のアイテムだった。例を挙げるなら、魔法弓に破邪の魔剣、軽量化の術式が付与されたチェーンメイルなど。一般的にいえば、どれも大当たりの部類。しかも、これが第一階層で出たんだから、ゼフィルの言うことに間違いはない。間違いはないんだけど……。
「それは、トルトだからだね!」
「わふっ!」
僕の代わりにハルファが説明した。心なしか胸を反らし誇らしげだ。言葉はなかったけど、シロルもそんな感じ。
「ん? どういうことだ?」
「あ、うん。確証はないんだけど……」
そう前置きして、ゼフィルに僕の幸運値のことを説明する。僕の幸運値が高いこと、その影響が宝箱の中身に影響してそうなことを、キグニルでの実例を交えて話した。
「ははぁ、なるほどなぁ! ゴルドディラ100株とかいうとんでもない採取結果も幸運のおかげってわけか。とんでもない奴だな!」
ゼフィルが大笑いしながら、僕の背中をばしばし叩く。加減はしてくれてるんだろうけど、それでもちょっと痛い。
「お前らさえ良かったら俺たちのパーティーに入って欲しいくらいだが……まあ、それは難しいか? お前らみたいなとんでもない奴らが二人で行動しているくらいだからな。何か理由があるんだろ?」
「いや、理由ってほどのことはないんだけどね。ハルファの故郷を探しているから、一か所に長く留まるつもりがないんだよ」
せっかくだから、これまでの経緯と旅の目的を説明する。そして、そのための手がかりとして翼人を探していることも。
説明を聞き終わったゼフィルは、申し訳なさげに首を横に振った。
「そうか。いや、すまねえが、翼人を実際に見たのはハルファが初めてだ」
「そっかぁ」
そうそう簡単に手がかりが見つかるはずないとわかっていても、がっくりきてしまう。そんな僕をゼフィルは明るい声で励ました。
「おいおい、そう気を落とすな。お前の幸運があれば、きっと見つかるさ。なあ、ハルファ」
見れば、ハルファはにっこりと笑顔を浮かべていた。それがどんな笑顔なのかはよくわからないけど、少なくともそこに不安な様子は見えない。前はちょくちょく不安そうな顔をしていた気がするけど、そういえば最近は笑顔しか見ていない気がするね。寂しがり屋なのは相変わらずだけど。
もしかして、僕はちょっとだけ焦っていたのかもしれない。元々、簡単じゃないってわかっていたのに。もっと旅を気長に楽しむくらいの気持ちでいた方がいいのかもしれない。辛い旅じゃなくて、楽しい旅にしたいからね。
「そう言えば、ローウェルもずっと
「あ、いや、俺は……」
話を振られたローウェルは口を濁した。
ローウェルか。『栄光の階』に加入してくれれば頼もしいけど、スピラのことを考えると難しいだろうね。むしろ、即座に断ると思ったけど、何故かローウェルは考え込むように押し黙った。いったい、どうしたんだろうか。
『おい、トルト。いつまで喋ってるんだ? 早く扉を開けよう!』
ちょっと長く話しすぎたかもしれない。退屈したシロルが、思念を飛ばしてきた。たしかに、危険は少ないとはいえ、ここはダンジョン。悠長に雑談をするには相応しくない場所だ。もうお昼時だし、この扉の先を調べ終えたら一旦探索は切り上げることになるだろう。のんびりお喋りするのはその後でいいかな。
「よし、じゃあ、扉を開けるよ?」
「おお、いいぜ!」
ゼフィルを筆頭に、全員異議はないみたいだ。僕はゆっくりと扉を押し開いた。
扉の先は何の変哲もない部屋だ。ボス部屋でもないし、階段もない。せめて宝箱くらい用意してくれてもいいのに。ダンジョンに文句を言っても仕方がないけどね。
「一階層しかないんだ。こんなダンジョンもあるんだね~」
ハルファが部屋を見回しながら言った。
いや、ホントにね。僕もあんまり詳しくはないけど、ちょろっと調べた限りでは一階層だけのダンジョンというのは例がないはず。ダンジョンは成長するらしいから、誕生したばかりのダンジョンなのかもしれない。
「いよいよ、ボーナスダンジョンだな。おおねずみしか魔物がいねえなら、駆け出しどころか一般人が武器なしでも探索できるレベルだぞ」
「いや、宝箱には罠がある。さすがに一般人まで中に入れることはないだろう。むしろ、ある程度立ち入りを制限する必要があるだろうな。宝箱の出現頻度が高いとはいえ、ダンジョン自体の規模が小さい。冒険者が殺到すれば宝箱の奪い合いが起きかねない」
ゼフィルとローウェルが小難しい顔で議論している。
彼らの危惧は僕にも理解できた。楽して稼げるダンジョンなら、みんな探索したいと思うだろうからね。こんな狭いダンジョンに人が殺到したら、大変なことになりそうだ。宝箱がポップした瞬間に周囲の人が一斉に宝箱に駆け寄って、タッチできた人が解錠の権利を得られるみたいな感じになるのかも。それはそれで面白そうだけど。
そんなことを妄想していると、不意にシロルがびくりと身体を揺らした。
『うわっ、何かいるぞ! 魔物だ!』
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