転生したら奴隷だったので人生絶望的かと思ったけれど豪運スキルをきっかけになんだかんだうまくやれてます

便利な鍵の使い方

　さてさて、無事に特殊個体を退治できたわけだけど、肝心のドロップはどうかな？

「おっ、あった！」

　ドロップアイテムはただひとつだけ。だけど、それこそが目的のアイテム。例のショートカットエリアに立ち入るための鍵だ。戦士団でも手に入れた人がいるって話だったから、特殊個体を倒せば手に入るとは予想していたけどね。

　十階層ごととはいえ、転移できるのはやっぱり便利だからね。早めに入手したいと考えていたところだ。このタイミングで入手できたのは幸運だった。

　転移扉を利用するために、第十階層の泉のそばにある野営地まで戻ってきた。ここの野営地はグルナ戦士団の人たちがよく利用するので、マッチョ率が異常に高いんだけど、今日に限ってはあまり見かけない。どうやら、野営地を引き払ったみたいだね。

　まあ、戦士団の人に用事があるわけじゃないので特に問題はない。そのまま野営地はスルーして少し森の奥へと進む。特に目印があるわけじゃないけど、方向はだいたい把握している。目的地が近づくと鍵が光るので、行き過ぎちゃう心配もない。

　無事に目的地についた僕たちは光る鍵を回して転移扉を呼び出した。扉をくぐればそこは幾つもの扉が並び立つ部屋だ。そこまでは想定通り。

　想定外だったのは――たくさんの筋肉に囲まれていることだ！

「取り押さえろ！」

「おお……って、子供ばかりだぞ？」

「とりあえず、あの男は取り押さえるか」

「そうだな。そうしよう」

　僕らを取り囲む筋肉は、グルナ戦士団の人たちだろう。野営地を引き払ってここに来ていたのか。そういえば、マッソさんが、ここを見張るって言っていた気がするなぁ。

　おそらく、転移扉から現れた見知らぬ人物は、洗脳されている可能性を考えて拘束するように指示が出ているんだと思う。それがわかっているからか、ローウェルがあきらめ顔で筋肉にもみくちゃにされている。

　僕にできるのは……少しでも早くローウェルが解放されるように、事態を動かすことくらいかな。

「僕たちは洗脳されていませんよ。マッソさんがいるなら連れてきてもらえませんか？」

「団長の知り合いか？　おーい、誰か団長を呼んでこい！」

「へい！」

　この場の隊長らしき人が一声かけると、ちょっと世紀末っぽい格好の男性が奥へと続く扉を出て行く。ほどなくして、マッソさんを連れて戻ってきた。マッソさん、団長だったのか。

「おお、トルト少年！　そこで簀巻きにされているのはローウェルか！　すまんな、転移門から現れる者は問答無用で捕らえるように指示しているのだ。君たちがここにいるということは、もしや、新たな鍵を手に入れたのか？」

「はい。第十二階層でラッシュボアの特殊個体を倒したら手に入りました」

「……ふむ。声は？」

「倒した直後に出る黒い靄が誰かに取り憑く前なら、ハルファの鎮めのうたで簡単に浄化できるみたいです」

「おお、それは朗報だな！」

　ローウェルが簀巻きから解放されるのを眺めながら、マッソさんと情報のやり取りをする。

　マッソさんの方は導師会にはすでに報告済みで、そちらを通してサザントグルナの他都市への連絡は済んでいるみたい。今は手がかりを集めている段階だ。この空間の調査も行われたそうだけど、残念ながら前回手に入れた走り書き以上の手がかりは見つかっていない。というわけで、この場に張り込んで関係者を捕らえ、情報を吐かせようと考えているらしい。戦士団は導師会の協力要請を受けて力を貸しているそうだ。

「トルト少年らは特殊個体狩りか。先ほどの話を聞く限り、ふさわしい人選だな。もし手に負えないような個体を狩る場合は我が輩らも協力しよう」

「ありがとうございます」

「特殊個体を狩るならば、ここを使えた方が便利だな。君たちのことは団に通達しておくので、以後は拘束されることもないだろう」

　マッソさんが戦士団の人たちに話を通してくれるようだ。ここを利用する度にローウェルが簀巻きにされると困るので助かったね。

　マッソさんと別れたあとは、ダンジョン入り口へと続く転移扉をくぐる。白い靄が立ちこめる通路をアイングルナ方面に進めば、すぐに街並みが見えてきた。やっぱり便利だね。

「えっと、これからどうするんだっけ？」

「まずは、鍛冶屋にいって鋼を精錬してもらうつもりだよ。鋼ができればプチゴーレムズを強化できるからね」

　途中で魚介類確保に走ったけど、今回は鉄鉱石を掘るのが目的だった。目的は達成しているので手に入れた鉄から鋼を作ってもらう必要がある。

「それが終われば、本格的に特殊固体討伐だな」

「そうだね。それと、確かめておきたいこともあるかな」

「ん？　そんな予定はあったか？」

　僕の言葉にローウェルは首を傾げた。

「ううん、鍵を手に入れたときに閃いたんだ」

　特殊固体を倒すと、謎の声が聞こえてきて洗脳されてしまう。そして、おそらく特殊固体は確実に鍵をドロップする。それはつまり、物探し棒で鍵をさがせば、洗脳された人を洗い出せるってことじゃないかな？