お助けアイテムをください
元の姿に戻った幸運神様は精神的にも少し落ち着いたみたい。さっきまでのような強引な勧誘をすることもなく、今は廉君にお説教されてる。
「まったく! 人の使徒を勧誘するなんて、どうかしてるよ!」
「だって~……」
廉君の怒りに首を竦めるような仕草をみせる幸運神様。それでも、不満げな声を上げるあたり、大人しくなったとはいえ反省しているとは言い難い。
そもそも、なんで僕が幸運神様に目をつけられたかというと、カジノのルーレットで大勝ちしたことが原因みたい。
オルキュスは場所柄もあって、幸運神様の信徒が多い。その分、幸運神様の目も届きやすいそうだ。特にあのカジノはライナノーンの名前を冠している。ライナノーンは幸運神様の庭園という意味があるらしいんだ。つまり、僕たちが今いるこの場所のことだね。そういった縁もあり、幸運神様は例のカジノでの出来事をかなり詳細に把握しているみたい。
「私の加護を持つ人間でも、あそこまでの豪運はないわよ。おかしいじゃない。私の領分を侵さないでよ!」
話しているうちに苛立ちが募ってきたのか、幸運神様が声を荒らげる。
なるほど。幸運神様が他の神の使徒を勧誘するなんていう暴挙に至ったのは、幸運を授けるという幸運神の領分が侵害されたと思ったからみたいだ。
これには、廉君も語気を弱めざるを得ない。
「そんなつもりはないよ。まあ、瑠兎の場合はちょっと特殊だから……」
僕の豪運は、廉君との前世の縁が原因である可能性が高い。廉君は相性が良くて加護が増幅されている、みたいなことを言っていた。その辺りのことは廉君自身もわかってはいないようだ。この世界の神様は、全知全能って感じでもないんだよね。もし、そんな存在がいるとしたら、創世の神だけだろう。
「まあ、つまり、瑠兎の幸運は僕との相性ありきってこと。意図して幸運を授けているわけじゃないし、他の信徒に同じことはできないよ」
「そういうことなのね。あなたが幸運の権能を奪おうとしているわけじゃないことはわかったわ。ちょっと納得はいかないけどね」
僕の存在はあくまで例外。意図的に幸運の権能を奪おうとしているわけじゃないことを説明して、廉君は幸運神様を説得した。幸運神様も渋々ながらそれを受け入れた形だ。神様同士の喧嘩にならなくて良かった。
「ええと、それで何だっけ? 何か、呼びかけたよね?」
二柱による話し合いが落ち着いたところで、廉君が切り出した。
そういえばそうだったね。幸運神様のインパクトが大きすぎて忘れてたけど、僕が廉君に人探しのアイテムが欲しいとお願いしたんだった。
せっかくなので、アイテムが必要になった事情も含めて説明してから、あらためてお願いする。
「ガルナラーヴァを信奉していないにも関わらず、声が聞こえる男か。あいつは何故そんなことを……? 意図的なのか?」
そう言って、廉君は考え込む。答えはでなかったのか、軽く首を振って、息を吐いた。
「まあ、とりあえず瑠兎のお願いを叶えようか。夢見の千里鏡でいいかな。いつもの通り、パンドラギフトの中身を固定しておいたから」
夢見の千里鏡は、鏡型の魔道具なんだって。この鏡を持って、知人を思い浮かべると、その人の今の様子が浮かび上がるそうだ。知人っていう条件なので、僕がアウラとキーラの様子を見ることはできないけど、デムアドさんに使って貰えばいいってことだろうね。
それにしても、この鏡、悪用ができそうなアイテムだよね。相手の同意無しに、その様子を探ることができるんだから。絶対に見つからないことを考えると、盗撮カメラよりも質が悪い。
「くれぐれも悪用しないようにね」
「しないよ!」
廉君がニヤニヤ笑いながら、茶化すように言った。まあ、釘を刺す意味もあるのかもしれない。もちろん、僕に悪用するつもりなんてない。だけど、使う前に相手がどんな状況なのかわからないから、事故を完全に防ぐことは難しいだろうね。今回のことはともかく、それが片付いたら封印した方がいいかもしれない。
そんなことを考えていると、僕らの話を聞いていた幸運神様が口を挟んだ。
「セファーソンで邪教徒が動いているの?」
「今のところ確証はないですね。何か起きていないか探っている段階です」
「そうなの?」
僕の言葉に首を傾げた幸運神様は、廉君に視線をやった。問いかけるような視線に、廉君は首を横に振る。
「今のところ僕にも企みの予兆は感じられないよ。といっても、あいつらは動き出すまで尻尾を出さないからね。事が起きてからじゃ無いと、察知は難しいんだ。そう言うルーライナこそセファーソンでそれらしき動きは感じられないの?」
「邪神の気配はない……と思うけど、ちょっと違和感はあるのよね。一体、なんなのかしら?」
ルーライナというのが幸運神様の名前みたいだね。今のところ、廉君も幸運神様も邪教徒の活動を感じ取ったりはしていないみたい。でも、幸運神様にはそれとは別に懸念があるみたいだね。それが何なのかはわからないけど……。
「まあ、なんにせよ、セファーソンが危機に陥らないように調査してくれてるってわけね。そういうことなら、私も加護……」
「お~い?」
幸運神様が加護と口走って、廉君にツッコミを入れられている。まだ懲りていないのかな?
「ちょっと言い間違えただけよ。手伝ってあげるって言うつもりだったの。私もパンドラギフトに干渉しておくわね」
言葉の真偽はともかく、幸運神様もパンドラギフトに干渉できるみたい。幸運の力で、良い物が出る……という感じかな?
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