鏡よ鏡
僕らは再び、デムアドさんが捕らえられている地下牢へと来ていた。夢見の千里鏡を使ってもらうためだ。今回はローウェルだけでなく、ハルファたちも一緒についてきている。双子の姿はみんなで確認しておいた方がいいだろうからね。
今回はきちんとギュスターさんに根回ししてある。といっても、囚人に何かあればギュスターさんも立場的に困ってしまうので、保釈金を支払う形で夢見の千里鏡を使うことを認めてもらった。もし、デムアドさんの身に何かあったとしても、すでに借金奴隷として売却済みでしたと言い訳できるように保険をかけた形だ。
「は~……。あいつら、何やってるんだ。俺のことは気にしなくていいと言ったんだがな」
これまでの経緯を説明したところ、デムアドさんがこぼした言葉がこれだ。どうやら、デムアドさんは双子が奴隷落ちの引き留め申請を出していることも知らなかったみたい。宿屋まで引き払ったと聞いて驚いている。
「親代わりなんでしょ? それなら助けてあげたいって思うんじゃないの?」
デムアドさんのぼやきに、ハルファが返した。それに対して、デムアドさんは首を振る。
「親代わりか。そうかもしれないが……やはり、あいつらは俺から離れた方がいい。俺と一緒にいれば碌なことが起きない。いや、もう手遅れかもしれないな。現に邪神の洗脳を受けてしまった……」
デムアドさんは、双子に関わったことを後悔しているのかもしれない。
でも、双子は本当に洗脳されているのかな? もし、洗脳されて何らかの指示を受けているとしたら、デムアドさんのことは放っておくと思うんだよね。だから、洗脳されたふりをしているだけなんじゃないかと思う。邪神の声を理由に離れていこうとする、デムアドさんを引き留めるためにね。
デムアドさんが邪神にとって重要人物で、奴隷落ちを阻止するように指示されている可能性もあるけど……それはクリーンしてみればわかる。
「まあ、いいさ。とにかく、この鏡を持って、あいつらの様子を映し出すように念じれば良いんだな?」
「お願いします」
何はともあれ、双子の行方を知る必要がある。そのためにも夢見の千里鏡を使ってもらわなければならない。
デムアドさんが鏡を持ち、意識を集中するように目を閉じる。それに合わせて、鏡が一瞬光った。
「映った! ……なんだ? ここは何処だ?」
鏡は無事に効果を発揮したみたい。鉄格子ごしなので見づらいけど、僕らも鏡を見せてもらう。そこには、薄青いショートヘアの二人の女の子が不安げな表情を浮かべている様子が映し出されていた。
ほとんど顔しか映ってないから、場所はわからない。鏡が映し出すのは映像だけなので、音は無く、状況が把握できなかった。物探し棒を使う分には問題ないんだけど、デムアドさんにとってはもどかしいみたい。
「っち、一体、どうなってるんだ。もっと詳しく状況を知ることはできないのか!」
双子の不安げな表情を見て、居ても立ってもいられなくなったのか、デムアドさんが鏡に対して文句を言っている。とはいえ、当たり前だけど鏡から反応はない。残念ながら、元々の機能以上のことはできるわけがないんだ。けど――……
『あー、あー。瑠兎、聞こえる? ルーライナからの伝言。パンドラギフトを開けるように、だって。もう、本当にうるさいんだ、あいつ』
「え? 廉君? ……あれ?」
突然、廉君の声がした。
用件はそれだけだったみたいで、こちらから呼びかけてもウンともスンとも言わない。
幸運神様が干渉した方のパンドラギフトはまだ開けてなかった。もしものときのために、取っておこうと思ってたんだけど、幸運神様がそういうのなら、今が使い時なんだろう。
素直に指示に従ってパンドラギフトを開ける。出てきたのは……なんだこれ?
瓶に入ったクリームみたいな何か。鑑定してみると、魔道具強化クリームという名前みたい。幸運神様の干渉を受けたせいか、名前の後ろに(特別版)という記載があった。
物は試しと言うことで、夢見の千里鏡に塗ってみる。ある程度塗ったところで、鏡がピカリと光を放つ。
変化はすぐに起こった。鏡から光が照射され、地下牢の壁に映像を映し出しはじめたんだ。まるで、プロジェクターみたい。その上、音声まで出力されている。
『けへへ……、これでお前たちも奴隷落ちだなぁ? もう肩代わりしてくれる保護者はいないぞぉ』
『ズルじゃない! こんなの無効よ!』
『そうよ! イカサマじゃない!』
『何の話だぁ? とにかく、お前たちが欲しいとおっしゃる御仁がいるんだ。せいぜいかわいがってもらいな?』
鏡で見ていたときよりも、格段に情報量が多い。場所はどこかのカジノみたいだ。双子は男たちに囲まれている。代表して話しているのは、ちょっと人相が悪い、ひょろっとした男。状況はわからないけど、会話を聞く限りすっごく悪役っぽい。
そう思ったのは僕だけじゃなかったみたい。デムアドさんもすごく憤慨している。
「なんだこいつは! アウラ、キーラ! 今行くぞ!」
そんなことを言っても、投獄されたデムアドさんが駆けつけることはできない……はずだった。はずだったんだけど、鏡面に手を触れた瞬間、デムアドさんの姿が消える。そして、消えたはずのデムアドさんが、壁の映像の中に現れた。
え、どういうことなの? まさか、デムアドさん、転移しちゃった?
考えられるとしたら、機能の強化で映し出された場所に転移できるようになったってことかな。
「あの、これ……脱獄では?」
「あ、あはは……」
ちょっと現実逃避していたら、看守さんから突っ込みが入った。考えないようにしてたのに。これって、僕たちが脱獄を手助けしたってことになりかねないよね。保釈金払っておいて、本当に良かった!
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