まずは穏便(?)に
デムアドさんは転移してしまったけど、鏡はまだ向こうの状況を映し出している。いつまで効果が続くのかわからないけど、今ならまだ後を追って転移できそうだ。看守さんには申し訳ないけど、ひとまずは向こうの騒動を収束させた方がいいだろう。
「すみません! 後で戻ってくるので!」
「えっ……!? ちょっと……!」
慌てる看守さんの言葉を聞き流して、夢身の千里鏡を拾い上げた。
■
鏡面に触れた瞬間、場面転換したかのように一瞬で視界が切り替わった。牢獄からカジノへと早変わりだ。無事に転移できたみたい。
「ま、また誰か来た!? 何なんだ、お前らは!」
人相が悪い男が、わめき散らしている。まあ、取り乱すのも無理はないかも。僕はシャドウリープで慣れているけど、あんまり一般的じゃ無いもんね、転移って。
その間にも、ハルファ、スピラ、シロルが続々と転移してくる。けど、ローウェルは現れなかった。鏡の効果が切れたのかな。看守さんを宥めてくれてる可能性もあるね。
「あ、いえ。僕らのことは気にせず続きをどうぞ」
それはともかく。現在は、デムアドさんが双子の女の子を背中に庇って、悪人面の男と対峙しているところだ。僕らの乱入で一時ストップしてしまっているから、とりあえず脇にどいておこう。介入するにしても、デムアドさんがどうでるか見定めた方がいいだろうから。
だというのに――……
「気にするなって、無理があるだろう!」
悪人面の男に怒られてしまった。
「さすがに、この状況で傍観者になるのは無理があると思うぞ」
デムアドさんにまで呆れたように言われてしまう。別に傍観者になるつもりは無かったんだけどなぁ。
一方で、騒動の中心である双子は、不安そうにデムアドさんの手をぎゅっと握っている。
「デムアド。あの人達、誰?」
「新しい子、拾ったの?」
もしかしたら、悪人面の男以上に動揺しているかもしれない。
ローウェル以外が転移してきたから、僕らは見事に子供……と子犬もどきだ。親代わりのデムアドさんが、見知らぬ子供を引き連れて現れたのだから、自分の居場所がなくなってしまうと不安になっているのかもね。
二人の様子を見る限り、洗脳されているようにはとても見えない。やっぱり、デムアドさんと離れたくないだけなんじゃないかな。
「いや、あいつらは……」
言い訳するように、デムアドさんは双子に事情を説明しはじめた。しどろもどろで、なんだか浮気現場を目撃された人みたいだね。
そんなグダグダな雰囲気を一気に吹き飛ばしたのが、悪人面の男のがなり声だ。
「お前ら、いい加減にしろ! そっちの二人は借金の
男は威嚇するように凄んでみせた。
とはいえ、その程度で怯える僕たちじゃない。それどころかハルファとスピラはまるで気にしていないようだ。
「どうせ、まっとうな方法じゃないんでしょ! そんなの無効よ!」
「お金持ちの悪い奴が奴隷として欲しいって言ってたんでしょ? ちゃんと聞いてたんだから!」
「あぁん? だからどうした。こっちは奴隷落ちの可能性も説明した上で金貸してやったんだ。今更、無効にしろだなんて虫が良すぎやしねえか?」
判断能力が乏しい子供に借金をさせる手口は悪辣だ。そもそも最初から双子をターゲットにしていた節があるので、貸した金をイカサマで巻き上げたのだろう。とても真っ当なカジノとは言えない。
それでも、男に悪びれた様子はなかった。さすがに明るみに出たらカジノが潰れそうな気がするけどなぁ。
まあ、だからといって引き下がる二人じゃないんだけど。
「二人をかけて勝負よ!」
「あたしたちが勝ったら、二人は返してもらうから!」
強気で言い放つハルファたち。それに対して、悪人面の男はニヤリと笑みを浮かべる。
「へぇ? まあ、そういうことなら受けて立ってやろう。その代わり、俺たちが勝ったら、お前らにも奴隷になってもらうからな? けへへ」
普通に考えれば男が勝負に乗る必要はないんだけどね。
欲に目が眩んだのか、それとも子供なら軽くあしらえると思ったのか。そもそも、イカサマするつもりなら、負けを疑っていないのかもしれない。
「じゃあ、頼んだからね、トルト!」
「トルト君、お願いね!」
と、ここでバトンタッチだ。そうだとは思っていたけど、二人は僕に勝負を任せるつもりだったみたい。まあ、ライナノーンと違って、こんなカジノなら遠慮は必要ないからね。
僕の情報が出回っているかもしれないと心配したけど、男に警戒した様子はない。もしかしたら、非合法のカジノだから情報が回ってこなかったのかもね。
「こんな馬鹿な事があってたまるかぁ! こっちはイカサマしてるんだぞ!」
結果は語るまでもないけど……まあ、僕が全勝した。ルーレットもサイコロもカードも。ルールもよくわからないゲームを指定されたりもしたけど、よくわからないまま勝っちゃったみたい。追い詰められたせいか、自らイカサマを暴露しちゃってる。
「いい加減、観念したら! トルトに勝てるわけがないでしょ!」
「そうだよ! トルト君なんだからね!」
「いや、理不尽すぎるだろ! 意味がわからねえよ! もういい! こうなりゃ力尽くだ!」
ハルファたちに負けを認めるように迫られた男が、ついにぶち切れた。
お約束の展開だけど……これでも僕たちはBランク冒険者なんだよね……。
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