優勝までの過程を早送りで

 ゼフィルたちに勝った僕たちは、タッグ部門のベスト8にまで駒を進めた。あと三戦勝てば優勝だ。その三戦も本日中にやる予定になっている。


 ゼフィルたちとは昨日のうちに少しだけ話した。ゼフィルは負けたというのにえらく上機嫌だったね。まあ、僕らと腕試しがしたかっただけみたいだから、勝っても負けても満足だったのだろう。ご機嫌でローウェルを飲みに誘おうとしてエイナに怒られていた。僕らは今日も試合だからね。飲みに行くにしても、今日の試合以降にしてもらわないと。


 マールと戦ったのは、良い経験になった。魔物と違って、優秀な冒険者は対応力が高く一筋縄ではいかないってことがよくわかった。ただ、そのマールにもゴーレムなしで勝てたんだ。ちょっとだけ自信がついたかな。


 とはいえ、僕たちの目標は優勝。ベスト8にもなると、たぶん相手も強敵だろうから、力を出し惜しむのは良くない気がする。だから、ここからはゴーレムを解禁することにしよう。


 ただ、ゴーレムの使い方は少し工夫するつもり。ゴーレムも僕の力の一部だと思うけど、どうしても助けを借りていると見られちゃう恐れがあるからね。戦士として力を証明する上で、マイナス評価になる可能性があるので、こっそり使うつもりだ。




 まずは、四戦目。


「ここまで勝ち上がってきたことを考えると、お前たちもなかなかの手練れと見える。だが、我ら破壊闘士の手に掛かればぁぁあああああ、なんだこりゃ!」


 あ、ごめん。

 試合開始と同時に空気ゴーレムを作成して攻撃するように命じたんだけど、相手選手が名乗り口上をはじめたので可哀想なことになってしまった。


 彼と、もう一人の選手は今、ぐるんぐるんと宙を回っている。一応、僕は両手を掲げて魔法でも使っているようなフリをしているけど、実際には空気ゴーレムがジャイアントスイングで振り回しているだけだ。


 ちらりとローウェルに視線を向けると、彼は小さく頷くだけだった。まあ、気にするなってことかな。さすがに、相手選手は試合中に油断しすぎだったしね。


 そのまましばらく振り回していると、彼らの顔色が悪くなってきたのでゴーレムたちに攻撃停止を指示。解放された相手選手はすっかりと目を回していて戦いにならないと判断されたらしく、そのまま僕らの勝利が決まった。




 次の五戦目。


「まず片方を潰すぞ!」

「おう!」


 また、名乗り口上みたいなのがあるのかなと思ったけど、今度の対戦相手はやらないみたい。試合開始直後、二人して僕に向かって走ってきた。話が早くて助かるね。


 僕は地面に両手をついて魔法を唱える。相手選手が僕のもとにたどり着く前に魔法は発動。僕の手元から砂が壁のようにせり上がった。もちろん、これは砂の壁なんかじゃなくて、サンドゴーレムだ。ただし、形は流動的。波のように変形しながら相手選手へと迫る。


 自分の背丈に迫るほどの大波だ。左右に広がっているので、後ろにしか逃げ場はない。彼らはバックステップで円を描くように逃げる。一旦左右に分かれたあと、中央部分で合流するような動きを見せた。反対方向の波同士をぶつけて、消滅させるつもりみたいだね。


「何!?」

「馬鹿な!」


 でも、二つの波に見えるそれも、実は一体のゴーレムなんだよね。ぶつかったところで消えるはずもないんだ。


 予想外の結果に、対戦相手の動きが一瞬乱れた。その隙を見逃さずゴーレムの大波がのみ込む。彼らは、ゴーレムにもみくちゃにされたあと、地面に顔だけ出した状態で埋められていた。懸命に脱出しようとしていたけど抜け出せず、最終的には彼らの降参宣言で僕らの決勝進出が決まった。




 そして、ついに決勝戦だ。


 対戦相手は筋肉質な男性二人。手にした武器は金属製の棒だ。こんといえばいいのかな。紫色のスカーフを纏い、独特の雰囲気がある。おそらく、あれは戦士階級の装束。そう。ギデルデ氏族の戦士たちが、しっかりと勝ち上がってきたんだ。


「お前たちが、我らが氏族の聖地に足を踏み入れようとする不届きものどもか」

「その資質、我らが見極めてみせよう」


 二人の戦士は、ローウェルと僕、それぞれに向かって走り出した。


「任せるぞ」

「うん」


 ローウェルと短いやり取りをして、地面に両手をつく。とりあえず、五戦目と同じゴーレム砂津波で攻撃だ。相手がこちらにたどり着く前に魔法は発動。そそり立つ壁のような砂津波がギデルデの戦士を襲う。


「舐めるな! はぁぁあああ!」


 戦士たちは逃げずに立ち向かうことを選んだ。咆哮のような大声とともに、二人揃って手にした棍を砂津波へと振り下ろす。その攻撃は本当に強烈だったんだろう。多少の衝撃なら受け止めて吸収してしまうサンドゴーレムが一撃で崩れて、ただの砂に戻った。


「くははは! 見たか、我が一撃!」

「真の戦士たるもの、気を込めれば波さえ砕けるのだ!」


 ゴーレムなので波ではないんだけど、彼らの対処は正解だと思う。逃げてもどこまでも追いかけてくるからね。ただ、ゴーレムを一撃で壊せるほどの威力が繰り出せなければ実現できない方法でもある。彼らの実力は本当に高いのだろう。


 でも、ちょっと油断しすぎなんじゃないかな……?


「ふははは……ぬわぁ!? なんだ……」

「地面が割れ……!」


 何だと言われると……あいかわらずゴーレムなんだけどね。

 ネタばらしをすると、地面全体をゴーレムの顔にしたんだ。顔だけの巨大ゴーレムだね。で、彼らが飲み込まれたのは、ゴーレムの口の中。今、もぐもぐされてます。もちろん、食べたりはしないけど。


 ゴーレムだから、さっきと同じく強烈な攻撃を叩き込まれたら壊れちゃうんだけどね。さすがに、突然地面に飲み込まれたら動揺しちゃうみたいで、それどころじゃないみたい。


 結局、彼らは口の中でもみくちゃにされた上で、破れかぶれで振るった棍がお互い良いところに入ったらしくノックアウト。最後にはゴーレムにぺいっと吐き捨てられて試合は終わった。


 うーん。ゴーレムを使ったとはいえ決勝がこれで良かったんだろうか。いや、駄目だと言われても困るんだけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る