祝勝会

「トルト、優勝おめでとう~!」

「あはは、ありがとう」

『今日の試合は面白かったな!』

「いやぁ、めでたいな! さあ、飲むぞ!」

「……飲み過ぎは駄目」

「ほどほどにね、ゼフィル」

「お兄もお疲れ様」

「ありがとう。と言っても、俺は何もしてないが……」

「トルト君無双って感じだったね」


 闘技大会のタッグ部門で優勝できたことを祝っての打ち上げということで、酒場に来ている。もっとも、ゼフィルがお酒を飲むための口実なんじゃないかって気もするけど。


「トルト君のゴーレムは凄いよね。あれがゴーレムだったなんて信じられないよ」


 マールが言っているのは、ゴーレムによる砂津波と地割れ攻撃のことかな。


「私もはじめて見たけど、トルトだからね!」

『そうだぞ! トルトは検証とか言って細かいことを気にするわりに、突拍子もないことをするんだ。驚いていたらキリがないぞ!』

「そっか。だったら、私もトルト君がすることには驚かないようにするね」


 今回のゴーレムによる攻撃を魔法に見せかける試み。自分ではなかなか面白い工夫だったと思うんだけど、ハルファたちにとっては『いつものこと』で片付いてしまうみたい。反論したいところだけど……いくつか『突拍子もないこと』に心当たりがあるから、それも難しい。やってるときには、ナイスアイデアだと思って突っ走るけど、あとで冷静になってからもうちょっと説明すればよかったかなって思うこと、あるよね?


「でも、正直、あそこまで上手くいくとは思ってなかったんだよね」

「うーん、初見で対応するのは難しいと思うけど。とはいえ、相手選手が落ち着いて対処していれば、あれほど一方的にはならなかっただろうね」


 リックの言うとおりだと思う。たしかに、初見でベストな対応をとるのは難しいかもしれないけど、それにしたってみんな油断しすぎだった。たぶん、ゼフィルやマールならばあれほど簡単に決着はつかないだろう。


 まあ、それは闘技試合と冒険者の戦いの違いなのかな。観客を楽しませることを考えたら、攻撃の前の口上だって重要なのかもしれない。それにしたって、油断しすぎだったと思うけど。


「そういえば、戦士の資質とやらは証明できたのか?」

「ああ、うん。たぶん、大丈夫だと思う」


 ゼフィルの問いには肯定を返しておく。

 まだ正式に聖地への立ち入りを認められたわけではないんだけどね。試合終わりにギュスターさんとアバルムさんに話し掛けられたんだ。


 アバルムさんはちょっと苦い顔をしていたね。僕らがどうこうというより、ギデルデ氏族の戦士たちが不甲斐ないって怒ってた。資質を見極める以前に自分たちが油断していたら話にならないからね。下手をすれば、あの二人に勝っても資質の証明にはならないなんてことになるところだった。


 それでも、おそらく聖地への立ち入りは認められるだろうと、アバルムさんは言っていた。決勝の戦いは微妙だったけど、三戦目のゼフィルたちとの戦いで資質を示したって評価みたい。


「そうか、そりゃあ良かったな!」

「そういえば、ゼフィルたちはどういう経緯で闘技大会に出場することになったの?」

「ああ、その話もしてなかったな」


 ドルキス氏族の推薦枠で出場していたゼフィルたちだったけど、意外なことに出場を依頼してきたのはギデルデ氏族の関係者だったらしい。


「最初はトルトたちへの妨害工作でも企んでるのかと思って話を聞いたんだがな」


 戦士の資質を証明するために闘技大会に出場することになったことは話してあった。そのため、ゼフィルはギデルデ氏族の誰かが僕らのことを妨害するために人を雇うつもりなのかと疑ったみたい。


「だが、単純に出場すればいいって話だったんで、トルトたちとの関係を明かした上で率直に聞いてみたのさ」


 その結果、陰謀でもなんでもなく、ただ急遽空いた推薦枠を埋めるために奔走していただけだとわかったみたい。


「ドルキス氏族の関係者が不祥事を起こしたらしいぜ。元々の推薦を受けてた奴がそれを聞いて激怒したらしくてな。推薦を辞退したんだと」


 ドルキス氏族っていうと、オルキュスで好き勝手やってた放蕩三男の氏族だ。あの件がまさかここに影響してくるなんてね。まあ、そのおかげでゼフィルたちが闘技大会に出場することになって、僕らの資質も認められることになったわけだし、文句はないんだけど。


『そういえば、トルト。昨日の夜に何か作ってただろう。何を作ってたんだ? 食べ物か?』


 えんもたけなわってところで、突然シロルがそんなことを言い出した。


「たしかに作ってたけど……よく気づいたね。こっそりと作ってたつもりだったのに」

『ふふん! 僕の鼻を甘く見るなよ?』


 ああ、なるほど。匂いで気づかれたのか。


『あの匂いは嗅いだことがあるぞ! この街に来たときに食堂で食べた奴だな? あれを作ったのか?』

「同じ香辛料を使ったからね。でも別の料理だよ」

『そうなのか! 食べてみたいぞ!』

「おお、なんだ? トルトの料理か? 気になるじゃねえか!」


 シロルに便乗してゼフィルまで騒ぎ出した。とはいえ、さすがに酒場で自作料理を出して食べるというのも問題だと思うんだよね。だから、残念だけど――……


「トルト君! 持ち込みオッケーだって!」


 断ろうと思ったけれど、先回りするかのように、マールが酒場の主人に許可を取り付けていた。


 うーん、いいのかな。匂いが強烈だから、他のお客さんにも影響が出るような……。


 とはいえ、許可は取っているし、シロルやゼフィルたちが待ちきれないと催促する物だから、結局、料理を取り出すことになった。披露するのはもちろん、カレーだ!


「見た目は微妙だが……美味そうだな!」

『この匂いは間違いなく美味しいぞ!』


 ルランナさんに集めてもらった香辛料をブレンドして作ったカレーだ。個人的にドロっとした奴が好きだから小麦粉も混ぜてある。残念ながらご飯はないから、パンにつけて食べればいいかな。


 評価は悪くない……というか、みんな美味しそうに食べているね。それどころか、近くのお客さんも気になるのかこっちを注目しているのがわかる。やっぱり、この匂いは無視できないよね。


 結局、酒場の主人がカレーを買い取るという形で、お客さんにも振る舞うことになった。みんな喜んでくれたので、僕としても嬉しい。


 だけど、今日って、闘技大会の優勝のお祝いなんじゃなかったっけ? すっかりカレーのお披露目会みたいになっちゃった。まあ、いいんだけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る