運命神様からお呼び出し

 転移扉が利用できないか確かめるために、最初の部屋まで戻ってきた。左端の扉が入り口へと続いているはずだ。


「それじゃ、開けてみるね」


 ここから、外へ転移する場合は鍵が必要ないみたい。ハルファがドアノブを回すと、あっさりと扉は開いた。


「え、何ここ?」

「暗くて靄がかかってるね……」


 ハルファとスピラがドアの向こうを覗き込んでいるけど、視界が悪く先は見通せない。見えるのは薄暗がりの中に漂う白い靄。なんとなく見覚えがある気もするけど……?


『ダンジョンに入ったときにくぐった場所だな!』


 それだ!

 シロルの言葉で思い出した。荒野とダンジョンを結ぶ通路だね。あのときは、案内人の背中を見ていたからパッとは思い出せなかったけど、こうしてみるとちょっと不気味だ。一人で通るには勇気がいりそうだね。


「なるほど。ここは視界が悪い。誰かが通ったとしても、見咎められるリスクは小さいな」


 ローウェルの言うとおりだと思う。アイングルナを経由せずにダンジョンを出入りできるのは、こっそりと隠れて行動したい者たちには都合がいいだろうしね。リーヴリル王国への刺客も、ここを使って外に出たんだと思う。


 ひとまず、僕が先行して外に出てみる。人の気配もないし特に問題なさそう。呼びかけると、他のみんなも次々と扉をくぐってこちらにやってくる。最後のマッソさんが、扉を閉めると転移門は幻だったかのように消えてなくなった。こんな感じになるのか。


「トルト、鍵はどうなってるニャ?」

「あ、光ってます!」

「だとすると、ここからさっきのところまで戻れそうだニャ」


 十層の転移門があった場所と同じように、収納リングから取り出した鍵が明々あかあかと光を放っている。試しに鍵を回してみると、予想通り転移扉が再出現した。アイングルナで物探し棒を使ったときには反応がなかったから、ここは別階層という扱いなのかな。


「便利だな。十層ごとのショートカットが使えるというわけか」

「うむ、これは助かる。団のみなに何も言わずに来てしまったからな」


 これは階層移動が格段に早くなりそうだね。マッソさんが十層に戻るのにも役立ちそうだ。とはいえ、今は用事がないので、一度開けてそのまま閉める。すると、さっきと同じくドアは一瞬で消えてなくなった。


 さて、鍵と転移扉については確認できたので、街に戻りたいんだけど……どっちだろう? この空間は一様に薄暗い。出口から光が漏れるなんてこともないみたいで、どこに向かえばいいのかさっぱりだ。


「まあ、適当に歩けばいいニャ。ダンジョンから出てしまったら入り直せばいいだけニャ」


 そんな指摘に従って歩くことちょっと。靄が晴れて見えてきたのは、街の風景ではなくて、一面の荒野だった。逆方向だったみたい。


「おや、君たちはあのときの少年たちじゃないか」

「え? ああ、あのときの」


 声を掛けてきたのは、ゲートの前で見張りをしていた男性。僕らがアイングルナにやってきた日にもここで見張りをしていた人だ。ただ、遅れてやってきたラーチェさんとマッソさんを見てギョッとしている。二人はAランク冒険者だけあって、アイングルナでは有名みたい。「えらく大物と知り合いなんだね」と驚かれてしまった。


 そんなとき、僕の足がテシテシと叩かれる。もちろん、シロルだ。


『どうしたの?』

『ラムヤーダス様の気配を感じたぞ、パンドラギフトを開け!』


 案内人が目の前でいるので、絆の腕輪の機能でこっそりと会話する。どうやら、しばらく音沙汰がなかった運命神様から、ようやく干渉があったみたいだ。ただ、ダンジョンを出たタイミングでというのが気になる。もしかして、ダンジョン内だと運命神様から連絡がこないのかな? 電波が悪いみたいな感じで。


 いや、でもキグニルのダンジョンでシロルと出会ったときには明らかに干渉があったよね?


 なにはともあれ、パンドラギフトを開封してみよう。ダンジョン内だと運命神様とのやり取りに妨げがあるかもしれないので、そこら辺の岩場の影で。ラーチェさんやマッソさんと話をしているので、案内人の男性の注意もそちらに向いている。日も暮れかかっていることだし、たぶん何をしているかはわからないだろう。ローウェルたちに声を掛けて、こっそりと移動した。


「さて、何がはいってるのかな? ……んん?」


 パンドラギフトに入ってたのはちょっと立派な首飾り。いつも通り二つ折りの紙切れもある。冒頭は『短文じゃ伝えきれないのでお試しで』という一文。あとはアイテムの効果説明だね。『使徒の首飾り(仮)』か。効果は『身につけると一時的に運命神の使徒という扱いになる。それにより神託を授かることがある』だって。


 ……え? 使徒ってそんな雑な感じなの?

 いや、これは苦肉の策なのかな。巫女だとか使徒じゃないと神託は下ろせない決まりがあるんだろうね。そこで適当なアイテムをでっち上げたとか? いや、そんなのありなら、もう普通に神託下ろしてくれればいいのに。


 まあ、一度運命神様と話はしてみたかったんだ。その機会を用意してくれるなら、拒否する理由はないけどね。


 『使徒の首飾り(仮)』を首にかけた途端、軽い目眩に襲われる。気がつけば、その一瞬で周囲の様子が一変していた。目の前にポツンと一軒だけ家が建っている。しかも、前世で見たような現代的な二階建て住宅。もしかして、これが運命神様の家なのかな?


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数日前から新作の投稿をはじめました!

タイトルは↓

VTuber事務所『インベーダーズ』は本物ばかり


ジャンルは現代ファンタジーです。

時間がある方はぜひ!

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