書斎をがさごそ
物置代わりの部屋以外は、ほとんど何もない小部屋だったけど、幾つかの部屋には粗末な毛布が落ちていたりと、人がいた形跡もあった。そして、最後の部屋。そこは書斎みたいだ。机にはインク壺と乱雑に置かれた幾つかの書き付け。それ以外にめぼしい物はない。
「手がかりになりそうなのは、この走り書きくらいかな」
「ふむ。ちょっと読みづらいが……」
数も少ないので、手分けして読んでみる。
「これは……ガロンドの地下水路のことかな?」
僕が読んだのは、計画書みたいなものだった。神の指示に従い人々に試練を課すだとか、隣国の王都をターゲットにするだとか、そんなことが書かれている。そして見過ごせないのが『死都』という言葉。これはガロンドの地下水路で邪教徒の男が口にした言葉だ。やはり、あの男とアイングルナは繋がりがある。
「筆跡とかはわかんニャいけど、何となく見たことがある字ニャ。たぶんゴドフィーの字だと思うニャ」
書類仕事のときは参考として以前の書類を資料とすることが多い。そのため、ラーチェさんはゴドフィーが書いた字をよく見たことがあるんだって。専門家じゃないから詳しくはわからないけど、ゴドフィーの書類と書き付けの文字はよく似ているそうだ。
「こっちはダンジョン化について書かれているな」
ローウェルが読んだ文書には人工的にダンジョン化する方法についての言及があった。ダンジョン研究会のパンドラギフトを使ってダンジョン化する研究に目をつけたみたい。と言っても、研究会ではダンジョン化の実験に失敗している。書き手は独自の研究で、これを実現したようだ。書き付けには「箱単体では邪気不足ゆえ、呼び水として使い、神の御業で増幅する」という記述があった。
「ここに記されている同志というのが、おそらく失踪した者たちであろうな……」
地下水路という本命から目を逸らすために、リーヴリル王国各地でダンジョンを発生させるとの記述もあった。文書には「同志に箱を持たせて、各地でダンジョン化を引き起こす」と記されている。この同志の中に、グルナ戦士団から失踪した冒険者たちが含まれているんだろうね。
その他の文書には別の計画が記されている。そのいずれも多くの人が犠牲になるような碌でもない『試練』だ。今のところ、そんな大事件が起こったという話は聞かないから、たぶんまだ実行されていない計画なんだと思う。
「絶対に止めないと!」
「ハルファちゃん……。うん、あたしも協力するよ!」
運命神の巫女という立場のせいか、ハルファが義憤に燃えている。
僕としても思うところはある。ハルファが計画を阻止するために動くというのなら、僕も協力するつもりだ。
「でも、トルトたちの話だと、ゴドフィーは死んだはずニャ?」
「そうだと思ってたんですけど、実は……」
ダンジョン研究会でヴァルさんから聞いた話をみんなにも伝えた。曖昧な話だったので、伝えていなかったんだ。
「そうニャのか。ゴドフィーが戻ってきたら、ギルマス押しつけてやろうと思ってたけど、さすがに無理そうだニャ~……」
「完全に洗脳されているようであるからなぁ。鎮めのうたで正気に戻るのならいいが……」
どうだろう。あの戦いの最中、ゴドフィーらしき男がどうなったのか覚えていないけど、部屋の中にいたのなら鎮めのうたは聞いていたはずんだよね。邪竜の攻撃に対抗する必要があったから。もし、それで正気に戻ったんなら、少なくともギルドにはコンタクトを取るだろう。それがないってことは、まだ洗脳が解けていない可能性が高いと思う。ゴドフィーが本当にアイングルナに戻ってるのなら、だけど。
「ゴドフィーが戻ってきているにしろ、そうでないにしろ、対策は必要だろう。このダンジョンに例の特殊個体のような奴が出現する限り、新たに洗脳される奴が現れるだろうからな」
「そうであるな。この建物は見張っておくにしても、別拠点がないとは限らん」
そうなんだよね。ガルナラーヴァが試練を望む限り、ダンジョンに特殊個体が現れる。それを倒した人が、新たな邪教徒になって計画を遂行するんだ。
「やはり、我が輩たちだけではどうにもできん。少なくとも導師会の力を借りなくてはな。特殊個体には手を出さんように警告してもらった方がよかろう。それに、各国に邪教徒の計画を伝えて警戒してもらわねば」
たしかに、僕らにできることには限界がある。同時に複数の場所で計画が動いたら防ぎようがないしね。それに問題はアイングルナだけではないかもしれない。このサザントグルナという国は、幾つか街があるんだけど、どの街もダンジョンの中にある。つまり、他の街も同じような状況かもしれないんだ。そうなると、サザントグルナの統治組織である導師会に動いてもらった方がいい。
「導師会に連絡するなら街に戻らないとニャ。そういえば、転移扉で入り口に戻れるニャ~? 試してみるかニャ?」
そうだった!
もし本当に一瞬で入り口戻れるなら、本当に便利だよね。
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