どこからともなくドア

 物探し棒が示す場所の近くまできたけれど、それらしい場所は見当たらない。確認のために、この周辺で何度か物探し棒を使ってみたけど、一様に今いる場所を示す結果となった。だから、ここに何かあると思うんだけど……。


「うーん、森だなぁ」

「特に変わった物はないよね」


 森の中に鍵が使えそうな場所なんてあるわけがないよね。近くまでくれば隠された建物でもあるのかと思ったけれど、影も形もない。いったい、どうしたらいいんだろう。


「鍵はどこにあるニャ? ちょっと見せてみるニャ!」

「ああ、今取り出しますね。……え!?」


 ラーチェさんに言われて、例の鍵を収納リングから取り出してみたら、なんか光ってる。


「やはりここに何かあるようだな」

「そうだね。でも、どうすれば……?」


 ローウェルと頷きあうものの……、肝心の鍵の使い方がわからない!

 掲げてみたり、開けと叫んでみても何も起きなかった。


「ちょっと貸してみるニャ」


 というわけでラーチェさんにバトンタッチだ。


「鍵なんだから、回せばいいに決まってるのニャ」

「……何も起こりませんね」

「いや、後ろを見てみるのだ!」


 マッソさんに指摘されて振り返ると、そこには不思議な文様が刻まれた扉があった。建物どころか壁もない。ただポツンと扉だけが存在している。


「ドア、だね……?」

「うん……。でもドアだけ?」


 ハルファとスピラが扉の周りをぐるっと回って、怪訝な表情を浮かべた。閉ざされた扉の向こうは、当然、森が広がっている。何の意味があるのかピンときていないみたいだ。


「ドアを開けたら別の空間に繋がってるんだよ、たぶん」

「ああ! ここのダンジョンの入り口みたいな」

「マジックハウスもだよね!」

「うん。そんな感じ」


 さて、ここで話をしていても仕方がない。早速、中に入ろう。


 扉を開けると、想像していた通りに別の場所に繋がっていた。木板で作られた床と壁。少し広めのシンプルな部屋だ。


「似たような扉が並んでいるな」

「そうだニャ~。別の場所とつながっているのかニャ?」

「なるほど。ここから別の場所へと向かえば、足取りは追えんからな。消息が知れない者たちはここを使ったということか」


 大人組が見ているのは幾つもの扉。僕らの入ってきた扉も、その中の一つだ。どれも同じような文様が刻まれている。大人組たちが別の場所に繋がっていると判断したのはそれが理由だろうね。


「このドアは十層転移扉って書いてあるよ」

「こっちは……入り口だって」


 ハルファとスピラが読み上げたのは、扉の横に配置された小さなプレートだ。転移扉か。別の場所に繋がっているという予想は正しかったみたいだね。


 転移扉は六つある。入り口と書かれたプレートが左端で、右に向かうにつれて階層が十層ずつ加算されていく。右端が第五十階層というわけだね。


 ……第五十階層といえば、グルナ導師会の見解では最下層とされているフロアだ。

 そんなところにまで繋がっているとなると、ここが人の手によって作れた場所とは到底思えない。公式では、冒険者たちの最高到達階層は第三十一階層だからね。


『こっちの扉は普通だな』


 シロルが言っているのは、六つの転移扉と向かい合う形で配置されている木の扉だ。転移扉と違って、部屋に馴染んでいる。単純に別の部屋に続いてるんだろう。


「どうします?」

「転移扉についてはあとで確かめよう。まずは、ここについて調べたい」

「まあ、いいんじゃないかニャ? 何か面白いものがあればいいけどニャ~」


 マッソさんの主張に、ラーチェさんが同意した。僕たちにも異論はない。第十階層と違って、一方通行の可能性だってあるからね。


 木の扉の先は、長い廊下になっていた。そこから更に幾つかの部屋に繋がっている。手分けして探すことも考えたけど、何者かが潜んでいる可能性があるので、ひとまずみんなでさらりと見て回ることにした。


『おお? この部屋には物がたくさんだな!』

「本当だ。倉庫代わりにしてたのかな」


 多くはもぬけの殻。そんな中で、物が溢れている部屋を見つけた。雑多な物をとにかく押し込んだという感じで、統一性は感じられない。あえて共通点をあげるなら、ダンジョンで拾える物が多いという印象だけど……まあ当たり前かな。ダンジョンの中なんだし。


「ねえねえ、トルト! これ、パンドラギフトじゃない?」

「おおっ! 本当だ!」


 部屋を漁っていると、ハルファがパンドラギフトを見つけてくれた。一つだけど、ダンジョン研究会でも二つ手に入ったから、今のストックは三つだ。


「ふむ。収納リングか。容量に余裕があるなら、ここの物を全て収納しておいてもらえないか。さすがに、ここで全ての物を調べるには時間が掛かりすぎる」


 ニコニコ笑顔でパンドラギフトを収納リングにしまったら、マッソさんにそんなことを言われた。たしかに、ここは敵地のようなもの。手がかりになるかもしれないとはいえ、悠長に全てを調べている時間はない。


 でも、これを一つ一つ収納していくのはさすがに骨が折れる。これら一式をいっぺんに収納することはできないのかな? 試しにやってみたら、まあなんと言うことでしょう! あんなに物に溢れていた部屋が一瞬で片付いてしまった。


「おお!? まさか一瞬で片付くとは! トルト少年の収納リングは特別仕様なのだな」


 提案したはずのマッソさんが驚いている。ということは、地道に収納すること前提だったのか。でも、やっぱりそうだよね。以前から多少離れた場所のものを収納することはできたけど、せいぜい手の届く範囲だったはずだ。収納リングの品質が上がったおかげかな。もしくは【創造力】スキルの恩恵かもしれない。


 いずれにせよ、時間が短縮できたことは悪いことじゃない。まだ、見ていない部屋は残っているわけだし、さくさくと探索してしまおう。

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