運命神様の正体
うーん、でもどこかで見たことがあるんだよね、この家。もちろん、今世でなく前世で。僕の家じゃないことは確かだ。
……ああ、そうだ。
これは廉君――僕の数少ない友人だった北町廉太郎君の家だ。
前世の僕は病気がちで、学校にもあんまり通えなかった。一年の半分くらいは病院暮らしってこともあったくらいだ。そんなだから、友達もあまりできなかったんだよね。だけど、廉君とはよく遊んだ。廉君は病室にも尋ねてきてくれて、いろんな話をした。異世界で旅をするなんて夢みたいな話もしたなぁ。
それにしても、なんで廉君の家がここに? 戸惑いながらも、インターホンを鳴らすと「は~い」という声が聞こえてくる。懐かしい声だ。
玄関前の石床に水滴が落ちた。何だろうと思ったら……僕の涙だった。いつの間にか泣いていたみたい。コートの袖で必死に拭うけど、涙が次々と溢れ出てくるからあんまり意味がない。そうこうしているうちに、ガチャリと扉が開いた。
「や、いらっしゃい、
そこには、あの日と変わらない廉君の姿があった。涙がますます溢れてくる。もうコートの袖はべちょべちょだ。それでも何故か僕の顔は笑ってた。
「久しぶり! 元気だった……はおかしいかな? 大変だったよね」
「ちょ、ちょっと待ってよ。それより何で廉君が?」
家に上げてもらい、ようやく涙が引っ込んだところで廉君が話始めた。けど、その前に確認しておきたいことがある。なかば確信はしてるけど、ね。
「ん? ああ、そのことね。いやぁ。参ったよ。転生するときにさ、神様として働けって言われて、この世界に放り出されたんだよね。もう大変だったよ」
「じゃあ、やっぱり廉君が運命神様なの?」
「そうだよ。驚いた?」
「当たり前だよ!」
僕の返答に、廉君はサプライズ成功というようにイシシと笑った。笑い方も昔のまんまだ。
「いつから、神様やってるの?」
「かれこれ1000年くらいかな。僕は神の中でも新参なんだよ」
1000年……!?
しかも、それで新参扱いなんだ。すごい世界だね。
「あれ、でも廉君より僕の方が……」
病弱だった僕の身体は20歳まで持たなかった。家族も廉君も残して、僕は死んでしまったんだ。死の間際、廉君が必死に死ぬなと言ってくれたことを覚えている。
「ああ、うん、そうだね。瑠兎が死んだ後も60年は生きたかな。悪くない人生だったとは思うよ」
そうなんだ。それは良かった。
廉君には僕の分まで幸せに生きて欲しいと思ってたから。
「でも、それじゃあ、なんで僕より先に転生してるの?」
「そのことか。僕も詳しくはわからないけど、転生って意外と時間が掛かるみたいだよ。僕らが死んでから途方もないくらいの時間が流れてる。1000年なんて誤差ってくらいの途方もない時間がね」
「そう……なんだ」
「うん」
スケールの大きな話に実感がわかない。1000年が誤差というと……10万年? それとも1億年? いずれにせよ、もう地球に文明が残っているかすらわからない。
ちょっとしんみりしたけど……どのみち、トルトとして生きていることを自覚した時点で地球に戻ろうという考えはなかった。だから、それほどショックでもない。
それから、廉君が僕を見つけたときの話になった。
「巫女――ハルファが攫われたってことで、使徒を遣わしたんだよ。そしたら、その途中で瑠兎を見つけたんだ」
「でも、よくわかったね。僕、前の姿と違うよ?」
「そりゃあ、これでも神様だからね! 魂の輝きでわかるんだ」
その使徒が僕を見つけたというのが、ちょうど死にかけた状態でルドヴィスから逃れたときだったみたい。廉君は、最低限の応急処置をした上で身柄を奴隷商に預けるように指示したそうだ。
「なんでそんなことを?」
「神様って、意外と自由がきかないんだよね。巫女や使徒以外には限られた干渉しかできない。だから、瑠兎を無理矢理関係者にしてしまおうと思って」
僕がパンドラギフトの開封役になったり、ハルファと出会うようにしたりと、使徒の人に色々と暗躍させたみたい。何か申し訳ないね……。
「そうだったんだ。でも、なんで僕を使徒にしなかったの?」
「……瑠兎は前世だと自由に生きられなかったからさ。使徒にしてしまったら、使命に縛られてしまう。僕は瑠兎の人生を縛りたくなかったんだ。結局巻き込んでしまってるけどね……」
「そうなんだ……」
廉君の考えはわかった。でも――
「ハルファには神託があるんでしょ」
「そうだね。可哀想だとは思うけど、さすがに放置できない問題もあるからね」
「だったら、僕も使徒にしてよ。ハルファのことはさ、家族だと思ってるんだ。何があっても、僕はハルファを助けるよ。これは縛られてるんじゃない。僕の意志だ」
じっと廉君の目を見詰める。廉君も真っ直ぐにそれを受け止めてくれた。僕の想いはきっと伝わる。
「……いいんだね?」
「もちろん。それにさ、使徒になったら廉君ともまた会えるんでしょ」
「あはは、そっか。そうだよな。うん、わかった」
最終的に、廉君は機嫌よく了承してくれた。
「ちなみに家族だとしたら、さ。ハルファはどういうポジションなの?」
ニシシと笑って聞いてくる廉君。何が面白いのか知らないけど、それなら出会った頃から決まってる。
「妹だよ」
「うーん、そうかぁ。まだ妹か。まあ、まだまだチャンスはあるからね。ハルファも頑張れ!」
「……? 何の話?」
「いやいや、何でもないよ」
廉君が下手くそな口笛をぴゅーぴゅーと鳴らす。神様になっても、口笛は下手なまんまみたいだ。
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