びっくりしすぎ
王都だけあって入口の門も大きくて立派だ。キグニルもそうだったけど、基本的に出入りは自由みたい。もちろん、衛兵の人たちが目を光らせているから、あからさまに怪しい人物は止められるみたいだけど。
「審査とかないんだね。王都はもっと警備が厳しいのかと思った」
「ああ。市民街への出入りは厳しくないな。その代わり平民が貴族街に入るときは審査が大変なんだ」
ローウェルが言うには、ガロンドは防壁が三つあるみたい。一つは王城を囲む城壁。二つ目はガロンド全体を囲う市壁。そして、最後が市民街と貴族街の境にある隔壁。基本的に、平民は許可がないと貴族街には行けないみたいだ。そして、許可があっても厳重な審査をされるらしい。まあ、平民で貴族街に行くことがあるのは医者や御用商人みたいな限られた人だから、あんまり困らないけどね。
すでに日が傾きはじめている。閉門の時間が近いせいか、外に出る人はほぼいない。ほとんどが街に戻る人たちだ、その流れによって僕たちも街の中へと入った。
日暮れも近いというのに、大通りには人が大勢いる。キグニルも賑やかだったけど、それ以上に人が多い。それと、キグニルに比べると道行く人々の格好もどことなくオシャレだ。王都だけあって、ファッションも最先端なのかもしれないね。もっとも、キグニルは冒険者の街だったから、あんまり参考にならない比較だったかも。街でも武装しているような人ばかりだったもんね。
ひとまず、ローウェルの案内に従って、冒険者ギルドへ向かおうとしたんだけど――
「あれ、スピラちゃんはどうしたの?」
『さっきまでいたはずだぞ』
ハルファの言葉にはっとする。たしかにスピラがいない。巨大化したままだと迷惑になるかと思って、街に入る前にシロルには巨大化を解除してもらった。そのときにスピラがいたのは間違いない。
もしかして、迷子?
そう思ったけど、ローウェルの言葉がそれを否定した。
「ああ、スピラなら先に家に帰した。冒険者ギルドには荒っぽい連中もいるからな」
たしかに。
根はいい人もたくさんいるけど、それでも大抵の冒険者は荒っぽい人が多い。子供に悪さをするような人はほとんどいないだろうけど、それでも怖がらせちゃう可能性はあるからね。
でも、いつの間に?
ローウェルにはさっきから街の案内のために先導してもらっていたはずだ。スピラに指示するタイミングもなかったような気がするけど。
まあ、ローウェルがスピラを大切にしているのは見ていてわかる。日頃からそう言い聞かせているのかもしれないね。
気を取り直して、冒険者ギルドに向かった。リーヴリル王国の冒険者ギルドの本部だけあって、建物も大きい。時間帯的に依頼報告の冒険者が多いのか、かなりの賑わいだ。今日の目的は転属の挨拶。まあ、依頼を受けるときに顔を合わせるんだから必要ない気もするけど、一応そういう習慣があるみたいだ。
「なんだ、ローウェルじゃねえか。ここ数日見なかったな。そいつらは誰だ? まさかお前の子供じゃねえよな」
「違う。同業者だ。ちょっと私用で離れていたが、そのときに世話になった。その縁で案内をしている」
近くで喋っていた冒険者のひとりがローウェルに声をかけてきた。どうやら、知り合いみたいだね。ローウェルは20歳だから、さすがに僕たちくらいの子供がいるはずないんだけどね。森人は年齢不詳だから、そういう誤解もあり得る……のかな? まあ、たぶん冗談だと思うけど。
「『栄光の階』のトルトです。よろしくお願いします」
「ハルファだよ!」
「わふっ!」
「おう! 翼人は珍しいな。それに従魔までいるのか。しかも、こいつも見たことがない奴だ。あ、俺はゼフィルだ。よろしくな」
ゼフィルさんは普人で、たぶんローウェルよりも年上だけど、気さくな人みたいだ。ちなみに、シロルが思念を飛ばさず鳴き声で挨拶したのは前もってお願いしておいたから。やっぱり喋ると目立つし、聖獣って説明するのも面倒だからね。
「ああ、トルト。俺はこいつと話しておく。先に受付を済ませておいたらどうだ」
そうローウェルに提案された。
たしかに、もう夕刻だ。もう少ししたら冒険者ギルドも閉まっちゃう、その前にやるべきことを済ませておこう。
僕たちは、一旦、ローウェルから離れた。
受付……の前に依頼票を見よう。ガロンドに来るまでにせっせと集めた薬草類が納品できるかもしれない。採取依頼は基本的に推奨ランクの指定があるだけ。必須ランクの指定がないから、現物があれば依頼をこなせるからいいよね。
あ、ゴルドディラの納品依頼がある。いくつ引き取ってもらえるのかな。やっぱり、1株だけ? まあ、聞くだけ聞いてみよう。
ええと、報酬は金貨1枚……?
依頼報酬だから相場よりは高めなんだろうけど、思ったよりも高額だった!
キグニルで薬草採取したときには何束も集めて銀貨数枚だったのに。しかもあれでも報酬はいい方だって聞いてたんだけど。ゴルドディラ採取は効率が良いね。まあ、これは僕だけかもしれないけど。ハルファは全然見つけられなかったからなぁ。
ほかに、納品できそうなのには月光鈴蘭かな。月光鈴蘭は月の光を蓄えて咲くといわれている特殊な花だね。一夜だけ、淡く輝く花を咲かせるんだ。どこで育つか、どうやって育つのかもよくわかってなくて、ふと気がつけば庭先で光っていたということもあるみたい。
月光鈴蘭の花には強力な清浄作用があって、最高級の解毒ポーションや治癒ポーションの素材として使われる。だけど、狙って採取できるものじゃないから、希少価値が高いんだよね。僕は野営のときに偶然見つけたんだ。ゴルドディラよりも希少性が高いからか、こちらは金貨5枚!
採取依頼じゃダンジョン探索ほど稼げないと思ってたけど、そうでもないかもしれない。いや、さすがに今回はたまたまだと思うけど。
それはともかく、二つの依頼票を手にとって受付に向かう。ちょうど、人が並んでいない受付があった。担当は元気そうな男性だ。
「こんにちは。転属の報告と納品です。これまではキグニルで活動してました」
「あ。それじゃあ、冒険者票の提示をお願いします」
おお、そうか。ガロンドでは初めての依頼だから、当然必要になるよね。
僕とハルファが冒険者表を見せると、受付の男性は驚きの表情を浮かべた。
「えっ!? こんな子供がCランク!?」
……心の声、漏れてますよ。
しかも声がデカい。
「し、失礼しました。納品物は……月光鈴蘭!? ゴルドディラも!」
うーん、全部丸聞こえだ。
このお兄さん、ちょっとポンコツかもしれない。
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