未来のゴーレム師?
エンチャントスキルを取得してから色々と試してみた。このスキルがあれば、かなり忠実に付与者――つまり僕の魔法を再現する魔道具が作れる。例えば、クリーンの魔法。一般的なクリーンは汚れを落として綺麗にするだけの魔法だけど、僕には違った使い方ができる。除菌や邪気の浄化、鉄の抽出なんかもクリーンでできるからね。エンチャントを使えば、僕の使う特殊なクリーンも魔道具化できちゃうんだ。
僕の魔法をエンチャントした魔道具――普通の魔道具と区別するために付与魔道具と呼ぼうか――はマナがあれば誰でも使えるみたい。驚いたことにゴーレムでも使えるんだ。それも、アレンたちだけじゃなくて、自我なしゴーレムも。ただし、魔道具を使う際に必要なマナは自分たちの稼働用マナから消費されるから、使いすぎるとすぐに動けなくなっちゃうけど。
エンチャントスキルの欠点はマナ消費が激しいことかな。付与魔道具を作るときに一回限りの使い捨て型か、何度でも使える繰り返し型かを選べるんだけど、どちらも結構なマナを必要とする。使い捨て型なら本来使用するときの二倍から三倍。繰り返し型は少なくとも十倍以上のマナが必要になりそう。
クリエイトウォーターくらいならともかく、クリエイトゴーレムのアレンジ魔法を繰り返し型で作るのはちょっとマナが足りない。というわけで、ジョットさんが望む『人形を素に自我ありゴーレムを作る』魔法は使い捨て型で提供することにした。
それが数日前のことだ。
今日、僕は再び人形工房へとやってきた。レイレ――ジョットさんが作ったゴーレムの調子を見るのが目的だ。
工房の扉を開けると出迎えてくれたのは、ジョットさんとレイレ、そしてレイレを頭に乗せている見知らぬ女の子だった。女の子は少しちぐはぐな印象を受ける不思議な子だ。線が細く病弱そうに見えるんだけど、表情はニッコニコで気力に満ちあふれている感じ。年齢は僕より少し下くらいかな。外見の雰囲気はレイレに似ている。
「やあ、トルト君! わざわざ来て貰って悪いね。レイレはこの通りちゃんと動いているよ!」
ジョットさんは不思議とテンションが高い。レイレが期待通りに動いていることが嬉しいのかな?
そのレイレは、ジョットさんの言葉に頷くとひょこっと右手を上げた。うん、動作には問題がなさそう。今日までちゃんと稼働していたのなら、魔力の補給にも問題はないんだろうね。
「杖の方はどうでした? レイレにもちゃんと使えましたか?」
実は、レイレ用に幾つか付与魔道具を渡しておいたんだ。僕の作ったゴーレムが使えるのは分かってるけど、他の人が作ったゴーレムでも使えるのかなという確認のためにね。レイレに使いやすいように、小さく切り出した木の棒を杖のように加工してから魔法を付与した。
用意した杖は三本。それぞれ、クリエイトウォーター、ファーストエイド、クリーンが付与されている。本当は、一本に三つの魔法が付与できれば良かったんだけどね。今のところ、エンチャント済みの道具に更に追加でエンチャントすることはできないんだ。
アレンたちにも使えたんだし、レイレにも同じように使えるだろうと思っていたんだけど……ジョットさんの反応は予想と少し違った。否定も肯定もしないで、ニコニコと笑顔を浮かべている。悪い反応だとは思えないけど、ちょっと意図が読めないね。
「使えませんでしたか?」
「いや、そういうわけではないんだ。でも、ちょっと変わったことが起こってね。……あれは普通のクリーンだったのかな?」
「たぶん……」
あれ、どうだったかな?
クリーンは何種類か作ったから、他のと間違えて渡した可能性も否定はできない。
「何かおかしなことがあったんですか?」
「声が聞こえなくなりました!」
問いかけると、ジョットさんに代わって女の子が答えた。
「ええと……?」
「ああ、紹介がまだだったね。この子は私の孫のリルだよ」
ひょっとしたらと思っていたけど、まさかこの女の子がリルだなんて。足が不自由で歩くことができないと聞いていたのに、今は自分の足でしっかりと立っている。いったい、何があったんだろう。それに声が聞こえなくなったって、何のこと?
詳しく話を聞いてみると、何となく事情が把握できた。まず、声については心当たりがある。たぶん、ガルナラーヴァの声だ。試練がどうのって言ってたそうだから間違いないだろう。そして、僕がレイレに渡したのは邪気浄化用のクリーンだったみたいだ。結果として……声の元凶は浄化されちゃったっぽい。
うん、クリーンの杖を渡し間違えた僕、グッジョブだよ!
ジョットさんやリルの話から推測すると、おそらく、リルの足が不自由だった理由はガルナラーヴァの声が原因。つまり、生まれたときからガルナラーヴァに憑かれていたことになる。もしかしたら、アイングルナにはリルと同じような境遇の人が他にもいるのかもしれないね。
「まさか、リルがガルナラーヴァに憑かれていたなんて……。もしも、トルト君に助けてもらわなければどうなっていたことか! 本当にありがとう!」
「あ、いえ……。クリーンのことは偶然なんで……」
「偶然でもだよ! 私たちが君に救われたことには変わりない! 私たちができることは何でも言ってくれ! 今度は私たちが君の助けになろう」
感激したジョットさんに何度も何度もお礼を言われて、正直ちょっと困ってしまう。意図して助けられたのなら良かったんだけど、ただの偶然だからね。でも、邪気浄化クリーンの付与魔道具は便利そうだ。邪気を浄化しないときは、普通のクリーンと代わらない効果みたいだし。
そんなことを考えていると、リルがテテテと近づいてきてニコリと笑いながら言った。
「私も、トルトさんみたいな立派なゴーレム師になりますね!」
え、僕ってゴーレム師だったの?
まあ何にせよ、彼女が元気になって生きる目標ができたなのなら良かったかな。
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