25. スロットミミックの特徴

「これ、異形を倒す訓練に良さそうだよね?」

「たしかにな。いざ、手に負えないと判断すれば、雷属性で倒せるというのも悪くない」


 僕の言葉に、ローウェルが同意する。


 やっぱりそうだよね。対異形の訓練所として悪くはなさそうだけど、どうしてガルナは浮かない表情なんだろう。


 不思議に思っていると、ガルナが僕の顔を見てふぅと息を吐いた。


『訓練には悪くないじゃろうが……銀の異形を見て、スロットミミックと同じタイプの魔物とは思わんじゃろ、普通』


 それはたしかに。同じ弱点を持つ魔物は、似たような姿形をしていることが多い。銀の異形を見て、スロットミミックと同じ対処で大丈夫だとは思わないだろうね。初見では。


「まあ、でも訓練しておけば、弱点に気付いたときに対処しやすくはなるんじゃない?」


 僕が指摘すると、ガルナは“そうじゃな”と言ったあと、首を横に振った。


『じゃが、他にも問題がある。次はハルファが倒してみるといい』

「私?」

『うむ。ショックボイスならば、確実に核を狙えるじゃろ』


 試してみればわかると言わんばかりに、ガルナはそれきり口を開かない。しかたなく、ダンジョンを進んで次のスロットミミックを探した。三つ目の小部屋に辿り着いたとき、前方からガタガタと音を立てて、新手のミミックが姿を現す。


「拘束は私に任せてよ、ハルファちゃん!」

「お願いね! じゃあ、いくよ!」


 スピラが拘束して、ハルファがショックボイスを放つ。攻撃を受けたスロットミミックの回転リールが止まった。そこに描かれていたのはさくらんぼ――チェリーだ。どうやら、リールに描かれている絵柄はチェリーやプラムといった僕にとっては見覚えがあるものみたい。


「これで終わり!」


 五度目のショックボイスでスロットミミックのリールは全て停止した。残念ながら絵柄はバラバラだ。とはいえ、僕らの目的はスロットの絵柄を揃えることじゃないので、何の問題もない……はず。というのに、スロットミミックはなかなか消滅しない。


「まさか絵柄を揃えないと倒せないなんてことは……」

『いや、それはない。じきに消滅するはずじゃ』


 頭に過ぎった不安を口にすると、即座にガルナから否定された。その直後、その言葉を証明するかのように、スロットミミックの体が溶けるように消えていく。


「倒せはしたけど……」

「ドロップはこの魔石だけ……?」

『なんだか凄くちっちゃいぞ!』


 残念なのはドロップアイテムだ。残ったのは小指の爪ほどもない魔石が一つだけ。たぶん、ゴブリンの魔石よりもしょぼい。


 ハルファがショックボイスを五回放たなきゃ倒せない魔物は普通ならCランク以上だ。スロットミミックの場合ちょっと特殊だから一概には言えないけど、それでもゴブリンとは比べものにならない強さだと思う。それなのに得られるのはゴブリン以下の魔石がひとつ。割に合わない。


「ガルナ。どういうことなの?」

『スロットミミックは核を攻撃したときに現れる絵柄が揃うか否かでドロップのランクが変わる魔物なんじゃ。で、大抵はハルファのように何一つ揃わない。リスクに見合わない魔物というわけじゃな。第一階層、第二階層ではしっかりと稼げるのじゃから、わざわざ稼げない第三階層まで降りてくる冒険者はほとんどいないじゃろうな』


 首を振りつつ、ガルナが解説する。


 うーん、なるほど。倒すのに運要素がいるのかと思ったけど、ドロップアイテムに関わってくるのか。


 ガルナの指摘通り、このドロップアイテムの渋さじゃ、冒険者が第三階層を積極的に探索することはなさそうだね。第四階層に向かうときには通らざるをえないけど、そのときも倒すなら雷属性の魔法でさくっと倒しちゃいそう。異形対策訓練にはならないね。


 せっかく良さそうな訓練環境なのに残念だなぁ。


 僕はそう思ったのだけど、ハルファは違ったみたい。ニマリと笑みを浮かべている。


「でも、最大ランクを引き当てたら、いい物が手に入るんでしょ?」

『かなりの金銀財宝がドロップするはずじゃ。じゃが、その確率は極めて低い。まず引き当てるのは無理じゃろう』

「トルトならできるんじゃないかな? それを誰かが見ているところで引き当てれば、興味を持つ冒険者はいるんじゃない?」

『……なるほど』


 ハルファとガルナの視線が僕を向く。スピラとローウェルも頷いている。さすがにそんな都合良くいくかな……と思いつつも、僕自身、外すイメージは全くないんだよね。


『試しに倒してみればわかるぞ!』


 シロルが尻尾をぶんぶんと振りながら提案した。まあ、結局はその通りなんだけどね。


「じゃあ、次は僕が倒してみるよ」

「うんうん、トルトならできるよ!」


 ハルファの声援を受けながら、次の獲物を探す。隣の部屋に移動すると、すぐに標的を見つけることができた。


「拘束しようか?」

「いや、たぶん、大丈夫」


 スピラの申し出を断って、スロットミミックに接近する。今までの動きを見た限りでは、それほど素早い魔物じゃない。しかも、大口で噛みつかれると危ないけど、逆に言えば他に攻撃手段はないみたい。できるだけ、正面に立ち回れば、危険は少ない。


 一度、二度と斬りつける度に、“リールが止まったよ!”とハルファが教えてくれる。適当に斬っているだけなんだけど、核を攻撃できているようだ。そして、五度目の攻撃のあと、突然謎のファンファーレが聞こえてきた。発生源はもちろんスロットミミックだ。


「すごいすごい! 一列揃ったよ!」

『なんだ? これは良い当たりなのか?』

『うむ。一番良い当たりじゃな』


 どうやら上手く大当たりを引けたみたいだ。正面に回ってみると、リールは中央列が全て7の絵柄で揃っている。


 ファンファーレとともに、スロットミミックが消えた。同時に、どこからともなく、ズザザと音を立てて、目映いばかりの金貨や銀貨、宝石類が湧き出てくる。これならかなりの収入になりそうだ。


 だけど、そんな財宝よりも僕の目を引いたのは魔石だ。大量のお宝に押しやられて地面に転がるそれは、普通の魔石とは異なり金色に輝いている。


 たぶん、変異魔石だ!

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