26. ピンポンパンポーン

「ピカピカ魔石だね。なんだっけ、これ?」


 金色に光る魔石を見て、ハルファが首を傾げる。珍しいものだから、詳しくは覚えてないみたいだね。


「前にゴールデンスライムを倒したときに似たような魔石が出たじゃない。あれと同じじゃないかな」

「ああ! それで薬を作って、トルトの魔法がすっごくなったんだっけ?」

「そうそう」


 ゴールデンスライムの話をすると思い出したみたいだね。そういえば、あの変異魔石で作ったステータス向上薬を飲んで【創造力】の特性を取得したんだったっけ。じゃあ、この魔石で作った薬も特別な効果があるのかな。


「うん。やっぱり変異魔石だったみたい」


 鑑定ルーペで確認したところ表示されたアイテム名は『スロットミミックの魔石(変異)』だった。僕の報告に、ハルファがニパッと笑う。


「じゃあ、またトルトの魔法がパワーアップするんだね!」

『僕は料理がパワーアップして欲しいぞ!』

「トルト君のことだから、ゴーレムに関係する力じゃないかな?」

「いや、まったく未知の力を手にする可能性もある。トルトだからな……」


 ハルファだけじゃなく、他のみんなも僕がどんな能力を獲得するか、楽しげに話している。何故か僕が使うってことで確定しているみたい。まあ、何が起こるか不明なところもあるし、積極的におすすめもできないけどさ。


「とりあえず、先に進もうよ」


 薬については今ここで作るわけにもいかないし先に進む。途中に現れたスロットミミックも僕が倒すとやっぱり大当たりで金銀財宝がじゃらじゃらと出てきた。残念ながら魔石は普通のだったけどね。だけど、三体目のスロットミミックを倒したとき、今までとは違う現象が起こった。


「――なんだ!? みな、警戒しろ」


 ふいに廊下に響いた聞き慣れない音に、ローウェルが警戒を露わにする。ハルファとスピラもそれぞれに左右を警戒し、シロルも背後を見張っているみたい。状況がわかっているのか、ガルナだけは平静を保っている。


 僕も驚いてはいるけど、あまり警戒はしてなかった。何故なら、その音に僕は少しだけ馴染みがある。“ピンポンパンポーン”って店内アナウンスが始まる合図の音だったから。


『ええと、業務連絡業務連絡。トルトさん。これ以上スロットミミックを倒さないでください。お願いします。ただし、私の使徒になるのでしたら……あ、ちょっと、なによ! ああ、やめて! わかった! わかったから――……』


 合図のあと、聞こえてきたのは幸運神様の声だった。途中、何かドタバタ聞こえたあと、幸運神様の声は途切れ、“ピンポンパンポーン”の合図で放送が終わった。


「今のって……」

「幸運神様、だよね?」


 ハルファとスピラが顔を見合わせる。自然とみんなの視線がガルナに向かった。その視線を受けて、ガルナは少し不機嫌そうに頷く。


『うむ、ルーライナの声じゃな。まったく、いつの間にこんなもの仕込んだんじゃ』


 どうやら、放送自体はガルナも把握してなかったみたいだね。


 それはともかく、幸運神様からの放送は魔物を倒すなという要望だった。だけど、スロットミミックは能動的に襲ってくるタイプの魔物だ。倒すなというのはちょっと無茶な話だよね。


「さっきの、スロットミミックを倒さないでっていうのはどういう意味かな?」

『ん? ああ、あれか? あれはエネルギー収支の問題じゃろう』

「エネルギー収支?」

『そうじゃ』


 ガルナの解説によれば、このダンジョンの運営は階層ごとに影響を及ぼした神様の力で運営されているみたい。つまり、この階層だと幸運神様の力――運気で運用されているようだ。


『このエネルギーで魔物を作り出したり、ドロップアイテムを作り出すわけじゃな』


 つまり、スロットミミックのドロップする金銀財宝も運気の力で作られているらしい。普通はダンジョン運営に少しくらいエネルギーを使ったところで、神様の力が損なわれることはないんだけどね。


『じゃが、スロットミミックで連続して大当たりを出されると、エネルギーの生産量を消費量が上回るみたいじゃな。それで焦ったんじゃろう』


 な、なるほどね。僕が大当たりを引き当てるたびに、幸運神様は急な出費が発生するんだ。それで、止めてくださいと泣きを入れてきたわけか。


「でも、それって大丈夫なの? ここにたくさんの冒険者が来たら……」

『心配いらんじゃろ。あやつ、幸運神のくせに当たりの確率を相当低く設定しておる。渋すぎじゃ。トルト以外にはまともに当てられんじゃろ』


 ガルナが言うと、みんながうんうんと頷く。だったら、問題ないかな。


 この階層はスロットミミック以外に見所はなさそうなので、あとはすいすい進むことにした。途中で現れたミミックは僕以外で倒す。五体くらい倒したけど、たしかに大当たりを引き当てることはなかった。唯一外れじゃなかったのは、シロルがとどめを刺したミミックが骨付き肉をドロップした程度かな。シロルは大喜びしてたけど……たしかに渋い。


 そうこうしているうちに、下り階段を見つけた。さて、次は廉君の影響下にある階層かな?


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スローペースでゆるっと再開します。

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