27. 運命の迷宮

 階段を降りた先はかなり整った区画だった。石レンガの壁と石畳。迷宮と呼ぶにふさわしい雰囲気だね。階段からまっすぐな通路が延びていて、少し歩くと立て札が見えてくる。


「ええと、“これより先は運命の迷宮。運命に導かれし者だけが財宝を手にする。覚悟無き者は去れ”だって」


 看板に記された文字をハルファが読み上げた。


「運命の迷宮か。ちょっと大変そうかも……」

「そうだな。今までのダンジョンとは雰囲気が違う」


 スピラとローウェルは看板の仰々しい文言に警戒しているみたいだけど。


『そう構えずとも良い。ラムヤーダスの悪乗りじゃ。厄介な迷宮じゃが、危険は少ない』


 とガルナが肩の力を抜くように諭す。まあ、僕も同意見だ。絶対、これ廉君がふざけてやってるって。だって、前世でこのメッセージ、見たことあるもん。


 運命の迷宮は、とあるRPGの隠しダンジョンだ。本編とは関係ないダンジョンなので開発した人たちがやりたい放題したのか、理不尽に難度が高いと話題になった。魔物が強いとかじゃなくて、ギミックがえげつないという理由で。


 たしか、通路の真ん中に転移罠が仕掛けられていて、気づかないうちに似たような別の通路を歩かされていたりとか、一度通過すると戻れない一方通行扉で正しい扉を選び続けないと抜け出せないエリアとか、転移先がランダムで切り替わる五つの転移陣で運良く正解を引き当てる必要があったりとか……まあ、とにかく大変なダンジョンだった。


 もし、廉君がそれを再現したというのなら、ちょっと面倒そうだね。運ゲー要素が多めだし。あれ……でも、僕の運なら問題ないかもしれない。


『トルトがいればきっと平気だぞ!』


 ダンジョンの内容なんて知らないはずなのにシロルが言う。でも、まあ、何となくそんな気がするよね。


 最初の小手調べで迷ったり……


「あ、最初の分岐点だ」

「ええと“三つの扉のうち、正解はひとつ。ヒントは……”」

『トルトはどれだと思うんだ?』

「え、赤い扉かな」

「うむ、それで行ってみよう」

『お主ら、ヒントくらい読んでやれ』


 通路と転移罠の組み合わせに惑わされたり……


『ぬ? 匂いが変わったぞ! 転移だ!』

「え、そうなの? 全然気がつかなかった」

「シロルちゃん、偉い!」

「となれば、まっすぐ進み続けても正解の場所にはたどり着かない可能性があるな。引き返すか?」

「そうだね。……あれ、ここの壁、隠し扉だ!」

『本来ならこの先の小部屋にヒントがあるんじゃが……』


 厄介な罠に時間を取られたり……


「“転移罠のエリア”だって。床にたくさんの転移罠が設置されているから、それをかいくぐってゴールまでたどり着かないといけないみたい」

『罠があるのか? 全然、わからないぞ!』

「うーん、僕の【罠解除】でも、ところどころしかわからないなぁ。まあ、大丈夫だよ。僕が行って目印をつけていくね。あ、その前にハルファの影でゴーレムを作っとこう」

「なるほど。もし転移罠を発動させてもシャドウリープで戻ってくるつもりか」

「トルト君なら、一発クリアできそうだけどね」

『転移で戻ってこられると、転移罠も形無しじゃな……』


 理不尽な試練に苦しめられたり……


「“最後の試練。運命の扉”だって。この20の扉の中で正解は一つだけで、残りの扉は入り口まで戻されちゃうみたい」

「入り口まで戻れるの? 帰るのは楽そうだね」

『一度のミスで入り口まで戻されるんじゃぞ。普通は理不尽に思うんじゃが』

「普通はそうかもしれん。だが、トルトがいるからな」

『で、どの扉を選ぶんだ?』

「右から二番目かな。あ、正解みたい」


 大変な道のりだったけど、とうとう迷宮のゴールにたどり着いた!


 迷宮のゴール地点は小部屋になっていて、部屋の奥には祭壇らしきものが三つ並んでいた。祭壇の上にはそれぞれ一つずつ宝箱がのせられている。


「ええと、“運命に導かれし者よ。様々な苦難を乗り越えて、よくぞここまでたどり着いた”」


 部屋の真ん中に設置された看板を読み上げながら、ハルファが首を傾げる。


「苦難って……何かあったっけ?」

『魔物もいなかったし、全然大変じゃなかったぞ』


 ハルファとシロルは本当に不思議そうな顔をしてる。


「二人とも、そこは空気を読もうよ。廉君が拗ねちゃうかもしれないよ」

『いや、その気の使い方はどうなのじゃ……』


 ハルファとシロルを窘めると、何故だかガルナに呆れられてしまった。スピラとローウェルも苦笑いだ。なんで?


 まあ、それはともかく宝箱だ。


「三つ全部開けていいの?」

「あっ、ちょっと待って、続きがあるよ。“宝箱三つのうち、開けることができるのは一つだけ。そのうち一つは大当たりで、一つは当たり、残りは外れだ”だって」

『むぅ? 一つだけしか駄目なのか?』

「みたいだね」


 うーん、やっぱり。これもゲームと同じだ。ここが一番の理不尽ポイントって言われてたところなんだよね。最後の試練を越えたあとに、また運試しがあるんだもの。外れだった場合は、ダンジョンを入り直せば再挑戦できるとはいえ、運ゲーの繰り返しを強いられるので非常に不評だったんだ。


「どれにする?」

「トルトに任せる」


 尋ねると、ローウェルが代表して答えた。


 まあ、そう言うかなとは思ったけど。運が関わることに関しては、僕の担当だものね。さて、どの宝箱にしようかな?

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