28. 選んだのが当たり

 自由に選んでいいと言われると迷うけれども、でもその迷いに意味はない。別に推理とかするわけじゃないからね。というわけで、勘に任せて真ん中の宝箱を選んだ。


「一応、罠チェックしとこうか」


 ゴールまでたどり着いたご褒美だから罠なんてないと思うけど、そういう油断が危険を招く。ちゃんと調べるのは重要だ。


「たぶん、罠はない、かな。鍵はかかってるみたいだけど」


 ゲームではそんな描写なかったんだけどね。でも、鍵開け難度は高くなさそう。解錠ツールを使って鍵穴をいじっていると、すぐにカチリと音を立てて鍵が開いた。


『食べ物! 食べ物が入ってるとうれしいぞ!』

「うーん、大当たりで食べ物っていうのはちょっと想像がつかないなぁ」

「極上のお肉とか?」

「ダンジョン報酬としては微妙だな……」

『お主ら、大当たりが出ることを微塵も疑っておらんな……』


 宝箱の中身を予想してわいわいと騒ぐみんなの声を聞きながら、ゆっくりと宝箱を開ける。中身が確認できた時点で、部屋の雰囲気が変わった。全体的に暗くなり、選ばなかった宝箱はいつの間にか消えている。


「なになに、どうしたの!?」

『案ずるな。宝箱を複数開けさせないための仕掛けじゃ。じゃが、これは……』

「あ! 看板の内容が変わってる!」


 部屋の中央に設定されている看板の内容まで変わっているみたい。それに気づいたハルファがすぐに読み上げる。


「“残念ながら外れだ。これにめげず、再度挑戦するがいい。迷宮はいつでも挑戦者を待っている”……えっ? 外れ!?」

「何!?」

「嘘でしょ……?」


 ハルファ、ローウェル、スピラが信じられないという表情で僕を見てる。ただ、シロルだけは普段と変わらない様子だ。それが気になったのか、ガルナが尋ねた。


『お主は驚いておらんようじゃな。何故じゃ?』

『別に驚くことじゃないぞ? トルトが外したんなら、外した方が良い結果だからに決まってるからな!』


 自信満々に言うシロルを見て、ハルファたちが“なるほど”と感心の声を上げる。いったい、どういうことなの。


 まあ、シロルの言葉は概ね間違ってない。だって、僕にとって、この外れは大当たりよりも価値があるものだったから。


「中身は……パンドラギフトでした!」

「ええ!? 凄い、大当たりだね! あれ、外れだったのに?」


 僕が笑顔で告げると、釣られたようにハルファも笑顔で応えた。だけど、途中で自分の言葉に違和感を覚えたのか、混乱している。


 その様子を見たスピラが、少し苦笑いを浮かべて、ハルファの肩に手を置いた。


「ハルファちゃん、パンドラギフトって、普通は外れアイテムだよ」

「あ、そうか! だから外れだったんだ!」


 そうなんだよね。スピラとハルファの言うとおり、パンドラギフトは一般的に外れアイテム。だけど、僕にとってはちょっとやそっとの財宝じゃ代わりにならないほど価値のあるアイテムだ。


『ほら、僕の言ったとおりだったぞ!』

「そうだな。世間的な評価と、当人が感じる価値はまた別ということか」


 誇らしげに笑うシロルにローウェルが頷く。そして、ガルナは呆れたように、首を振った。

『だとしても、乖離が激しすぎじゃろ……』


 たしかに、僕ほどパンドラギフトを評価している人間はいないと思うけどね。


 ……いや、もしかしたら、例の教団の幹部達は欲しているかもしれない。このダンジョンの元の核が銀化したパンドラギフトだったみたいだからね。


 まあ、それはともかくとして、だよ。


「このダンジョン……というか、この階層は何度も挑戦する価値あり、だね!」


 宝箱を開けて外れアイテムだったときの落胆は凄いって聞くけど、だからと言って出現確率がことさら高いわけじゃないんだよね。つまり、外れアイテムだからといって、狙って入手できるようなものじゃないってこと。


 だけど、この階層なら、三つの宝箱のうち、一つは確実に外れアイテム。つまり、確率は三分の一ってことになる。外れアイテムの宝箱にパンドラギフトが入ってるとは限らないけど、それでも挑む価値は十分にある。


「パンドラギフトを集めるのか?」

「うん。切り札になるからね。幾つか持ってる方が安心できるから」


 ローウェルの問いに頷く。パンドラギフトは幾つあっても困らないからね。集められるときにはしっかりと集めておきたい。


「このダンジョンなら、僕一人でも攻略できそうだし、みんなは自由にしててもいいよ」


 僕はパンドラギフトを手に入れたいという欲があるから平気だけど、他のみんなにとって同じダンジョンを難度も繰り返すのは、辛いだろうからね。


「そういうことなら、スピラちゃん、私たちは妖精界に行ってみようよ。ロロちゃんたちも待ってるみたいだし!」

「いいね! またソフトクリーム屋をやろうか!」

『おお! ソフトクリームを作るのか。なら、僕も行くぞ!』


 というわけで、僕らはしばらくこのダンジョンに留まることなった。


 よし、パンドラギフトを集めるぞ!

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