完売しました
本日、ついにハンバーガー屋台をオープンさせた。メニューは三種だ。普通のハンバーガーは銅貨5枚、チーズバーガーが銅貨8枚、そしてテリヤキバーガーが大銅貨1枚だ。屋台メニューとしては値段が高めだけど、たまご、チーズ、砂糖と割と高価な食材を使っているので仕方がない。
屋台の場所は契約のときにある程度指定されるようだ。僕たちは東西を走る大通りに近い広場を指定された。人通りも多く、集客力は高そう。たぶん、かなりいい場所だ。ルランナさんが気を利かせてくれたのかもしれない。もっとも、テリヤキバーガーが話題になれば、醤油の需要が高まるという計算もあると思うけど。
料理コンテスト当日は改めてクジで場所決めするみたいだけど、事前に名前を売れることはかなりのアドバンテージになる。できれば、コンテスト当日までにバーガーファンを増やしたいね。
「いらっしゃ~い! おいしいハンバーガーだよ! 翼人が大好きなハンバーガー、是非食べてみてね~!」
ハルファが屋台の前で客を呼び込んでいる。その隣でシロルも、わふわふとアピール。思念伝達は禁止しているから、何を言っているのかはわからないと思うけどね。でも、きっと集客効果は高い。モフモフ好きの人は吸い寄せられるかのように、集まってくるんじゃないかな。もっとも、その人たちが商品を買ってくれるかどうかはわからないけど。
秘策はある。そのために新魔法のブリーズを覚えておいたんだ。ブリーズは風の初級魔法で、何の効果もない微風を生み出すという魔法だ。魔術師ギルドで見かけたときは何の意味があるんだろうかと思ったけれど、商品アピールにはうってつけの魔法だった。
ハンバーガーの材料は事前に作成して収納リングに入っているけど、この場でテリヤキソースだけは作ることにしている。みりんがないから、なんちゃってのテリヤキソースだけどね。醤油と砂糖、そして、砂糖を原料にしたお酒を混ぜて火にかける。焦げないように混ぜながら熱していくんだけど、このときに香ばしくて食欲をそそる匂いが立ち込めるんだ。だったら、この匂いを活かすしかないよね。ブリーズの魔法を使って、テリヤキソースの香りが大通りへと向かうように調整する。お腹が空いている人にはなかなかのアピールになるだろうね。
「この匂いは……やっぱりテリヤキバーガーか!」
匂いにつられてやってきたお客様第一号はザルダン親方だった! 職人見習いのマーク君も一緒にいる。どうやら商業ギルドへの用事の帰りみたい。この辺りは商業ギルドや冒険者ギルドにも近いから、それらに用事がある人をターゲットにして売り上げを伸ばせるんだ。
「テリヤキバーガーがオススメだけど、普通のハンバーガーとチーズバーガーもあるよ!」
「なに? む、チーズバーガーも美味そうだな! ぐぅ……、どちらをどれだけ頼むか……!」
挨拶を交わす間もなく、ハルファがスススっと親方に近づき、すかさず商品の説明をしている。親方はチーズバーガーにも興味があるみたい。テリヤキとチーズを何個ずつ買うか迷っているみたい。
ちなみに、チーズはそれなりに出回っている食べ物だ。ただ、量を確保しようと思うとなかなか難しいんだって。基本的には保存食だから、庶民は少しずつ食べるものみたい。このチーズバーガーはふんだんにチーズを使っているから、とても豪勢に見えるらしい。
「なあ。普通のなら銅貨5枚でいいのか?」
「そうだよ」
「そうか。なら、それにしとく。ひとつくれよ」
大騒ぎしながら悩んでいる親方をよそに、マーク君は普通のハンバーガーに決めたみたい。決め手はやっぱり値段かな。テリヤキバーガーと比較すると半額だからね。
「でも、親方がみんなの分を買ってくれるんじゃないの? あっちで悩んでるみたいだけど……?」
「ああ……。あれは違うんだ。きっと親方は全部自分で食べるんだと思う」
マーク君は真面目な顔でそう言った。
……嘘でしょ?
だって、親方は全部で10個買うとか言ってるよ? たしかに、職人さんの数とは合わないなと思ってたけど。さすがに、一人で食べるには数が多すぎるよ!
そんな考えが顔に出ていたのか、マーク君は表情を変えないまま首を横に振った
「親方は鍛冶の腕もいいし、面倒見がよくて尊敬できる職人だけど……食べ物を誰かに譲ったりはしない。絶対に」
「そ、そっか……」
何ともコメントに困る断言だ。
とはいえ、食べ物は譲ってくれなくても、見習いにもきっちりと給金を支払っているから待遇が悪いわけでもないみたい。親方の食い意地は張っているけど、鍛冶を学ぶ環境としてはかなり良い職場で、マーク君にも不満はないそうだ。
マーク君はその場でハンバーガーをペロリと平らげると、普通のハンバーガーも十分に美味しいと言ってくれた。ありがたいね。親方はというと、チーズバーガーとテリヤキバーガーを5個ずつ買って、満足げだ。さすがにこの場で食べるには多いので、持ち帰るようだ。持ち帰りようには、乾燥させた大きな葉っぱで包んで渡す。ラームという植物の葉っぱなんだって。見た目は大きな笹の葉みたいな形。屋台で料理を包む定番の素材らしくて、商業ギルドで安く売っていた。
親方が帰った後も、ゼフィルたちが立ち寄ってくれたりとお客が途切れることはなかった。多めに用意したつもりのハンバーガー各100個ずつも夕方を前に完売だ。
嬉しいし、ありがたいことなんだけど、なんとなくちょっと不安になってくる。まだまだ、無名のはずの初日から、この販売量って大丈夫なんだろうか。そういえば、親方が鉱人の知り合いにも声をかけるって言っていたし、ゼフィルたちも冒険者仲間に紹介するって言っていた気がする……。
と、とりあえず、明日の分はもう少し多めに作っておこうかな!
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