押し寄せる鉱人

 大変なことになっている。

 ハンバーガーが売れすぎてるんだ……!


 まず、テリヤキバーガーの売れ行きがすさまじい。どうやら、テリヤキソースが鉱人の味覚にクリーンヒットしたようで、次から次に鉱人のお客がテリヤキバーガーを買っていくのだ。しかも、一人当たりの購入数がちょっとおかしい。たいていは、ひとりで5個くらい買っていくんだ。それでも初めの数日は数人だけだったので対処できていたけど、日に日にお店にやってくる鉱人の数は増えている。どうやら、親方が知り合いの鉱人の前で見せびらかすようにテリヤキバーガーを食べているようだ。宣伝効果は抜群なんだけど……恨みを買ってないといいね。


 テリヤキバーガーほどではないけど、チーズバーガーと普通のハンバーガーもよく売れている。というか、最近では全種類ともお昼を少し過ぎた頃には完売しちゃうくらいだ。今でも、テリヤキバーガーを400個に残りの二種類を200個ずつ作っている。さすがに僕らだけでこれ以上増やすのは無理だ。


 それに、新メニューを研究する時間がとれないのが問題なんだよね。料理コンテストには新メニューで勝負しようと思ってたけど、毎日の仕込みが大変でそれどころじゃないんだ。


 もちろん、用意した商品が売り切れたら、それでお終いでいいんだけどね。毎日合計800個のバーガーを用意するから大変なだけで、提供数を減らせば余裕はできる。でも、今さら提供数を減らしたらどうなるか、ちょっと怖い。マーク君からは、テリヤキバーガーを確保できなかった鉱人職人はテンションが下がりすぎて使い物にならないから一定数提供してもらえないかと打診を受けているくらいだからね。


 そんな感じで手一杯になってしまった僕たちは、ローウェルの家にお邪魔して作戦会議だ。最近、何かあるとすぐにローウェルの家に集まるので、ちょっと迷惑をかけているかもしれない。とはいえ、スピラと遊ぶにもローウェルの家が一番だからね。どうも人が多いところが苦手みたいなんだよね。だから、外出中はたいてい透明化しているんだ。そのこともあってか、ローウェルも歓迎してくれている……はず!


「どうしようか?」

「うーん、思ったよりも大変だよね。さすがにこれを毎日続けるのは難しいかも」

『僕が食べる分のハンバーガーがいつもないぞ! これは問題だ!』

「あたしもハンバーガー食べたい……」


 屋台に乗り気だったハルファも疲れ気味で先行きに不安を感じているみたいだ。冒険活動とはまた違った疲れがあるんだよね。シロルとスピラの意見は……、まあちょっと申し訳ないかなと思う。今のところ、お店で出す分を作るので精一杯なんだ。


 屋台の目標のひとつは料理コンテストに向けての宣伝活動だったけど、そちらは問題なく達成できたと思う。だけど、もうひとつの翼人の情報収集については何の進展もない。そもそも忙しすぎて、お客さんと雑談している時間さえないんだよね。


「材料の問題もあるな。ラッシュブルの肉もそれほど残っていないぞ。狩りに行くか、いっそ冒険者ギルドで依頼を出した方がいいかもしれないな。店の方も人を雇うという手もある」


 ローウェルの提案に僕たちは顔を見合わせた。正直、ここまで忙しくなるとは思っていなかったら考えてもいなかったけど、その方がいいかもしれない。


 そうと決まれば、さっそく行動することにした。まだ夕刻には少し早い時間だ。商業ギルドでルランナさんに相談する時間はあるだろう。僕とハルファで商業ギルドに向かう。ローウェルには冒険者ギルドでラッシュブルの肉を確保する依頼を出して貰う。シロルとスピラは留守番だ。





 商業ギルドでルランナさんを呼び出して貰う。彼女は時々受付に出ているけど、大抵は自分の執務室で書類作業をしている。また若いはずなのに、どうやら商業ギルドでもそれなりの立場にいるみたい。そのはずなのに、自分でディコンポジションを習得したりと行動力が凄いんだよね。むしろ、その行動力によって出世したのかもしれないけど。


 しばらく待っていると、和やかな笑顔を浮かべたルランナさんが颯爽とやってきた。


「トルト様にハルファ様。本日はどういたしましたか」

「ちょっと相談したいことがありまして」

「そうですか。ではこちらにどうぞ」


 そう言ってルランナさんが応接室に案内してくれた。


「さて、本日はどのような儲けばな……相談でしょうか?」


 ……今、儲け話って言おうとしました?

 まあ、今まではそうだったかもしれないけどね。今回の場合、人を雇うだけだ。商業ギルドに儲けが出るような話ではないんじゃないかな。


 僕はハンバーガー屋台の現状と人手が必要なことを伝えた。ルランナさんは大きく頷くと、ニィっと笑った。商機を見いだした商人の笑顔だ。


「ハンバーガーは大変好評なようですね。私もいただいたのですが、実に美味しかった。コンテスト向けということは、あの値段でも採算はとれているんですよね?」

「え、はい。一応……」


 コンテストのルール的に材料費の二倍以上の価格にしないといけないから、ハンバーガーもそのルールに準じた値段設定にしてある。醤油に関しては価格が定まっていないから、微妙なところもあるけど、それはルランナさんに相談してあるから、承知の上だろう。


「ふふふ、そうですか。本当はコンテスト後に改めてと思っていましたが、そういうことならば話を先に進めましょう!」


 どうやら、ルランナさんに何か考えがあるらしい。……のはいいんだけど、すごくテンションが高いのが不思議だ。いや、不思議でも何でもないか。たぶん、また儲け話を思いついたんだろうね。


 ルランナさんは珍しく大げさな身振りで両手を広げると、とある提案をしてきた。


「トルト様、ハルファ様、ハンバーガー店を出しませんか? 業務は私どもに委託していただいて、お二人はオーナーという形で携わって貰うというのはどうでしょう」


 ハンバーガー店を開くの!?

 なんだか話が大きくなったなぁ……。

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