勧誘活動

「てめえら、ただで済むと思ってるのか? 俺たちゃ、泣く子も黙るバンデルト組の一党! 俺たちに何かあれば、組の連中が総出で報復に来るだろうぜ」


 賊のリーダーっぽい男が、僕たちを脅すようなことを言っている。体のほとんどが地面に埋まっていて、首だけ生えているような状態なのに、よくそんな強気なことが言えるよね。手下の賊も、同じ状態で気を失っているから、助けなんてこないはずなのに。


 ……あ、気絶したまま埋められたから、状況が理解できていないのか。


「仲間の人も、全員、後ろで埋まってますよ」

「そ、そんな、でまかせで、動揺させたって、無駄だぜ!」


 無駄といいつつ、賊リーダーの声は震えている。どうやら、薄々状況は理解しているみたいだね。たぶん、強がっているだけだ。


 まあ、ちょっとほっとした。これまでの発言から判断して、間違いなくこの人達はアルビローダの賊だ。無関係の人を生首状態にしたわけじゃないみたい。


「バンデルト組っていうのは有名なんですか?」

「なんだ? そんなことも知らないのか? くくく……聞けば後悔するぜ?」


 ベエーレさんに尋ねたつもりだったんだけど、反応したのは賊リーダーだった。名前を聞いただけなのに、何故かまた調子に乗っている。


 もしかして、組織の詳細を聞けば怯えると思ってるのかな? 残念ながら、この場にそれほど気弱な人間はいないんだよね。それどころか――……


「うーん。ご主人様、もう一度、どーんしようか?」


 賊リーダーの態度が気にくわなかったのか、ピノが鈍器を素振りしながら聞いてきた。ちなみに、彼女は相変わらずバニースーツを着ている。街で情報収集するときは着替えてもらうけど、基本的にはバニー姿で過ごしてるんだ。


「ひぃ!?」


 バニーガールがブンブンと鈍器を振る回す姿はちょっと異様だ。その分、変な迫力があるのか、賊リーダーは怯えている。もしかしたら、さっき殴られたことがトラウマになってるのかな。


「とりあえず、今は・・必要ないよ。ありがとうね、ピノ」

「は~い!」

「今は!? ずっと必要ないだろ! 止めろよ、ちゃんと!」

「……やっぱり、どーんした方がいいんじゃない?」

「すいやせんでした!」

「あはは……」


 ピノの脅しのおかげで賊リーダーもかなり大人しくなった。これで話しやすくなったね。向こうとしては堪ったもんじゃないだろうけど。


「バンデルト組はアルビローダを牛耳ってる賊の集団のひとつだな。たしかに有力集団の一つではある」


 外から見ると荒くれものたちの大集団と見えるアルビローダも、実際には幾つもの集団に分かれているみたい。ベエーレさんの解説によると、バンデルト組はその中でも上位に位置する無頼集団。実情を知っている人にとってみれば、恐怖の対象となり得るようだ。


「その……実は勢力図が大きく変わりまして……」


 ベエーレさんが一通り話し終えたところで、賊リーダーがピノの顔色を窺うように切り出した。すっかりと上下関係ができあがってるね。


 賊リーダーの補足によれば、外部組織の協力を受けてバンデルト組が一気に勢力を伸ばしている状況らしい。現在のアルビローダはバンデルト組の一強状態。それもあっての強気な発言だったみたいだね。


「そんなことになっているのか。こりゃあ、あまり良くない状況だな」

「どういうことです?」


 渋い顔のベエーレさん。尋ねると、しかめっ面のまま説明してくれた。


「今までは内部で足の引っ張り合いがあったんだ。アルビローダの中にも、まともな連中はいるからな」


 アルビローダの住人全てが賊として生きているわけではない。中には賊働きをする者たちを苦々しく思い、それを止めようとする集団もあったらしい。今までは、それらの集団が侵略や略奪行為に対する抑止となっていた。しかし、バンデルト組が覇権を握ったことで状況が変わる。アルビローダでも特に非道なバンデルト組が主導すれば、周辺国の略奪被害が増えることは避けられないだろう。


「それに、俺の伝手は穏健派の連中だからな。潜入してからも動きにくくなった」


 当たり前だけど、賊同然の人達とは仲良くできない。ベエーレさんもまともな人達を紹介してくれるつもりだったみたいだ。だけど、状況が変わって、その人達が無事でいるかもわからなくなってしまった。ベエーレさんの浮かない表情は、そういった事情が表れたものだったんだ。


 とはいえ、僕らの目的は変わらない。ベエーレさんも知り合いの安否が気になるということで、アルビローダへの潜入は続行することに決まった。


「で、コイツらはどうする?」


 ローウェルが気にしたのは賊の処遇。たしかに、悩みどころなんだよね。


 ここで解放してアルビローダに逃がしてしまうと、僕らの潜入が伝わってしまう。口止めしても、確実に守られる保証はないからね。そうじゃなくたって、改めて略奪行為に走られたりすると困るし。


 だからといって、このまま放置するのも躊躇われる。抜け出せなければ、遠からず魔物の餌だ。


「対処に困るなら、俺に任せてくれ」


 悩んでいると、ベエーレさんが名乗りを上げた。彼は賊リーダーの目をしっかりと見て語りかける。


「バンデルト組のトップは特に非情だと聞いているぞ。このまま組に戻ったところで、お前たちに居場所はあるのか? 無能と切り捨てられ、処罰されるだけじゃないか?」

「それは……」


 心当たりがあるのか、賊リーダーの声には怯えがある。僕にも感じられたのだから、商人であるベエーレさんが気付かないわけはないだろうね。心情の機微を敏感に察知するのが、商談のコツだって言うし。


 チャンスとみたのか、ベエーレさんはさらに畳みかける。


「そうじゃなくても、略奪行為なんて先がないだろ。いつかは捕らえられ、待っているのは死だぞ。ここらで、足を洗ったらどうだ? 実は、俺に仕事の当てがあるんだ。今度、珍しい料理の店を出すんだが、従業員が足りなくてな。どうだ? 一緒にやってみないか?」


 どうやら、ベエーレさん、賊の人達をカレー屋の従業員にするつもりみたいだ。平和的な解決手段だとは思うけど、この人たちがそれで納得するかな?


 だけど、その心配は杞憂だったみたい。いつの間に打ち合わせをしていたのか、ベエーレさんの目配せに会わせて、ピノが再び鈍器の素振りを始めたんだ。その効果は覿面だった。


「わ、わかりました! 部下たちも説得します! 是非、お願いします!」


 うーん、大丈夫かな?

 まあ、ピノを教育係にしたら、言うことは聞きそうだよね。

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