手伝ってくれるって聞いた
商業ギルドでの話を終えた僕たちは、ローウェルの家で合流した。ローウェルとお互いに得た情報を共有する。
「なるほど、俺の得た情報とも一致しているな。まさか、商業ギルドの催しの景品として素材が提供されるとは……。これもトルトの幸運が影響しているのか?」
「さすがに、偶然だと思うけど……」
宝箱や魔物のドロップなら僕の幸運による影響はすると思うけど、さすがに合ったこともない人たちの行動に干渉することはない……と思うんだけど、運命神様の気まぐれがなかったとはいえない。その辺りのことは考えても仕方ないので、ただ運が良かったと思えばいいんじゃないかな。
「というわけで、料理コンテストを頑張るぞー!」
「がんばるぞー!」
ハルファが拳を突き上げて宣言した。スピラもそれを真似している。
「料理に関してはトルトたちに任せることになるが、手伝えることがあれば言ってくれ。問題は鱗の方だな」
「そっちは、武具コンテストの優勝者と交渉して譲って貰うしかないよね」
まあ、交渉すればいいっていうのは竜の肉も同じなんだけどね。
とはいえ、希少なものらしいから、お金を積んでも交渉に応じないという人もいる可能性はある。だから、料理コンテストで手を抜くことはできない。そうじゃなくても、ハルファがやる気になっているし、僕だってせっかくなら優勝を目指したい。コンテストには全力を尽くすつもりだ。
一方、竜の鱗に関しては交渉の成功率は高いと見積もっている。なんといっても、僕たちはミスリルを持っているからね。ミスリルは鍛冶師からすれば憧れの金属だっていうし、コンテストで優勝するような人なら、きっとのどから手がでるくらい欲しいんじゃないかな。もちろん、赤竜の鱗も貴重な素材だけどね。耐火性能が高くて防具や耐火レンガの材料になるんだって。それでも、希少性でも実用的な価値でもミスリルの方がずっと上なんだ。だから、たぶん大丈夫。
まあ、交渉のことはとりあえず置いておこう。まずは料理コンテストで勝つことを考えないと。
料理コンテストでは王都の商業区画全体が屋台街のようになるんだって。特定の審査員がいるわけではなくて、来場者による投票で結果が決まるんだ。投票できるのは、自分が食べた料理だけ。ひとり3票まで投票できるらしいけど、同じお店に投票できるのは1票だけみたい。
この方式だと、場所による有利不利が発生しそうな気がするよね。ルランナさんはできるだけ平等に配置するという話だったけど、どうなることだろう。お客を呼び込む作戦も重要になりそうだ。
あと、自分が食べた料理にだけ投票できるっていうのがポイント。だから、味がよくても値段が高い料理は見向きもされない可能性がある。お祭りだから多少は財布の紐が緩むかもしれないけど、それにも限度があるからね。味と値段のバランスを考えなくちゃいけないのが難しいところだ。
さらに、料理の価格設定にはルールがあって材料費の二倍以下に設定してはいけないみたい。だからコンテストに勝つために、高級料理を赤字前提の値段で提供するというような作戦は許されない。もちろん、やるつもりはないけどね。ただ、僕たちの場合、醤油をいくらと計算すればいいのかわからないんだよね。コンテストまでに醤油が売り出されれば、それを基準として考えればいいのかな。あんまり高額にならないといいけど。
コンテストに関してはこんな感じだ。あとは、どんな料理でエントリーするかを決めなくちゃね。屋台は甘辛だれの肉串を提供するつもりだったけど、コンテストに参加するなら、もっと手の込んだ料理の方がいいかな。
屋台で提供できて、醤油を使った手の込んだ料理……?
んー、駄目だなぁ。あんまり料理の知識がないから、思いつかない。
「ハルファ。コンテストにエントリーする料理はどんなものがいいかな? 翼人の料理で良さそうなものってある?」
「う~ん、お醤油を使った料理でしょう? 色々あるけど、屋台で作れるものかぁ」
ハルファはしばらくウンウン唸っていたが、不意に顔を輝かせた。何か思いついたみたいだ。
「翼人の料理にハンバーガーっていう食べ物があるんだけど、その中でもお肉を照り焼きにしたテリヤキバーガーはお醤油を使うはずだよ!」
おっと?
今、わりと衝撃的なこと言いましたよ、ハルファさん。
え? 翼人ってハンバーガー食べるの?
納豆、醤油、味噌に留まらず、ハンバーガーまで。絶対、過去に転生者が関わってるでしょ。なんだか、翼人のイメージがだいぶ変わりそうだ。ハルファの話を聞く限り、文明レベルに差異は感じないけど、食文化はかなり地球世界の影響を受けてそうだね。
気になるけど、今はいいか。
ハルファの提案してくれたテリヤキバーガーはたしかにいいかもしれない。翼人以外には斬新な食べもの。それでいて、翼人には馴染みのある食べ物だから、翼人へのアピールにもなりそうだ。作り方も、僕に分かるレベルだしね。
「テリヤキバーガーか。たしかにいいかもしれないね」
「あれ、トルト。お醤油だけじゃなくて、ハンバーガーも知ってるの?」
「あ、うん。まあね」
おっと、そうか。翼人以外には知られていないハンバーガーを僕が知っているのは普通ならおかしい。ハルファには前世の記憶について折を見て打ち明けたほうがいいかもね。翼人の郷には転生者の伝承とか残ってるかもしれないし、意外とすんなり理解してくれそうな気がする。
『むむ、テリヤキバーガー……。よくわからないけど、美味しそうだな! 僕も食べたいぞ!』
「あたしも! あたしも食べたい!」
シロルとスピラが催促してくる。もちろん、断る理由はない……んだけど。問題はハンバーグのひき肉を作ることだ。ひき肉を作る機械なんてあるわけがないし、手作業でやるとしたらかなり大変そうだ。できれば、魔法でどうにかしたいところだけど……ちょっといい方法が思いつかないな。
いざというときは、ローウェルにひき肉づくりを頑張ってもらおう。そうしよう。
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