だいたい幸運値のせい

 僕がレイたちの実力に感心していると、レイたちが顔を見合わせていた。なんとなく納得がいかない、そんな顔だ。何に納得がいかないんだろう? 今の戦いを思い返してみても、特に思い当たることはないけどなぁ。


 と、ひとりで首を捻っていると、レイが呆れたような声で僕に言った。


「トルト、お前、おかしくないか?」


 なんと、駄目出しですか!?


 たしかに僕はパーティーを組んだこともないし、冒険者の作法なんてものも詳しく知らない。もしかして、知らず知らずのうちに、何か失礼なことやっちゃった……?


「おかしいって……何が?」

「何って……戦闘力だよ。トルトの加護は迷宮探索士なんだよな。それって探索職だったはずだろ。何でコボルトを一撃で倒せるんだよ……。戦闘職も顔負けする威力じゃないか」


 どうやら、レイがおかしいと言ったのは僕の攻撃の威力についてみたいだ。ミルとサリィも同意見なのか、うんうんと頷いている。僕が失礼な行動をとったというわけではなかったみたいだ。良かった。


「近接アタッカーよりもサクサクと撃破されちゃうと、私の立場がないんだけど」

「でもそれはレイが敵を引きつけてくれるからだよ。僕はミルみたいに敵と切り結んだりはできないから」

「それはそうなんだろうけど、やっぱり凄いと思うよ。迷宮探索士の加護による能力じゃないんだよね。そんな話聞いたことないし」

「ああ、うん。たぶんだけど――」


 推測も交じるけど、僕の把握している範囲で理由を説明する。


 【短剣】講習でドルガさんという冒険者に師事していること。なぜか暗殺術を仕込まれつつあること。【影討ち】というスキルのこと。そして、幸運値が高いせいで、狙ったわけでもなく的確な急所攻撃が実現できていること。


 話を聞いた三人は、なるほどと納得顔だった。


「ドルガの教えと並外れた幸運があると、ああなるのか」

「ドルガさん、たぶんトルトのこと、気に入ったのね」

「だろうね~。話を聞く限りご機嫌みたいだし」


 僕の幸運を加味してとはいえ、教えを受けたと説明しただけで戦闘職並の攻撃ができることを納得させるなんて……、ドルガさんは本当にどういう人なんだろうか。


「それにしても、みんなドルガさんのことを知ってるんだね」

「ああ。と言っても、父の知り合いという感じだな。冒険者になる前に、少し稽古をつけてもらったりもしたぞ」


 そういう繋がりか。なるほどね。


「納得した。あ、〈クリーン〉使うよ」


 苦戦しなかったとはいえ、レイとミルは少し返り血を浴びている。<クリーン>ですっきりした方がいいだろう。僕は今のところ、<クリーン>しか使えないから、マナも余っているしね。


「いいなぁ。私も覚えたいんだけど、なかなかね~。トルト君は何回目くらいで覚えられたの?」


 う~ん、どうしよう。

 サリィはすでに何度かスクロールを使ったけれど、まだ<クリーン>を覚えられていないみたいなんだよね。対して、僕は一度スクロールを使っただけで覚えられた。そのせいでなんとなく気まずいんだ。でも、これって才能の差とかじゃなくて、運の差だと思うんだよね。聞いた話によると、サリィは僕と同じ【魔法の素養Lv2】の特性を持っているみたいだし。


 まあ、変に誤魔化しても仕方がないか。


「えっと……、一回でだよ」

「ええっ!?」

「たぶん、幸運値が高いと習得しやすいんだと思う」

「そうなの!? 他にはスクロール持ってないの? ちょっと使って見せてよ」


 魔術のことだし、サリィが気にするのはわかる。僕もまだ<クリーン>のスクロールしか使ってないから、ほかのスクロールだとどうなるかは気になるんだよね。せっかくだから、試してみよう。


 僕が持っているのは、<ファーストエイド>のスクロールだ。さきほどのコボルトの攻撃を受けて、レイの腕に少し打ち身になっているところがあるので、スクロールを試すのにはちょうどいい。普通なら魔法で回復するほどの傷ではないけど、魔法を無駄撃ちするよりはいいよね。


 スクロールを手に持ち、呪文を唱える。すぐに魔法が効果を発揮して、レイの打ち身は跡形もなく治った。それと同時に、僕の頭にも新しい回路が出来上がったようだ。鑑定ルーペで確認すると、たしかに<ファーストエイド>を習得していた。みんなにもそのことを伝える。


「凄い! ずるいよ~、トルト君。私もそんな風に覚えられたらなぁ。あ、でも、トルト君がスクロール作成スキルを取得したら、どんなスクロールでも確実に複製できるんじゃ……?」


 サリィが何か恐ろしいことを呟いている。僕を複写機扱いする気だ!

 そもそも、高位魔法のスクロールでも一発で習得できるとは限らないんだから、落ち着いて欲しい。まさか本気じゃないよね?


 と、まあ。僕が高い幸運値の恩恵を受けていることが発覚したわけだけど、極め付きは探索終了間際の宝箱だった。


「あれ、何だろう。果物かな?」

「珍しいな。いや、まさかな……」


 その宝箱に入っていたのは、小ぶりの果物だった。全部で四種類ある。パンドラギフトから出た才能の実にどことなく似ている気がするね。レイが意味ありげに呟いているけど、心当たりがあるのかな? 


 まあ、鑑定してみればわかる。鑑定係はサリィにお願いした。いや、鑑定ルーペを使いたいみたいだから。


「ええぇ!? これ、全部、『能力向上の実』だよ!」

「嘘っ!? 四つ全部がそうなの?」

「こんなこと初めて聞いたぞ……?」


 みんなが驚いている。ということは、相当なレアアイテムなんだね。


 レイたちの話によると、能力向上の実は、食べた者の能力値を恒久的に上昇するアイテムみたいだ。滅多に手に入るものではないし、一度に複数手に入るなんてことはまずないとのこと。偶然手に入れたパーティーで、誰が使うかで揉めて解散したなんて話もあるくらい貴重なアイテムらしいんだけど……。


 ちょうど人数分あるので何の問題もないね!


 持ち帰ると、色々と問題が起こりそうなので、その場で食べることにした。向上する能力は実によって違い、レイは筋力、ミルが敏捷、サリィが魔力、そして僕は幸運が上昇する実を食べた。めでたしめでたしだね。正直、出来すぎているとは思うけど。


 宝箱を区切りとして探索を切り上げたんだけど、何故だかみんな疲れたような顔をしている。しかも、呆れたような目で僕を見るんだ。どうやら、最後の宝箱も僕の幸運値が作用したと思ってるみたいだね。だとしたら、結構、パーティーに貢献したことになると思うんだけど。それなのに、なぜぇ?


――――――――――――――――――――――


名 前:トルト

種 族:普人

年 齢:12

レベル:3 [1up]

生命力:25/25 [5up]

マナ量:17/22 [5up]

筋 力:10 [2up]

体 力:12 [2up]

敏 捷:19 [4up]

器 用:23 [5up]

魔 力:20 [4up]

精 神:17 [3up]

幸 運:114 [14up]


加護:

【職業神の加護・迷宮探索士】


スキル:

【運命神の微笑み】【短剣Lv5】[2up]

【影討ちLv1】[new]

【解錠Lv6】[1up]【罠解除Lv6】[1up]

【方向感覚Lv2】[1up]

【光魔法Lv2】[1up]


特 性:

【調理の才能 Lv1】【強運】【器用な指先 Lv1】

【魔法の素養 Lv2】


魔法:

〈クリーン〉〈ファーストエイド〉[new]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る