栄光の階
「ほらよ、トルト。お待ちどお」
「うわぁ、ありがとうございます」
「今日もダンジョンなんだろ? 頑張れよ」
そう言って、朝食の料理を運んでくれたのはブラスさん。山猫亭の料理人でニーナさんのお父さんだ。
本日の朝食は大ねずみの肉を使った肉野菜炒め。昨日ダンジョンでドロップしたものを僕が提供したんだよね。売ってもそんなに値段がつかないから、どうせなら、と思って。
ねずみの肉って病気とか持ってそうなイメージだけど、ダンジョンのドロップ品に関してはその心配はないんだって。第一階層の大ねずみの肉は、安くてそれなりに美味しいってことで、キグニルの庶民に親しまれている食材みたいだ。
安い食材でもブラスさんが調理すると格段に美味しくなる。きっと、【調理】スキルのレベルが高いんだろうな。食材を提供した見返りではないけど、ブラスさんに時間があるときに調理を教えて貰えることになった。僕も特性として【調理の才能】があるからね。せっかくの才能なんだから活かさないと。
朝食が済んだら、準備をして冒険者ギルトに向かう。レイたちとの待ち合わせは二の鐘だから、もう少し時間に余裕があるかもしれないけど、正確な時間がわからないからね。
朝も早い時間だけど、ギルトには活気がある。もしかしたら、一番人が多い時間かもね。ダンジョン内での素材採取の依頼なんかもあるから、それを受けてダンジョンに向かう人も多い。今、ギルドにいるのは、たいていそんな人たちだろう。
周囲の様子を観察していると、すぐにレイたちがやってきた。
「やあ、トルト。早いな」
「レイもね。ミルもサリィも、おはよう」
「うん、おはよう!」
「おはよ~……」
しゃっきりしているレイとミルとは対照的に、サリィは少し眠そうだ。朝に弱いのかな、と思ったらミルが理由を解説してくれた。
「昨日は色々な魔道具を見たから、少し興奮しちゃったみたい。夜遅くまで魔道具の本を読んで、寝るのが遅くなったみたいよ」
「ほんのちょっとだけだよ~……」
上手く口が回っていないのか、フニャフニャとした口調でサリィが言い訳する。この状態でダンジョンに潜ったりして大丈夫なのかな。
「気にするな。寝不足の朝はいつもこんな感じだが、しばらくしたら元に戻る」
心配が顔に出ていたのか、レイが付け足すように言った。付き合いも長いだろうレイとミルが心配してないなら大丈夫なんだろうね。
「おっと、そうだ。昨日の水差しだが、売れたぞ。と言っても、買い取ったのは俺の父だがな」
レイは僕に革袋を手渡してくる。膨れ具合からいって、中に入っている枚数は少なそうなのに結構重い。幾らで売れたのかなと思っていると、レイが顔を近づけて、こっそりと教えてくれた。
「金貨40枚で売れた」
「よんじゅ……!?」
思わず大きな声が漏れそうになり、慌てて抑えた。
想定よりもかなり高値で売れたことになる。金貨40枚ってことは、一人金貨10枚ってことだ。買い取ったのがレイの父親ってことだから、ご祝儀価格かもしれないけど、それでも凄い。
おっと。そんな大金をいつまでも手に持っていたくはない。いつものズタ袋にいれるフリをして、収納リングに収めた。
「ビックリしたぁ……」
「初のダンジョン探索の成果としては、上々よね」
ミルが楽しそうに笑うけど、上々ってレベルじゃないと思うよ。
僕達はギルドによってパーティー登録を済ませた。ちなみパーティーの名前は『栄光の
そのあとはもちろんダンジョンだ。本日の目的は第二階層の探索。浅い階層に関しては地図が出回っているので、それを頼りに第一階層は最短ルートで抜ける。
第一階層の魔物はアイテムドロップが渋いからね。弱い魔物ばかりだから危険は少ないけど、実入りも相応に少ない。実力が十分なら、より深い階層のほうが稼げるんだよね。
そういうわけでサクサクと進み、第二階層までやってきた。階層の様子は第一階層と変わらない迷宮タイプ。違うのは出現する魔物くらいかな。第一階層と比べると、多少手強い魔物が出るみたいだ。
探索を進めていると、幾つ目かの小部屋で魔物を見つけた。犬頭の人型魔物が五体。コボルトだ。
同じ人型のゴブリンよりも体格がよく、俊敏らしい。数もこちらよりも一体多い。だけど、レイたちに不安な様子はなかった。実際、彼らの実力なら、脅威はないんだと思う。第一階層で遭遇したゴブリン相手には危なげない立ち回りをしていたからね。
事前の取り決め通り、僕達はタイミングを合わせて部屋に飛び込んだ。先頭に立つのはレイだ。
「おい、こっちだ! 犬っころども!」
レイが挑発してコボルトたちの意識を引き付ける。五体のうち三体はレイをターゲットと定めたようだ。同時に三体を正面から相手取っても、レイの守りは小揺るぎもしない。盾で受け、剣で捌き、完全に戦いの流れをコントロールしている。さすがに攻撃に転じることは難しいみたいだけど、それは問題ない。レイの役割は引きつけて守ること。
残る二体のうち、一体はミルが受け持った。素早い動きで敵を翻弄している。幾度か斬りつけられたコボルトは既に満身創痍だ。決着もすぐにつくだろう。
では、最後の一体は僕が……と思ったんだけど。
「いくよ! 〈ファイアアロー〉」
サリィの放った炎の矢が残る一体へと高速で飛来する。詠唱が速い! 威力にも不足はなく、頭を消し炭にされたコボルトは崩れ落ちながら、消えていった。
このままじゃ、僕の仕事がなくなってしまう!
慌てて、レイが引き付けているコボルトの後ろに回り込む。コボルトたちにとっては完全に視界の外。おかげで安全に攻撃できる。
僕は近くにいるコボルトの喉元を背後から掻き切った。このときの角度が重要で、上手くすれば返り血を浴びずに倒せるんだ。
死角からの攻撃で【影討ち】が発動。これは昨日、ドルガさんの講習を受けて習得したスキルだ。効果は、対象の視界外から攻撃を仕掛けたときに威力が増加するというもの。まさしく、暗殺技能だ。【短剣】講習ではなかったのかと問いただしたい気分。でも、このスキルのおかげでコボルトも一撃で倒せるのだから、ありがたいけどね。
勢いに乗ってもう一体を同じ手口で倒す。ほとんど同時にレイの一撃がコボルトを袈裟斬りにしたのを見届けた。凄い威力だ。筋力とか、僕とは比べ物にならないんだろうなぁ。
ミルが相手にしていたコボルトも既にいない。全てのコボルトがダンジョンに還ったようだ。
うん、楽勝だった。レイたち、強すぎ!
装備が充実しているのもあるんだろうけど、そもそも戦い方が板に付いている気がする。素人目からでもわかる。冒険者活動を始める前から訓練してた動きだね、あれは。
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