そうだジンジャーエールを作ろう!

 特性のLv3は、類い稀なる才能というくらいの意味合い。つまり、僕は天才的な創造力を獲得したわけなんだけど……創造力って何だろう? 鑑定でもそのあたりははっきりとしない。生産技能にプラス補正でもかかるのかな?


「分からないなら、試してみればいいよね! 作るのは……ジンジャーエールにしよう!」


 実はアイングルナでショウガっぽいものを見つけたんだ。僕、前世ではジンジャーエール好きだったんだよね。といっても市販のやつじゃなくて、母が趣味で作ってた手作りの奴だけど。懐かしいなぁ。


 まあ、ジンジャーエールと言っても、ディコンポジションで作るからお酒になっちゃうけどね。炭酸だけを作り出す方法がないから仕方ない。


 材料はショウガの絞り汁と砂糖そして水だ。分量は……さすがに覚えてないや。その辺りは試行錯誤かな。重要なのはアルコール発酵するときに発生する炭酸を逃がさないこと。そのために密閉容器の中で発酵させる必要がある。うーん、密閉容器がないなぁ。


 よし、大きめのガラス容器を買ってこよう! この世界、ガラスを一から作る技術はまだまだなんだけど、それでも質の高いガラス製品が流通しているんだよね。何故かというと、ダンジョンの宝箱からガラス製品が得られるから。代表的なのはポーションの瓶だ。一部は調薬師たちが買い上げて再利用するんだけど、多くは溶かして再利用される。だから、形は多少歪でも、ガラスの質自体は悪くないんだ。


 さすがにその辺の雑貨屋では売っていないけど、アイングルナ一番の商会なら大丈夫だろう。と、思ったんだけど……。残念ながら、花瓶とかの美術品っぽいものならあったけど、コルク栓で密閉できそうなものはなかったよ。


 むむむ……。もう完全にジンジャーエールを作る気でいたのに、こんなところで頓挫してしまうなんて。発注すれば容器は作れるだろうけど、一体いつになるやら。


『何を唸ってるんだ、トルト?』

「あれ、おかえりシロル。帰ってきたんだ」

『おお。ハルファとスピラも一緒だぞ!』


 悔しくて一人部屋で唸っていたら、シロルに声をかけられた。ハルファたちと一緒に出かけていたんだけど、みんな帰ってきたみたい。


『で、どうしたんだ? 困りごとか?』

「うん、ちょっとね……」


 相談してどうにかなるものでもないけど、【創造力Lv3】の特性を得たところからこれまでのことについてシロルに話してみた。シロルはふむふむと相槌を打って聞いてくれる。


『新しい飲み物か。それは重要だな!』

「あはは……。でも、密閉容器がないと作っても炭酸が抜けちゃうからなぁ」

『たんさん? それが大事なんだな! いつもみたいに魔法でどうにかできないのか?』


 さすがに、魔法で炭酸を閉じ込めたりはできないよね? それよりは、容器を作る方が実現性がありそう。ても、手持ちの魔法では……いや、待てよ。


「たしか、ガラスの主成って二酸化ケイ素だよね。それって土にも含まれてるはず……。だったら、ガラスも土みたいなもんじゃない?」


 我ながら無茶苦茶なことを言っている自覚はある。でも、可能性はあるかもしれないし。ディコンポジションで発酵が実現できたみたいに、魔法にはかなり柔軟性がある。案外うまくいくかもしれない。


 考えているのは、クリエイトゴーレムでガラス製の容器を作ること。正確に言えば、容器型ゴーレムだね。ゴーレムのボディは結構簡単にアレンジできたことを考えると、形状をいじるのは難しくないはず。問題はガラスでゴーレムが作れるかどうかだ。


 材料にはポーション用に確保していたガラス瓶を使う。全部で20個以上あるからそれなりの大きさの容器ができるはず。それらをテーブルの上にまとめて置く。あとは試してみればいい。


 ガラスは土、ガラスは土、ガラスは土……。

 何度も繰り返し自分に言い聞かせて……いざ!


「〈クリエイトゴーレム〉」


 呪文を唱え終えると、用意したガラス瓶がグニャリと溶けた。溶解したガラスが集って、徐々に筒状に変形していく。そして、できあがったのは――いつもの埴輪型ボディだった。


「あっ、しまった……」


 ガラスを土だと思い込む方に意識を傾けすぎて、形状を容器型にするのを忘れてた! 密閉容器を作るという意味では失敗だ。だけど、ガラスでゴーレムを作ること自体には成功している。何度か試せば、容器型ゴーレムも実現できそうだね。


「えっと、プチ一号でいいんだよね?」


 念のために確かめてみると、プチゴーレムはこくりと頷いた。どうやら、素材が変わっても、自我は共通みたいだ。それだけに、いつもと違うボディに違和感があるみたい。プチ一号は自分の身体をペタペタと触りながら、よたよたと歩いている。普段と身体を動かす感覚が違うのか、最近スムーズになってきたはずの動きがまたぎこちなくなっている。バランスも崩しがちで、こけそうになることが何度かあった。


「プチ一号、テーブルの端は危ないから……ああっ!?」


 危なっかしいのでテーブル端から離れるように指示を出そうとした瞬間、プチ一号がバランスを崩した。テーブル端で必死に踏ん張ろうとするけど……その頑張りもむなしく転落するプチ一号。


『ふぬぅ! 間に合ったぞ!』

「おお! ナイスだよ、シロル!」


 あわや大惨事というところで、プチ一号の落下が止まった。シロルが念動で受け止めたみたいだ。まあ、仮に粉々になって機能が停止しても、クリエイトゴーレムでボディを作り直せば元通りなんだけどね。ただ何となくボディ破損での機能停止は後味が悪いので、防げて良かった。シロルのファインプレイだね。

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