真っ白な砂糖

 落下の衝撃でプチ一号は破損を免れたけれども、そうなるとガラス容器を作り直すことができない。持っていたガラス瓶は全部使っちゃったからね。ゴーレムはマナ切れするか、ボディが破損するまで稼働し続けるからなぁ。故意に破壊して作り直すという選択は取りたくない。自我がない命令を聞くだけの存在だったらやったかもしれないけどね。名前にこだわりがあったり、それぞれに個性があったりというところを見ると、使い捨て感覚で使うのはちょっと躊躇われる。本人たちは気にしないかもしれないけど。


「うーん、どうしようかな?」

『容器のことか? こいつ変形できないのか?』

「……変形? どういうこと?」

『どういうこともこういうこともないぞ? 手や身体が動かせるんだから、好きなように変形できるんじゃないのか?』

「なるほど!」


 特に関節があるわけじゃないのに、プチ一号は手や足を動かしている。それはつまりガラスの身体をその都度変形させているってことだ。同じように全身を変形させて容器型になれないかってことか。まあ、変形している原理がわからないので、実際にできるかどうかは本人に聞くしかないわけだけど。


「どうかな、プチ一号? できそう?」


 要望を伝えて問うと、プチ一号の反応は微妙なものだった。できるともできないとも判断がつかない。しきりに僕を指してくるから、何か伝えたいことがあるんだと思うけど……さっぱりわからない!


『むぅ。仕方がない。待ってろ』


 どうしたものかと困惑していると、面倒くさそうにシロルがそう言った。何をするかと思えば、プチ一号に「わふわふ」と吠えはじめたね。いや、話しているのかな。プチ一号は驚くような仕草をしたあと、シロルに向かってジェスチャで何かを伝えようとしている。相づちを打っているところをみると、シロルには伝わっているみたいだ。


 ……もしかして、思念伝達かな? ゴーレムとも意思疎通できるんだね。今までやってなかったし、面倒くさそうにしていたから、人相手に使うのとは何か違うのかも知れないけど。


 シロルとプチ一号のやり取りは結構長いことかかった。どうも、ゴーレムの思考は独特というか知能レベルが高くないので意思疎通が難しいみたい。それでも根気よく聞き出してくれたようだ。


『とりあえず、今は変形できないみたいだぞ』

「今は?」

『そうだな。今は、だ。トルトが人と同じ動きをするように作ったからって話だぞ』

「……ああ、そういうことか」


 ゴーレムといえば人型というイメージが僕にはある。だから、特に意識しなければ、作られたボディは人型として規定されちゃうわけか。そうなると、人と同じような動作しかとれなくなっちゃうんだね。まあ、手や足がうねうねと波打つような動きをしているときがあるから、厳密に人と同じわけじゃないけど……それも僕のイメージの問題かな?


『今の状態で変形させるなら、魔法を使い直すしかないみたいだな』

「え? 動いてる状態で使っても大丈夫なの?」

『僕は知らないぞ? でも、こいつはそう言ってるな』


 えぇ、本当に?

 プチ一号がいる状態でクリエイトゴーレムを使ったら、普通ならプチ二号が現れるんだけど……。大丈夫なのかな。プチ一号とプチ二号が融合合体したりしないよね?


 確認に意味を込めて視線をやると、プチ一号は問題ないとばかりに大きく頷いた。まあ、本人が大丈夫だって言うんだから、試してみようか。


 今度はビール瓶みたいな形状を意識する。ひとまず、一応は人型の範疇に収まるように、手と足もつけて、っと。顔は瓶の中央にひっついている感じでいいかな。


 イメージが固まったところで、クリエイトゴーレムを使った。みるみるうちに姿を変えるプチ一号。数秒後には、見事にビール瓶みたいな形状に変化した。申し訳程度にちょこんと生えた手足が何ともいえずシュールだ。


 プチ一号は何とか立ち上がろうと手足をバタバタさせているけど……まあ無理だよね。ちょっとバランスが悪かったみたい。


「えっと、大丈夫……?」

『……ふむふむ。動けないけど、問題ないみたいだぞ』

「そうなのか……」


 人間なら身動き取れない状態って相当ストレスだと思うんだけど、ゴーレムは気にならないみたいだ。そういうことなら、遠慮なく容器として使わせて貰おう。


「それにしても、意外と上手くいったね。形状はともかく、土魔法でガラスを扱うなんて無茶苦茶だと思ったんだけど……」

『もしかして、それが【創造力】とかいうやつの効果じゃないのか?』

「……ありえるかも!」


 つまり、【創造力】は魔法をアレンジして新しい効果を創造する特性なんじゃないかな。特性を取得する前から、ある程度は魔法をアレンジすることはできたけど、それでも限界はあった。例えば、土以外でゴーレムを作ることはできない、とかね。【創造力】は、その限界を取り払う特性なんだと思う。もちろん、それでも限度はあるだろうけど、今まで以上に自由に魔法を使えるようになるんじゃないかな?


「例えば……そうだなぁ」


 ジンジャーエール用に用意した砂糖を見る。前世でよく見た真っ白な砂糖と違って、結構茶色いんだよね。不純物が含まれてるんだ。この不純物をいらないもの――ゴミだと思ってクリーンを使ったらどうなるだろう。


 物は試しだ。不純物を取り除くように意識しながらクリーンを使うと、砂糖が綺麗な白色へと変化した。その分、量は減っちゃったけど。


『おぉ! 砂糖の色が変わった! 僕、聞いたことがあるぞ! 白い砂糖は高級なんだろう?』

「あはは、変なこと知ってるんだね……」


 たしかに貴族なんかは白い砂糖を使っていると聞いたことがある。といっても、ここまで精製されてはいないと思う。これも売りに出したら高く売れそうだけど……さすがに【創造力】が前提だと商業ギルドに委託できないよね。人任せにできないなら、秘密にしておいた方がよさそうだ。


『なあ、舐めて良いか? 美味しいんだろ?』

「駄目だよ。これはジンジャーエールに使うんだから!」

『むぅ、そうだったな。じゃあ、早くそれを作るんだ!』

「はいはい」


 軽い気持ちでジンジャーエールを作ろうと思っただけなのに、思いの外大変だったなぁ。でも、そのおかげで色々な発見があったから、悪くはないかな。


 よし、シロルも待っていることだし、早速作ろう。

 炭酸だけど、シロルは平気かな?

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