こんがり焼けてます

「あれは……!」

『でっかいぞ!?』


 視線を向けると、そちらにもワームの群れが現れていた。しかも、その中には人を丸呑みできそうな巨大ワームが混じっている。おそらく、あれがBランク相当だという成長個体だろう。


「大丈夫ですか!」


 地面に顔を出したワームを攻撃しながら、ギュスターさんの元へと向かう。


「トルトか! ああ、大丈夫だ。ラクダが食われたが、乗り手はギリギリで逃れた。しかし、異常な数で手こずっているようだ」


 彼は顔を青くしていたけど、怪我はないみたいだ。巨大ワームの奇襲にも人間の被害はなかったらしい。飲み込まれたラクダは残念ながら助からないだろうけど。


 乱戦状態で把握しきれないけど、襲撃してきたワームはかなりの数だ。みんな目の前の敵で手一杯だから、この状態で地面からの奇襲を受けたら危ない。できれば安全な場所に避難してもらいたいけど……。


 まあ、安全な場所がなければ作ればいいか。


「今から巨大ゴーレムを作りますから、その上に避難してください」

「巨大ゴーレム? そんなものを……うぉおおお!?」


 急いでいたので、ギュスターさんの話を遮ってクリエイトゴーレムを発動してしまった。徐々に体を起こすゴーレムの頭上で、ギュスターさんが何か叫んでるけど……まあ、たぶん問題は無いはずだ。


 ゴーレムの素材はそこら中に広がっている砂漠の砂だ。しっかりとした造形を指定する時間も無かったから適当に作ったんだけど、埴輪とも呼べない状態になっている。崩れかけの泥人形といえばいいのかな。上半身しかない状態でのそのそと移動している様は、ちょっとしたホラーだ。


 突然現れた謎の存在に護衛の人達が軽くパニックになっている。一部の人が驚いた拍子にラクダから転げてしまって、危険な状態だ。助けようと、サンドゴーレムが手を伸ばすんだけど、それが混乱を助長させている気がしなくもない。


 これは……やっちゃったかな?

 ま、まあ、雇い主の安全のためだし、多くの護衛の人はすぐに立て直してワームたちと戦っている。大きな問題はないはず。


 ……うん!

 とりあえず、反省は後だ。今はサンドワームを排除しないといけないからね。


 巨大ワームは、いつの間にか多脚ゴーレムから飛び降りていたシロルが巨大化して相手をしている。怪獣大戦争みたいな状況だね。

 シロルの放つ雷撃が巨大ワームの表皮を焦がすけれど、それほど効いてはいないみたい。とはいえ、優勢なのはシロルの方だ。このままシロルに任せておけばいいだろう。


 中小のワームはとにかく数が多い。さっき倒した三十体だって大きな群れだと思ったけれど、それとも比較にならないほどの大群だ。明らかに護衛の人達だけでは対処の手が足りていない。それだけ異常な現象なのだと思う。


 とはいえ、僕らだって経験を積んだ冒険者だ。数だけの相手に負けたりはしない。


 ハルファのショックボイスによる衝撃ダメージは砂の中にも浸透するみたいだ。砂の中から新たに出現するワームたちはかなり弱っている。仕留めることはできなくても、護衛の人達が対処しやすくなると意味ではかなり有効だ。


 砂漠という環境はスピラにはちょっと不利に働く。氷属性の力がかなり弱体化するみたいなんだ。それでも、彼女は十分に善戦している。意外なことに樹属性は砂漠でも有効みたい。地面からぐにゃぐにゃのサボテンが生えてワームを攻撃している。


 ローウェルはかなり器用なことをしているね。決して砂漠には足をつけずに、多脚ゴーレムや岩場を足場に跳び回りながらワームを斬りつけている。地面からの奇襲を警戒してのことなのだろうけど、何だか曲芸を見ているみたい。


 もちろん、僕だって負けていない。プチゴーレムズと一緒に、多脚ゴーレムの上からファイアゴーレムをまき散らす。せっかく等身大ボディを手に入れたというのに、移動が多いせいか彼らは小型ボディでいることが多い。ちょっと申し訳ないね。見張りのときには等身大ボディで活動するから、本人たちはあまり気にしていないようだけど。


「おお!」


 護衛の人達からどよめきの声が上がった。シロルが巨大ワームを仕留めたんだ。角でワームを貫いた状態で雷撃を放ったみたいだね。内部から灼かれたことで、さすがの巨大ワームも耐えられなかったみたい。

 一方、シロルもダメージを受けている。と言っても、肉体的なものじゃなくて精神的なものだ。角にぐっちゃりとついたワームの体液にテンションが急降下しちゃったみたい。あとでクリーンをかけてあげよう。


 それからほどなくして、戦いは終わった。もしかしたら何体かは逃げたかもしれないけど、ほぼ全滅させたはずだ。


「うぇ~……ダンジョンじゃないから、死骸が残っちゃうんだね」

「ちょっと気持ち悪いね」


 ハルファとスピラが周囲を見回して顔をしかめている。

 辺りはサンドワームの死骸に覆われているような状態だ。特に雷撃やファイアボールによって黒焦げになった死骸は酷い。形容しがたい刺激臭を放っているんだ。


「サンドワームか……食べられないことはないらしいが……」

『ぼ、僕はいらないぞ!』


 さすがのシロルもサンドワームは食べようとは思わないみたい。まあ、それは僕も同じかな。美味しいならともかく、「食べられないことはない」程度の評価なわけだし。遭難して食べるものに困っているのならともかく、収納リングにはたっぷりの食料が入っている。あえてゲテモノ料理に手を出す必要はない。


「取れるのは魔石くらいだね。といっても、護衛中だからなぁ」


 今はギュスターさんの身の安全と、ベルヘスへの移動が優先。魔石確保に時間を掛けている場合じゃない。


「でも、もったいないな。ちょっと試してみようかな」


 サンドワームの死骸に向けてディコンポジションを放つ。死骸が土に還るイメージだ。魔法はすぐに効果を発揮して、黒焦げの物体はさらさらとした土へと変わった。その中に小さな石ころくらいの魔石だけが存在を主張している。


 うん、上手くいったみたい。せっかく倒したからには、魔石くらい確保したいからね。時間も無いから、サクサク土に還していこう。

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