ギュスタ―さんはゴーレムが気になる
「君たちを護衛に雇っていてよかった。そうでなければどうなっていたか。改めて礼を言わせてくれ」
サンドワームの襲撃を撃退した僕らは、日が沈む前にどうにか休息地となるオアシス都市にたどり着いた。ギュスターさんに誘われた食事の席で、彼が切り出したのがさっきの言葉。
護衛として雇われていた僕らが、ギュスターさんを助けるのは当然のこと。本来なら改めてお礼を言われるようなことじゃないんだけど、今回のことはそれだけ危機を感じたということだろう。
実際の話、僕らがいなければ被害が大きくなっていただろう。おそらく、護衛隊を半壊させながら、ギュスターさんを逃がすような展開になっていたはずだ。
「あれほどの群れが襲いかかってくることは珍しいんですよね」
「そうだな。少なくとも俺は聞いたことがない。巨大ワームだけでも大事件だというのに、それが無数のワームを率いているとなれば噂にならないはずがない。ここ近年では初めてのことだろう」
砂漠を横断するとはいえ、オルキュス、ベルヘス間の移動はセファーソン氏族連合国においては主要な移動ルートのひとつ。危険の程度は広く知られている。当然のことながら、ギュスターさんもそれを考慮した上で護衛戦力を用意したはずだ。にもかかわらず、大量のサンドワームを前に護衛隊は為す術がなかった。それほどまでの異常事態だったのだろう。
「それにしても、ゴーレムとは面白いものなのだなぁ」
さきほどまでとは打って変わって、ギュスターさんは楽しげな口調でそう言った。ちょっとホラーチックなサンドゴーレムまで見たのに、意外にも悪い印象は抱いていないみたい。好奇心が強い性格なのかもしれないね。
今回の護衛依頼ではゴーレムたちが活躍した。
プチゴーレムたちも魔法の杖でワームたちを撃退したしね。その功績が認められて、彼らもこの食事会に参加している。ギュスターさんの話はそっちのけで、料理を食べてるよ。しかも、たくさん食べられるという理由で、等身大ボディまで持ち出している。本当に食い意地が張ってるよね。
サンドゴーレムは少々混乱を巻き起こすことになったけれど、即席の移動要塞としては十分に役割を果たした。あとは見た目がどうにかなれば良かったんだけどね。まあ、それを僕に期待したら駄目だと思う。うん……。
一番役に立ったのは多脚ゴーレムかな。最初は僕らが移動手段として活用しているだけだったけれど、最終的には護衛隊の人用に何体か追加で作ることになった。サンドワームの襲撃で人的被害はなかったけど、ラクダの被害は大きかったからね。代わりの移動手段が必要だったんだ。多脚ゴーレムに乗ることなった人は、最初は怖々とした様子だったけれど、最終的には結構快適だと喜んでいた。
喜んでいたのはギュスターさんも同じだ。護衛の人達の様子を見たあと、自分も乗せろとしきりに要求してきたんだよね。サンドワームの襲撃を考えるとラクダよりも安全だと主張されると、同意せざるを得なかった。
多脚ゴーレムを気に入ったギュスターさんは最終的に買い取りの提案までしてきた。今回用意したゴーレムは一日もすればマナ切れで動かなくなる即席のものだ。維持する手段もないので売却は断った。その代わり、ベルヘスに到着したら金属類を使ったしっかりとしたゴーレムを作ることを約束することになったけど。
製作費用に加えて白金貨一枚を出すというので相当な大盤振る舞いだ。もしかしたら、今回の護衛の追加報酬も兼ねているのかもしれない。そこに自分の欲求をねじ込んでくるのが、強かだよね。
ギュスターさんがゴーレムを気に入ってくれるのは悪くない。これからの護衛でも大手を振って使うことができるからね。ただ、言っておかないといけないことはある。
「僕の作るゴーレムは普通とはちょっと違うみたいですけど」
ギュスターさんがゴーレムについて誤認してしまうと、将来的に他のゴーレム使いの人が困ってしまうかもしれない。なので、一般的なゴーレムがどういうものなのかを含めてきっちりと説明しておく。
それを聞いて、ギュスターさんは大きく頷いた。
「なるほど。やはり、上級冒険者だけあって、特殊な技能を持っているというわけだな。トルト以外も一般的な冒険者とは違うようだしな」
ハルファの歌唱魔法は使い手があまりいないし、ショックボイスもおそらく相当にレアな魔法だ。少なくとも、ギルドで調べたり他の冒険者から話を聞いても、類似の魔法は確認できなかった。スピラとシロルは精霊に聖獣だから、存在そのものが特殊。僕もちょっと普通ではないという自覚がある。
そういう意味では、普通なのはローウェルくらいかもしれない。そのローウェルも、剣に魔法を宿すという珍しい戦い方をしているので……やっぱり普通じゃないかも。
「そう……かもしれませんね」
「ははは。別に手の内を明かせと言っているわけじゃない。ただ、感心していただけだ。見た目だけではとてもそうは見えないが、やはり凄腕なのだとな」
僕の曖昧な返答をギュスターさんは笑い飛ばした。別に手の内を隠そうとしたわけじゃないんだけどね。僕らって変わってるんだなぁと、改めって実感しただけだ。
「おお、そうだ。実は相談があるんだが……君たち、闘技大会に出場するつもりはないかね?」
機嫌が良さそうに笑っていたギュスターさんが、不意に手を叩いた。
ベルヘスは闘技場の街だ。日常的に闘技試合が行われていると聞いている。だけど、ギュスターさんが言っているのはそういう一般的な試合ではなくて、近々行われるという大規模な大会のこと。日頃の闘技試合で上位成績を納めている者や、有力者たちの推薦を受けた者が参加するみたい。ギュスターさんも有力者の一人だから、当然推薦枠があるんだろうね。
とはいえ、僕らがベルヘスに向かうのは、そのさらに東を調査するため。闘技大会に出場して名声を得たいという気持ちもないし、特に出場する意義は見出せないかな。
一応、ローウェルに視線を向けてみるけど、彼も黙って首を横に振った。あんまり興味はないみたいだ。ハルファたちも興味がないみたいだし、お断りすることになるかな。
僕らの考えは、何も言う前からギュスターさんに伝わったみたい。
「気乗りしないみたいだな。まあ、恩人に無理にとは言わないさ。だけど、気が変わったら言ってくれ。正直、俺の推薦枠をどうしたものか持てあましているんだ」
苦笑いを浮かべるギュスターさん。それでも無理に頼んでくることはないのがありがたいね。
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