理解できないけど把握した

 結局、僕はおじさんディーラーの言葉を受け入れて、オーナーの招きに応じた。断ってもよかったんだろうけど、おじさんがやたらと腰が低かったので、なんとなく流された感じ。連れも一緒でいいということなので、ハルファたちも同行している。ちなみにプチゴーレムズたちはプチ状態でポケットの中だ。


 最終的には全コインを失ったわけだから、お店に恨まれる理由はない。実際、オーナーは恨み言を聞かせるために僕たちを呼んだわけではないようだ。そこまではいいんだけどね。


「いや、本当に申し訳ない! イカサマなんて褒められた手段じゃないのはわかっているんだが、そうしなければライナノーンが潰れてしまっていたんだ! この埋め合わせは後日きちんとする! だから、今回ばかりは矛を納めてくれないか!」


 オーナーを名乗る男性が、頭を下げながらそう言った。まだ若い普人の男性だ。たぶん、20歳くらいなんじゃないかな。このカジノを引き継いだばかりなのかもしれない。


 どうしてこんな状況になったかと言うと……正直わからない。だって、オーナー室に着くや否や、この展開だもの。そもそも、矛を収めるも何も、イカサマの件については怒っていない。というか、そもそもイカサマ成功してなかったし……。


 困った僕は、おじさんに視線を向けた。おじさんは、苦笑いを浮かべながら小さく頷く。フォローに入ってくれるみたい。


「オーナー。大変申し上げにくいのですが……」

「おい、ランディ。口を挟むな。俺がこうして誠心誠意謝罪をしている最中だろうが。どんな理由があれイカサマなど許されるわけが――」

「その通りですね。ですが、そのイカサマがそもそも失敗しました」

「……イカサマが失敗した? 聞き間違いか?」


 予想外の言葉だったのか、オーナーはちょっと間の抜けた表情で聞き返した。よほどランディさんの腕を信用していたんだろうね。イカサマが失敗するとは微塵も思っていなかったようだ。


「残念ながら事実です。誰かがテーブルにぶつかったのでしょう。その衝撃で見込みが狂いまして……」

「そうか。ライナノーンも終わりか」


 オーナーは虚ろな目でどこかを見つめている。相当なショックを受けたみたい。そのまま意識がどこかに飛んでいきそうなくらいだ。ランディさんもそう思ったのか、慌てた様子で言葉を続けた。


「いや、それがですね……」


 ランディさんは2ゲーム目のことをかなり正確に把握しているみたいだ。手法はわからないみたいだけど、僕が何らかの方法で無理矢理負けたことを確信しているらしい。推測を交えながら、それをオーナーに伝えていく。


「つまり、ライナノーンを潰さずに済んだのか。それは助かったが……。なぜ、わざと負ける?」

「それは私にも分かりかねますが……」


 オーナーとランディさん、二人の視線が僕へと向いた。


「ええと、お店の恨みを買わないため……ですかね?」

「なるほど? ……いや、わからんな。たしかに、カジノが潰れたら君のことを恨んだかもしれないが、それを君が気にする必要は無いだろう? それよりも、一生遊んでも使い切れないほどの金が手に入るんだぞ? そのチャンスを自ら捨てるほどの理由か……?」

「はぁ……そうでしょうか」


 オーナーが理解できないといった目で僕を見る。そんなことを言われても困っちゃうんだけどね。僕としては恨まれるくらいなら、お金なんていらないと思うんだけど。


 気まずい沈黙が流れる。それを咳払いとともに消し去ったのがローウェルだ。


「トルトの考えはわかりづらいかもしれないので俺の方から説明しよう」


 何故だかわからないけど解説が始まった。ハルファは腕組みで、うんうん頷いている。スピラは苦笑いだ。どういうことなのさ。


「あなたたちも把握している通り、トルトの幸運は異常だ。イカサマさえも無視して良い結果を呼び寄せるくらいには、な」

「まあ、そうなのだろうな。ピンポイントでベットして勝ち続けるなんて、普通は無理だぞ」

「そうですね」


 僕の幸運に関しては、オーナーたちも納得しているようだ。僕としても異論は無い。異常は言い過ぎじゃないかなとも思うけど。


「そんな異常な幸運の持ち主が、日常生活で平凡な暮らしを送るだろうか。そんなわけがない。トルトはちょっと草むらを探せば希少素材を探り当てるような奴だ。ダンジョン探索をすれば当然のように金銀財宝を手に入れることになる」


 ああ、うん。客観的に見ると、すごいな僕って。

 オーナーたちも、突拍子もない話に目を白黒とさせている。だけど、仲間たちが平然としているのを見て、真実だと受け取ったみたいだ。


「つまり、トルトにとって金はそれほど価値のあるものではないんだ。何せ、比較的に簡単に手に入るものだからな。だから、金が手に入るメリットよりも、恨みを買うデメリットを大きく感じる」


 なるほどね。ローウェルの話は僕としては納得できる。金持ち喧嘩せずじゃないけど、余裕があるからトラブルは避ける思考になってるわけか。そう言われてみれば、そんな気がするね。


「な、なるほど」

「とんでもない話ですね……」


 オーナーたちの反応は半信半疑って感じ。理解できるけど、そんな人間がいるってことが受け入れがたいのかな。残念ながら、いるんだよね。ここに。


「ええと、そんなわけなので、気にする必要はありませんよ」

「そうか。我々にとってはありがたい話だが、だからといって甘んじて受けるわけにもな」


 本当に気にする必要はないんだけどね。お店としてのプライドがあるのか、僕の言葉を無条件で受け入れる気はなさそうだ。


「よし、そういうことなら、君たちに協力することを詫び代わりにしよう。君たちのお金に対する執着のなさから考えると、カジノを楽しみに来たわけではあるまい? 手伝いが必要ならば何でも言ってくれ。何か役に立てるだろう」


 オーナーの提案は、僕らにとってもありがたい話だった。邪教徒の足取りを探してセファーソンまで来たけど、特に手がかりがあるわけじゃないからね。協力して貰えるなら本当に助かる。早速だけど、邪教徒に心当たりがないか聞いてみることにしよう。

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