声が聞こえるだけ
予約セットしたつもりになってたけど
できてませんでした!
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「おっと、まだ名乗ってすらいなかったな。私の名はギュスター。このライナノーンのオーナー。そしてレイノス氏族の族長筋に連なる者だ。オルキュスにはそれなりの影響力があると自負している。なんでも言ってくれ」
レイノス氏族とは、セファーソンの主要な氏族のひとつ。オルキュスがあるセファーソンの北西部に強い影響力を持っている。たしかにそれなら人脈も広そうだね。特殊な情報網とかもあるかもしれない。人捜しにはぴったりだ。
「でしたら、邪教徒の情報を貰えませんか。ひょっとしたら、セファーソンに潜んでいるかもしれないんです」
邪教徒が本当にセファーソンに潜伏しているかどうかはわからない。だけど、潜伏しているとすればオルキュスには立ち寄っていると思うんだよね。セファーソンの主要都市ではサザントグルナに一番近い位置にあるから。
さて、ギュスターさんの反応はというと、困惑気味にランディさんと顔を見合わせている。予想外の要求だったからだろうか。まあ、邪教徒なんて普通は関わりあいになりたくはないもんね。
「……一応、もう一度言っておくが、私はレイノス氏族の族長の血筋だ。オルキュスにおいてはかなり融通を利かせることができるんだが……?」
「はい、助かります!」
「ああ、うん。邪教徒の情報でいいんだな。金を積んでも予約できない高級ホテルのVIPルームとかも用意できるんだが……そうか……」
協力に対するお礼を言ったら、ギュスターさんは何故か寂しそうにぶつぶつ呟きはじめた。いったいどうしたんだろう。
そんなちょっとよくわからないやり取りがあったものの、邪教徒に関する情報収集の協力を取り付けることができた。さすがにすぐには手に入らないってことだったけど、その三日後に情報が届いた。
なんと、邪教徒らしき男をオルキュスのとある地下牢で拘束中らしい。
カツカツと足跡を響かせて歩く看守さん。その後を、僕とローウェルが続く。
ギャンブル都市だけあって、オルキュスには牢獄の類いが多いみたい。
ライナノーンみたいな良心的なカジノだと、所持金を失ってすっからかんになっても、借金まで背負うことはない。だけど、カジノによっては掛け金の貸し付けまでやっているところがあるそうだ。担保は自分自身。つまり、お金が返せないと借金奴隷になってしまうわけだ。ここは、そんな借金奴隷一歩手前の人物を一時的に投獄しておくための場所らしい。
まあ、つまりは拘束されている理由は邪教徒だからではなく、あくまで借金が理由。そもそも、現状では邪教徒の疑いがあるというだけで、確定しているわけじゃないみたいだね。
「こちらが、例の男です。危険はないと思いますが、気をつけてくださいね」
「わかった」
「はい、ありがとうございます」
ある一角で、看守さんは足を止めた。目的の場所についたらしい。案内してくれた看守さんにお礼を言うと、彼は軽く頭を下げて少し後ろに控えた。このまま面会に立ち会うみたいだね。聞かれて困る話ではないから、それは構わないけど。
「おい、起きろ! お前に聞きたいことがある!」
その男――デムアドさんは相当図太いのか、僕らが牢屋を囲んでいるような状況なのに、ぐうすかといびきをかいて寝ていた。
ローウェルが大きな声で呼びかけて、無理矢理起こす。
「んん……?」
さすがに目を覚ましたデムアドさんは、億劫そうに起き上がった。年齢はおそらく30過ぎだろう。冴えないおじさんといった感じの印象だ。
「なんだ、お前たちは? 誰だ?」
「僕たちは……まあそれはいいか。それよりもデムアドさんに聞きたいことがあるんです。あなたは邪教徒ですか?」
「……はぁ」
小細工無しに尋ねると、デムアドさんは面倒くさそうに頭を掻いてため息を吐いた。
その様子を観察していたけど不自然なところはない。少なくとも図星をつかれて焦っているような素振りはなかった。僕は尋問官ではないから、態度から嘘を見抜けたりはしないんだけどね。
「もう一度聞きます。あなたは邪教徒ですか?」
「俺は邪教徒じゃない。というより、何故、俺が邪教徒だと思ったんだ?」
今度はきっぱりとした否定が返ってきた。少なくとも表面上、動揺は見られない。
「そういう証言があるみたいですよ」
「証言……? 誰がそんなことを?」
「ええとそれは……二人の女の子らしいんですけど……」
デムアドさんが邪教徒だと疑われているのは、二人の女の子の証言によるものだ。まあ、この二人って言うのがデムアドさんの連れらしいんだけどね。二人とも僕らよりも幼くて、10歳程度の少女らしい。親子かというとそういうわけでもないらしくて、関係性は不明なんだとか。娘でもない少女を連れ回すなんて、前世だったら完全にアウトだ。いや、こっちでも相応に怪しまれるのは間違いない。
それはともかく、どういった経緯で邪教徒であると証言があったかというと、それは奴隷落ち処分の引き留め申請中だったらしい。この申請はざっくりと説明すると、債務者の借金を数日中に代理で返済するので奴隷落ちをその間だけ保留してください、という感じの内容。10歳の女の子たちに返済能力があるとは思えないけど、申請があれば一応奴隷化手続きはストップするみたい。
そして、そのときに女の子が口にした脅し文句が「デムアドは邪神様の使徒だから、奴隷に落としたら罰があたるんだからね!」だったんだって。
まあ、子供の言うことだからってまともに取り合ってはいないみたいだけどね。それでも、唯一あった邪神関連の情報がこれだったので、一応確かめにきたんだ。
「ああ……あいつらか。まったく……」
デムアドさんは呆れたような声でそう漏らしてから、僕たちを睨み付けた。
「さっきも言ったが俺は邪教徒じゃない。ただ、邪神の声が聞こえるだけだ!」
堂々と言い放つデムアドさん。全く疚しいところがなさそうな態度だけど……それはかなりの邪教徒要素じゃないの?
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