廉君への報告?
スピラにはハルファに付き添ってもらった。二人一緒なら退屈しないで済むだろうからね。ローウェルは街に出て情報収集。主に、鎮めのうたに反応があった人の状態を探ってもらっている。
僕たちがダンジョンを出る理由。それはもちろん廉君への報告のためだ。巨鳥を倒しただけで、何か進展があったわけじゃないけど、定期的にダンジョンの外に出て欲しいとは言われているからね。
とはいえ、僕から廉君に呼びかけられるわけじゃないんだよね。廉君からの神託がなければ、連絡をとることはできないんだ。ダンジョンから出たことに気付いてくれるといいんだけど。
そんなことを考えていたけど、その心配は杞憂だった。ダンジョンを一歩出た瞬間、目の前には荒野ではなく廉君の家があった。どうやら、僕がダンジョンを出るのを待ち構えていたみたいだね。
『おぉぉ!? なんだ? いつもと違う場所だぞ!』
「あれ? シロルも一緒に来れたんだ?」
『そりゃあ一緒だぞ! 隣で歩いてたんだから!』
「そうだけど、そうじゃないんだよ。ここは廉君の――運命神様の家なんだ」
『おお! ここがラムヤーダス様の家か!』
はしゃいで走り回ろうとするシロルを抱きかかえて玄関に向かう。インターホンを鳴らすと「どうぞ~。入ってきて~」という声。そういうことなら、と遠慮無く上がらせてもらう。
『なんだ? 靴を脱ぐのか?』
「この家ではそうするんだよ。シロルの足も綺麗にしておこうか」
玄関で靴を脱ぐとシロルが不思議そうな顔をしている。今まで旅したところでは、そういう習慣がなかったからね。知らないとびっくりするのはわかる。
シロルの足もハンカチ代わりの布きれで拭ってからクリーンを掛けて綺麗にする。クリーンだけでいいんだけど気持ちの問題だ。
シロルを抱きかかえたままリビングに向かうと、そこには床にだらしなく座った廉君がいた。廉君は座ったまま、ひらひらと手を振る。
「いらっしゃい。待ってたよ~。まあ、麦茶でもどうぞ」
ローテーブルには麦茶のコップが三つ並んでいる。一つだけ底が浅いコップがあるので、それがシロル用かな。
「君も久しぶりだね。今はシロルって名前だっけ。ずいぶん可愛らしい姿になったね」
『久しぶりだな、ラムヤーダス様! ラムヤーダス様は……なんか縮んだな?』
「僕は神だから姿は自由に変えられるんだよ。今は瑠兎……トルトのイメージに合わせてこんな感じなんだ」
『僕もだいたいそんな感じだぞ!』
久しぶりに会ったらしい廉君とシロルが談笑している。なんだか、二人の容姿がこうなった元凶が僕みたいな話をしてるね。廉君はともかく、シロルに関しては出会ったときに勝手に姿が変わっちゃったからなぁ。まあ、厳つい姿よりは、今の姿のほうが可愛くていいと思うけど……。うん、やっぱり僕のせいかもしれない。
「それで、あれから何か変わったことはあった? 相変わらず、ダンジョン内の様子は探れないんだよね」
『たこ焼きを食べたぞ!』
「おお、たこ焼きか! いいねぇ! たこ焼きといえば、ロシアンたこ焼きという闇のゲームがあってね」
「ちょっと、廉君!? シロルに変なこと教えないでよ!」
『む? 闇のゲーム? 美味しいのか?』
廉君から話を振られたから巨鳥のことを話そうと思ったんだけど……その前にシロルが嬉々としてたこ焼きについて話し始めた。それはいいんだけど、廉君が悪のりしてロシアンたこ焼きを教えようとしている。闇のゲームだなんて言っているけど、もちろんそんな大したものではない。複数のたこ焼きの中に外れを用意しておいて、みんなで一斉に食べるという遊びだ。外れたこ焼きは激辛にしておくのがよくあるパターンかな。
「ごめんごめん。でも、たこ焼きってことはタコがいたんだ。Cランクくらいならハイドオクトパスかな」
「うん、そうだよ。たくさん確保したから、しばらくは困らないね。でも、あんまりタコの料理って知らないんだよね。何かあったっけ?」
「んー……、おでんとかに入ってなかった?」
「たしかに! おでんか……いいかもね」
『なんだ、それ? 美味しいのか? 美味しいんだな?』
廉君からタコ料理について思わぬヒントをもらった。魚があるから練り物系はつくれなくもない。卵は……鶏卵もないことはないけどちょっと保留。大根っぽい野菜はあるね。難しいのはこんにゃくかな。今のところ見たことがない。
「廉君、こんにゃくは?」
「えぇ? そういうの僕の役割じゃないんだけどなぁ。ええと、こんにゃく芋はあるけど、こんにゃくは作られてないね」
廉君に聞くと、ちょっと渋りながらも教えてくれた。どうやら、こんにゃくを手に入れるのは難しそうだ。まあ、こんにゃくがなくても、おでんは美味しいよね。
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