支店ができてた

「さあ、みんな好きなだけ食べてくれ。いやあ、今日は良い日だ。ふはははは!」


 ギュスターさんのご機嫌な笑い声で、食事会がスタートした。

 ここはライナノーンのVIP専用スペースにある一室だ。双子の件でギュスターさんに手を貸してもらおうと思って、話を通しているうちに何でか、こうなった。


 順に説明していくと、指示を出していた悪人面の男を筆頭に、あの場にいた男たちはとりあえず捕縛した。プチゴーレムたちにストーンウォールの付与魔道具を持たせて、出入り口を石壁で封鎖させたので逃亡者はいないはずだ。


 逃亡者を許さなかったのは、この男たちの後ろ盾を警戒してのことだ。

 そもそも、なんで非合法カジノが潰されずに存在しているかというと、街の有力者なんかと繋がっていて多少グレイな行為なら目こぼしされるから。特に、あの御仁と呼んでいた人間がどのくらいの立場かわからなかったから、アレンたちには誰一人逃がさないようにと頼んでおいたんだ。もし、その有力者に話が伝わって、何らかの手を打たれたら面倒だから。


 結果として、それは正解だった……と思ったんだ。なにせ、奴らは隷属の首輪まで持ち出してきたからね。

 普通なら、後ろ盾である有力者にも庇える範囲には限度がある。違法奴隷はその限度を軽く超える問題だ。下手に介入したら有力者自身の首が飛んでしまうだろう。

 だというのに、隷属の首輪を持ち出してきたんだ。後ろ盾となる有力者は相当の大物だろうという予想はついた。


 で、実際に大物……かどうかは判断しづらいけど、大物の関係者ではあった。セファーソンの有力氏族の一つにドルキス氏族というのがあるんだけど、その傍系の三男坊らしい。ギュスターさん曰く、不出来な放蕩者として有名なんだとか。ドルキス氏族の影響力が強い都市では親の目があって好き勝手できないのでわざわざオルキュスまで来てるらしい。


 だけど、その三男坊。僕らが大暴れしたカジノのVIPルームで泥酔していたんだよね。最初に見たときは、まさか黒幕的な存在だとは思わなかった。とはいえ、VIPルームにいたから要人なのは間違いがないということで、ギュスターさんに連絡を取ったんだ。

 夢見の千里鏡で転移し損ねたローウェルがそれを見越して手を打っていてくれたから、ギュスターさんの動きは早かった。連絡後にすぐに駆けつけてくれて、それで三男坊の素性が判明したわけだ。


 日頃の行いから、放蕩者の三男坊は事件への関与を疑われることになる。当然、三男坊は否定するけど、実行犯の男たちからの証言もあり御用となった。


 ギュスターさんは、自分の勢力圏で好き勝手な振る舞いをする放蕩者を疎ましく思っていたけど、今までは苦言を呈するくらいしかできなかったみたい。だけど、放蕩者が違法奴隷に手を出していたことで、大手を振って処断できるようになった。しかも、これはドルキス氏族への大きな貸しだ。傍系とは言え、一族が他氏族の都市で違法奴隷に手を染めてたわけだからね。完全な敵対行為だ。ドルキス氏族も放蕩者を庇うためにレイノス氏族と全面的に争うつもりはないだろうから、適当に詫びを入れてくるだろうとのこと。


 政治だなぁ。その辺りのことはよくわからないけど、とにかくギュスターさんとしては都合が良かったみたいで、テンションが上がっている。「宴だ」とか言い出して、今に至るんだ。悪徳カジノを潰せたお祝いって名目だけど、実質的にはドルキス氏族をやり込めたお祝いだろうね。


「うわ、美味しそう! キーラ、あれは何かな?」

「食べてみればわかるよ! ね、デムアド!」

「あ、ああ……」


 この場には僕だけじゃなくて、デムアドさんもいる。彼と双子はランディさんから詫び料を受け取っていた。詫び料というけど、「今回の件を変な形で吹聴するなよ」っていう口止め料なんじゃないかな。まあ、その辺りのことは僕たちには関係ない。


「あ、ハンバーガーがある」

『おお、本当だ! 食べる! 食べるぞ!』


 この辺りの食事のマナーはよく知らないんだけど、大テーブルに次々と料理が乗せられていく。その中の一つに、ハンバーガーがあったんだ。


「おお、よく知っているじゃないか。このハンバーガーはリーヴリル王国から伝わった新しい料理でな。オルキュスにも最近になってハンバーガー店ができたのだ。手軽に食べられるわりに美味いと評判になりつつある。何でも、翼人の少女を想う少年が、彼女のために作り出した料理なのだそうだ。……ん? 翼人の少女に少年?」


 なんと、いつの間にかオルキュスにもハンバーガー店ができていたみたい。しかも、妙な逸話までできている!

 たしかに、ハンバーガーの屋台は翼人の郷を探すための情報収集の側面があった。だから、ハルファのためではあるんだけどね。でも、それを第三者から伝えられると、なんだか気恥ずかしい。それに、ハンバーガーは元々翼人が食べていた物だから僕が作り出したわけでじゃないんだよね。


 翼人は滅多に郷から出ないから、数が少ない。ハルファを見て、ギュスターさんも逸話の人物が僕らであることに気がついたようだ。これを機に訂正しておこう。


「ははは、なるほど! こういう話は大袈裟に伝えられるものだからな! だが、聞く限り、それほど的外れではないではないか。いや、それにしてもこうして逸話の人物と出会えるとはな! 君たちはなかなか面白い経験をしていそうだ。よければ、他にも話してくれないか」


 請われるまま、いくつかのエピソードを話した。特に意識したわけじゃないんだけど、内容がたこ焼きとかジンジャエールの話になっちゃったけどね。


 ギュスターさんはたこ焼きにも興味を持ったみたいだ。できればオルキュスでは筋肉焼きではなく、たこ焼きとして伝えたい。だけど、セファーソン周辺に、タコはいないみたいなんだよね。タコを仕入れるとしたら一番近いのはアイングルナだろうから……筋肉焼きの影響を受けるのは避けられないかもしれない。


――――――――――――――――――――――

すみません、一回分お休みします。

次回更新は四日後の予定です!

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