ついでに、あいつも!
「ローウェル、腕に違和感はない?」
見た目の上では靄を排除できたけれど、実際のところは本人しかわからない。確認のために尋ねると、状況についてこれてない様子のローウェルが目を白黒させながら答えた。
「あ、ああ……。痛みもないし、不快感も消えたが……、一体何を?」
「クリーンを使ったんだよ。あんな黒いモヤモヤは身体にとっていらないものだからね。不要なものを捨てて綺麗にしようと思ったらできちゃった」
「できちゃったって……」
あれ、ローウェルがおかしなものを見る目になっている気がするぞ。ここはよくやったって賞賛するところじゃないの?
問いただしたいところだけど、今はまだ戦闘中。氷樹に捕らえられているとはいえ、巨鳥はいまだに健在だ。ローウェルが傷をつけた右目からは、漆黒の靄が僕らの隙を伺うかのようにじわりじわりと滲み出している。
まあでも、あれも綺麗にしちゃえばいいよね。クリーンが有効だってことは、すでに分かっているんだ。だったら使わない手はない。巨鳥の右目から吹き出る汚れをぬぐい去るイメージでクリーンを発動すると、きらりとその周辺が光った後、靄は跡形もなく消え去った。
「キギャァァァアア!!!」
靄が消えると同時に、巨鳥がけたたましい鳴き声を上げる。怒りの咆哮と言うよりは悲鳴に近い。事実、巨鳥は何かから逃れるように身を捩った。その衝撃で氷樹の一部がパキパキと音を立てて崩れ落ちていく。ちょっと心臓に悪い。
そういえば、巨鳥の全身を覆う黒いオーラも濃さが違うだけで傷口から噴き出す靄と似たような感じだ。この巨鳥は邪気を何らかの形で具現化した存在なのかもしれない。目から噴き出た靄を綺麗にできるのなら、巨鳥の全身を覆うオーラみたいなものも排除できる気がする。巨鳥が急に暴れ出したのも、黒い靄を浄化するときにその一部を巻き込んでしまったからじゃないかな。
だとするなら、クリーンは邪気を纏った魔物に有効な攻撃手段になり得る。とにかく試してみればいいか。
巨鳥の身体全体から黒い汚れを落とすイメージでクリーンを使う。魔法が発動した瞬間、自分の身体から大量のマナが吸い上げられていく感覚があった。
くらっときて、目の前が一瞬暗くなる。倒れそうになるのをなんとか耐えて、ポーションでマナを回復した。危うく気絶するところだったよ。普通にクリーンを使うときに比べると、マナ消費量が明らかに多い。消費マナは浄化する広さに影響を受けるから、巨鳥のサイズを考えると多少多くても仕方がないんだけどね。でも、同容量の部屋を綺麗にしたとしても、ここまでのマナ消費はない。使い方によって、マナの消費量は異なるってことだね。
さて、巨鳥はどうなっただろうか。枯渇寸前になるまでマナを使ったんだ。ある程度の効果があるといいんだけど。そう考えながら巨鳥を睨み付けようとしたんだけど……その巨鳥の姿がどこにもない。
『なんだ!? でっかい鳥が消えたぞ! 倒したのか?』
シロルがわふわふと吠えながらキョロキョロと周囲を見回している。僕は意識を失い掛けていたので気がつかなかったけれど、巨鳥は逃げたわけではなく消滅したみたい。大量のマナを消費しただけあって、強力な浄化が巨鳥の闇のオーラを根こそぎ浄化したんだと思う。それにしても、それだけで消滅するとは思わなかったけど……。
あの巨鳥は黒いモヤモヤが主成分だったんだろうね。その根源がクリーンで消滅してしまったから、存在が維持できなったんだと思う。
「まさかクリーンが弱点だったなんて……」
「それはトルトのクリーンだけだと思うが……」
茫然と呟いたら、突っ込みをもらってしまった。まあ、ローウェルの言うとおりなんだろうけどね。もう、一般的なクリーンとは別物になってるから。とはいえ、発動するときに綺麗にするイメージが必要なのは変わらないけどね。
ともかく、厄介な相手を撃退できたのは良かった。追加の魔物も来ていないし、ひとまずは安心だ。とはいえ、こっちもボロボロ。ハルファも気を失ったままだし、仕切り直した方が良さそうだね。
「みんな、一旦――」
街への帰還を提案しようとしたとき、飛行船を支えている氷樹からパシリと音がした。しかも、一つや二つじゃない。
「あっ、ごめ~ん。もう無理かも。あの鳥を捕まえておくのに力を相当使っちゃったから」
スピラがテヘリと舌を出す。口調は軽いけど、結構危険な状態なんじゃないのそれ?
「うわぁぁ! スピラ、もうちょっとがんばって! ゴーレムは降下速度を上げて!」
まあ、巨鳥の体当たり攻撃のおかげで、アイングルナ上空からは外れているし、高度もかなり下がってきている。飛行船がバラバラになる前に、僕らはどうにか無事に着陸することができた。
飛行船は便利だけど、もうちょっと安全対策を考えておかないと駄目だね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます