報告会

 銀の腕は無事に異界へと送り返した僕たちは、ベルヘスへと戻ってきた。今はギュスターさんが逗留しているゲストハウスで、これまでの経緯を説明しているところだ。今回は僕だけじゃなくて、パーティー全員でお邪魔している。


 デムアドさんは、その日のうちにオルキュスへと送り返した。双子たちが心配するだろうからね。とんでもないことに巻き込まれた……なんて言っていたけど、その表情は明るかった。長年の悩みの種だったガルナラーヴァの声から解放されたからだろう。


「いや、まさかセファーソンに、そのような危機が迫っていたとは。このところの魔物の異常行動はやはりそれが原因だったということか」

「断定はできないですけど、おそらく」


 報告を聞いたギュスターさんは深いため息を吐いていた。そこに混じるのはきっと安堵の感情。僕らが見たのは腕だけだったけど、あれが全身こちらに侵入してきていたら――おそらく、ベルヘスは崩壊。世界は混乱に陥っていただろう。本当に運が良かった。


「君たちのおかげでセファーソンは救われた。我々は返しきれない借りができたな」

「いえ、僕たちの目的に沿って行動しただけですから。ね、みんな?」


 同意を求めてハルファたちに視線を送ると、彼女たちもニッコリと頷いた。そもそも、銀の腕のことは、セファーソンの危機ではなく世界の危機。自分の住む世界を救うために行動しただけなんだ。感謝されることでもない。


「ふふ……謙虚な英雄たちだ。だが、俺たちは本当に感謝している。そのことは忘れないでくれ。何かあれば必ず君たちの力になろう」

「ありがとうございます」


 僕らは英雄なんて格好いい物じゃないと思うけど、それでも感謝の気持ちは素直に嬉しい。


 今回は銀の腕をうまく追い返すことができた。だけど、アイツらがこの世界への侵攻を諦めたわけじゃないと思うんだよね。だから、ギュスターさんみたいな有力者が力になってくれるのはありがたい。


「セファーソンの危機を救ってくれたこともそうだが、お前たちのおかげで我が氏族の由緒を知れた。感謝している」


 そう言って、アバルムさんは頭を下げる。彼が言っている氏族の由緒というのは、戦士の儀式に関する話。彼らは戦士の誓いを今は名前さえ忘れられた神に捧げる。その神様っていうのが、実は始まりの神であるゼウラーデン様のことだったらしい。


 判明したのはガルナのおかげだ。彼女はギデルデという名前に聞き覚えがあったみたい。


『ほう、ギデルデか! かつて、父様に仕えた神官の血筋じゃな。それが戦士の一族になっておったとは。父様についていけなかったことを悔いておったからなぁ』


 そんなことをガルナは言っていた。

 始まりの神様が異界の侵攻を止めるために世界を発ったとき、ギデルデの一族は同道を願ったみたい。だけど、異界で待っているのは間違いなく激しい戦い。戦士でもない者たちを連れてはいけないと言われて、彼らはこの世界に留まった。それ以来、彼らは戦士として研鑽を積んだらしい。いつか、始まりの神様が戻ってきたとき、ともに戦えるように。


「我らが仕えた神は未だ戻らぬようだが……それでも、あの異形どもとの戦いのために我らは研鑽を積んでいたというならば、奴らとの戦いは我らの悲願! 今回の戦いは無様を晒したが……次は遅れはとらん。奴らが再び現れようとも、必ず異界とやらに送り返してやろう。何度でもな」


 氏族の起源と使命を知って、アバルムさんは燃えている。今回のことで異形の特性についてもかなりわかったし、アバルムさんなら有効な対抗手段を編み出してくれるかもしれないね。


「それで、君たちはこれからどうするんだ?」

「ラフレスに向かうんだよ。ね、ガルナちゃん」

『や、やめよ! 撫でるんじゃない!』


 ギュスターさんの問いに、ハルファが腕に抱いた黒猫を撫でながら答えた。この黒猫がガルナなんだよね。


 銀の腕を送り返したあと、神様たちは神界へと戻った。他の神様たちを集めて、ガルナラーヴァの処遇について話し合ったみたい。その結果、彼女は一応許された。とはいえ、世界に混乱をもたらしたことは否定できない。だから、罰として猫にされたってわけ。


 見た目が猫なだけで、神としての力が失われたわけじゃないらしいけどね。とはいえ、大幅に制限されているから人の姿に戻ろうとすると消耗が激しいみたい。なので、大人しく黒猫の姿に甘んじているんだ。


 ハルファの言うとおり、僕らの次の目的地は大陸中央に位置する中立国家のラフレス。正確には、そこから行けるっていう冒険者ギルドの本部を目指すつもりだ。


 異界からの侵攻。それはこれからも続くんだと思う。だから、それに対抗する強さを身につける必要がある。そういう意味ではガルナラーヴァの方針は間違ってないと思うんだよね。ただ、やり方がまずかったんだ。


 なので、今度は独りよがりな試練ではなくて、地道に冒険者たちを鍛えるダンジョンを作る。それがガルナの罪滅ぼしだ。冒険者ギルドの本部に向かうのも、その一環。本部の偉い人達と話し合って、本当の意味で冒険者たちの鍛錬に役立つダンジョンを考えようとしているんだ。


 僕らもそれに付き合うつもり。あの日、僕らはガルナに協力するって約束したからね。あと数日滞在したら、ベルヘスを発つ予定だ。セファーソンの滞在中は戦ってばかりで慌ただしかったから、ちょっと名残惜しいけどね。


――――――――――――――――――――――

ここまでのお付き合い、ありがとうございます!

本話で邪神編が終了です。

以降は異形の侵略者編?


ちょうど年末年始なので、

しばらくお休みしてから再開しようと思います。


それでは良いお年を!

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