テリヤキバーガーの魅力?
いつの間にか、ザルダン工房に所属する職人たちが狭い入り口付近に集合している。全員が工房の職人だとしたら、親方と見習いを含めて総勢15人の大所帯だ。見習いの少年と職人のうち3名が普人で、残りはみんな鉱人。鉱人は女性も鍛冶作業をする人が多いみたいで、この工房でも4人は女性職人だ。ちなみに、鉱人の女性も男性と背格好はほとんど変わらない。髭とかはないから、男女の区別はすぐにつくけどね。
ともかく、その鉱人の職人たちがバーガーを寄越せと目で訴えかけてくるんだ。その威圧感はダンジョンの魔物が可愛く感じられるほど。普人の職人たちは苦笑いで騒動から距離を取っているけど、だからといって止めてくれるわけでもない。
「おい、お前ら! こいつは仕事の前報酬だ。こいつを食うってことは、坊主の仕事に協力するってことだぞ。わかってんのか?」
プレッシャーに耐えかねて変な汗が吹き出てきたところで、ザルダン親方が職人たちを一喝してくれた。
……のはいいんだけど、いつの間に、前報酬ってことになってるの!?
いや、仕事を引き受けてくれるのはありがたいんだよ。でも、そこまで人数が必要な仕事じゃないと思うんだよね。
そんな僕の考えもむなしく、鉱人たちはみんなやる気だ。次々に、「まかせろ!」だの「やってやります!」だの、勇ましい声が上がった。
「ていうわけだ! 坊主、すまねえがこいつらの分も用意してくれ!」
……やっぱり、全員分必要なの?
いくらなんでも、ミンサーとおろし金を作る人員としては多過ぎると思うんだけど。
それに、ここに持ってきたハンバーガーはあくまでサンプル。こんな大人数に振る舞うなんて想定していなかったから数を用意してないんだよね。というか、量産するためにミンサーが欲しいんだよ。何か間違っている気がする。
収納リングに残っているのは残り3つ。とりあえず、それらを全てテーブルの上に乗せた。
「今あるのは、これで全部ですけど」
そう告げると、鉱人たちはざわざわと騒ぎ出した。
「なんだと……これでは全員に行き渡らない」
「場合によっては血が流れることに……」
「待て、力で決めるのはおかしい。ここは鍛冶の腕前で……」
かなり物騒な発言をしているね!
というか、みんなで分けるって発想はないの……?
「馬鹿野郎! 今は少しずつで我慢しろ! 仕事終わりの報酬として作って貰えばいいだろう!」
「なるほど……報酬か!」
「さすが、親方……!」
さすが……なのかな?
ともかく、ザルダン親方が再び一喝することで、一応は職人たちも納得したようだ。というか、いつの間にか報酬もテリヤキバーガーになりそう。僕は構わないんだけど、この工房、ちゃんと運営できてるのかな。
ちなみに、3つのハンバーガーは親方の指示により五等分され、みんなで一切れずつ食べるということで落ち着いた。親方も含めて15人なのでちょうど数が合う。一応、普人の職人にも配るんだね。親方はさっき丸々ひとつ食べたのに、当然の権利のように一切れ確保していた。職人たちの非難するような視線も黙殺だ。強い!
テリヤキバーガーは普人の職人にも好評。だけど、やっぱり鉱人の方が熱狂的というか、特に気に入ってくれたみたいだ。種族的に好みの味なのかもしれない。
「うむ、うまかった! このハンバーガーとやらを作るための機械なら、全力で取り組もう」
親方の宣言に職人たちも同調する。まあ、やる気になってくれたのなら、振る舞ったかいもあったかな。
その後は、親方とミンサーに関して打ち合わせ。詳しい機構はわからないから、肉を入れてハンドルを回すと中で肉が切り刻まれてミンチ肉として出てくるようにして欲しいと、ざっくりした要望だけを伝えた。あとは職人たちが試行錯誤して、ちゃんとしたものを作ってくれるだろう。たぶん。
「まあ、だいたい分かった。が、図面があるわけでもなし、一発で坊主の想定しているものが作れるかどうかはわからんな。とりあえず、三日後には試作品を完成させよう。坊主には都度見て貰って、修正していくってな方針で構わんか?」
「はい。では、それでお願いします」
ふぅ。どうにか話がまとまって良かった。職人たちがぞろぞろとやってきたときにはどうなることかと思ったけど、みんな熱意を持って取り組んでくれそうだから良かった。もしかして、ルランナさんはこうなることを見越して、ここを紹介してくれたのかな? だとしたら、ありがたいけど……前もって教えて欲しかった。
ああ、そうだ。一応、お願いをしとかなきゃ。
「このハンバーガーは料理コンテスト用の新メニューになります。もともとは翼人の料理なので僕のオリジナルというわけじゃないんですけどね。ただ、作り方はコンテストまで広めないで欲しいんです」
ミンチ肉が広まれば料理の幅も広がるだろうからコンテスト後には広まって欲しいくらいだけど、コンテストまでは秘密にしておいた方がインパクトがあると思うんだ。もちろん、僕が独占権を持っているわけじゃないから、あくまでお願いだけど。
「おお、坊主
これは助かるかも!
作り方は秘密において欲しいけど、ハンバーガーの美味しさについては積極的に広めて貰いたいよね。コンテストでは自分が食べたものにしか投票できないけど、人間が食べられる量には当然限界がある。となると、前評判で美味しいと噂の料理が絶対に有利だ。だって、食べられる量に限りがある以上、確実に美味しいものを食べたいだろうからね。
あと、今、「坊主も」って言ったけど――
「もしかして、親方もコンテストに?」
「ああ、そうだ! もちろん、武具コンテストの方だがな!」
そうだったのか。でも、それはそうかな。
工房が自分たちの技術をアピールする機会ってあんまりなさそうだし、せっかくのチャンスを逃す理由なんてないもんね。
「それなら、今は忙しいんじゃ……?」
「あぁ? コンテストはまだ先の話だろ。さすがにコンテストだけに力を注いでいちゃあ仕事にならねえからな。まあ、構想はできあがってんだ。コンテストまでにはきっちりと仕上げるさ」
少し心配になって尋ねると、親方はその心配を笑い飛ばすようにそう言った。自信ありげな表情だ。そもそも、鉱人は鍛冶センスに優れた種族。ザルダン親方が参加するのなら、優勝候補の一角だとしてもおかしくはない。僕の心配も杞憂だったってことだね。
でも、それなら事前に交渉しておくのも悪くないかもしれない。
「もし、竜の鱗を手に入れたら、譲って欲しいんですけど。もちろん、報酬は用意しますので」
「んあ? ああ、優勝者の景品が赤竜の鱗だったか。あればあったで使い道はあるが、別になくっても困らんしな。構わんぞ。報酬はテリヤキバーガー100個でいい!」
……え?
交渉の切り札であるミスリルさえ必要なく交渉が纏まりそうなんだけど……。
もちろん、ザルダンさんが優勝したらの話だけどね。
テリヤキバーガーの魅力、恐るべしだね!
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