塵となる

「まさか、これがその歌の効果なのか!?」


 何度攻撃しても前衛の三人にダメージを与えられないルドヴィスは、その原因を〈鎮めのうた〉の効果だと判断したみたいだ。僕の意図した通りに。


 ルドヴィスとしても、〈鎮めのうた〉の知識はあくまで伝聞なんだろうね。実際の効果がどうかなんて体験してみなければわからない。だから、ひょっとしたら、黒狼の攻撃を封じる効果があるんじゃないかと疑ってしまったわけだ。


 もしかしたら、黒狼の知識を引き継いでいて、本来の〈鎮めのうた〉にはそんな効果がないって知っている可能性もある。だけど、他の理由が見出せない以上、わかりやすい理由に飛びつきたくなるものだ。


 こうなると、ルドヴィスの次の行動は簡単に予想がつく。


「ならば、巫女を先に始末するまでだ!」


 そうハルファへの攻撃だ。

 もし〈鎮めのうた〉にルドヴィスの攻撃を無効化する効果があったとして、使用者自身にもその効果が有効ならば、ハルファにダメージを与えることはできない。だけど、要は歌を妨害して途切れさせればいいわけだからね。妥当な判断だと思う。


 攻撃手段してルドヴィスが選んだのは、直接攻撃だった。もとは魔術師だったはずなのにね。本気で疾駆するルドヴィスにはドルガさんでさえ追いつけない。ルドヴィスは瞬く間に僕たちに眼前へと迫った。


 ここからは僕の役目だ。僕はハルファを背中に庇い、ルドヴィスの前に立ちふさがる。どうにかして奴に食らいつくんだ。


「邪魔だ、ガキ! お前の相手は後でしてやる!」


 ルドヴィスの右腕が僕に向かって振り下ろされる。

 ダメージはない。だけど衝撃だけあるっていう妙な状態だ。吹き飛ばされないように、僕は奴の右腕にしがみついた。


「ああぁあ! 邪魔をするなぁぁっ――」


 苛立つルドヴィスが大口を開けて咆哮する。

 それを待っていたんだ。


 僕はルドヴィスの口めがけて、右腕を突っ込んだ。そして、収納リングから、ギルドマスターが持っていたものとは別の護衛者の呪符を取り出す。これは、昨日の時点で発動状態のまま収納しておいた呪符だ。


 護衛者の呪符を近い範囲で二つ発動させたら、どうなるのか。これも昨日のうちに検証しておいた。答えは、先に発動した方が有効になる、だ。現在有効なのは昨日発動しておいた――つまり、僕が今、ルドヴィスの喉元に出現させた呪符になる。


 そして、最後の検証結果。呪符を発動した状態で、他者に手渡したらどうなるのか。その場合、手渡された者がダメージを請け負うことになるんだ。今、呪符はルドヴィスだけが触れている状態。つまり、ルドヴィスが所持者だ。


 そんなことを知らないルドヴィスは、僕の右腕を噛みちぎろうとした。けれども、呪符の効果でダメージはルドヴィスが肩代わりすることになる。結果として、ルドヴィスの右腕にダメージを受けたみたいだ。血を噴き出す代わりに、傷口から闇が少し漏れて、消えた。


「な、なんだ? 何をした!?」


 ルドヴィスは混乱中。

 まあ、仕方が無いよね。攻撃をしたはずなのに、何故か自分にダメージが返ってくるんだから。護衛者の呪符について知らなければ想像もつかないことだ。いや、護衛者の呪符を知っていたとしても、こんな使い方を試した事なんてないだろうね。世間的な評価は完全にゴミアイテムだったから。実際は、大物殺しのとんでもない壊れアイテムだったけど。


 今なら攻撃し放題。向こうからの反撃も気にする必要はない。一方的に攻撃できる状況だ。記憶が蘇った直後の僕なら抵抗があったかもしれない。だけど、今では僕もいっぱしの冒険者だ。人々を襲う魔物を駆除することに躊躇いなんてかけらもないね。


「何故だ! どうしてうまくいかない! お前はやはり運命神の使徒なのか!」


 ルドヴィスが苛立たしげに喚いている。


 運命神の使徒かどうかなんて知らないよ。

 ただ、僕はお前との関係にけりをつけたいだけだ。

 お前が誰かを――ハルファを不幸にすることが許せないだけだ!


 何度となく切りつけるけど、能力差が大きいせいか、ルドヴィスにはあまりダメージを与えられていない。ルドヴィスが自身の攻撃で肩代わりしているダメージの方が大きいだろうね。今のルドヴィスは癇癪を起こしたように闇雲に攻撃を続けているけど、冷静になって攻撃を控えられたらダメージ源が足りなくなる。


「トルト、大丈夫か」

「レイ、みんなも! あとは仕上げだけだよ!」


 もちろん手は考えてあるけどね。ちょうどいいところに、みんなが駆けつけてくれた。ルドヴィスを囲むのは僕とシロル、レイにミル、ドルガさんとギルドマスターだ。僕は収納リングから、博打打ちの錫杖を取り出した。残っている分、全てだ。


「サリィ!」

「了解だよ! 〈フレイムウィップ〉」


 打ち合わせ通り、サリィは詠唱待機状態にしていた〈フレイムウィップ〉を僕に向けて発動した。大量の博打打ちの錫杖を巻き込んで。


 巻き起こる大爆発。ルドヴィスはもちろん、周りを取り囲んでいたみんなも爆発に巻き込まれた。だけど、問題はない。だって、全てのダメージはルドヴィスが請け負ってくれるからね。人数分の爆破ダメージともなれば、ルドヴィスでも大きな痛手になるだろう。


 ちょっと予想外だったのは爆発の威力が凄すぎて、爆風で近くの建物が少し壊れちゃったことかな。どうやら建物へのダメージは請け負ってもらえないみたいだ。そこは検証が足りてなかったね。


 まあ、その辺りは必要な犠牲というか、コラテラル・ダメージってところかな。

大爆発のおかげで、ルドヴィスは満身創痍といった状態。纏った闇がすっかりと薄れて、半透明な状態になっている。もう、完全に人間をやめてるんだね。


「これが核かな?」


 薄れた闇の中央。人間ならば心臓があるあたりに、禍々しく脈動する球体が存在していた。


「まさか、私が敗れるとは……。忌々しい使徒めが。だが、お前たちの切り札は……ルーンブレイカーはガルナラーヴァ様に捧げた。お前らに私を滅ぼすことはできんのだ!」


 さっきまで喚き散らしていたというのに、ルドヴィスは何故か勝ち誇ったようにそう言った。いや、そんな負け惜しみを言っても、僕たちの勝ちだからね。


 まあ、でもルーンブレイカーがなければ、悔しい思いをすることになったんだろうね。うん、ルーンブレイカーがなければ。


 でも、持ってるからね!


「これでしょ?」

「な、なんだと!? 何故、お前がそれを持っている! どうなっているんだ! 私は初めから運命神の手のひらの上にいたというのか!?」


 僕がルーンブレイカーを取り出してみせると、ルドヴィスは途端に慌てふためいた。といっても、もうほとんど実体がなくて核だけの存在だから、雰囲気だけだけどね。


 運命神様の手のひらの上という話なら、踊らされたのはルドヴィスだけじゃなくて僕たちだってそうなのかもしれない。まあ、それでキグニルやハルファ、みんなが助かるなら喜んで踊って見せるけどね。


 もちろん、ルドヴィスとしてはたまったものじゃないだろうけど。

 一生懸命計画して実行してうまくいったと思ったら、後から全部ひっくり返されるんだから。


 でも、同情はしない。当たり前だけどね。

 ルドヴィスのしてきたことは、とても許容できない。


 僕はルドヴィスの言葉を聞き流して、その核へとルーンブレイカーを突き入れた。あっけないほど簡単に刃先は核を貫く。その瞬間に核は――そして、ルドヴィスという存在は塵となり消え去った。その塵も風に運ばれて、後には何も残らない。


 勝ったんだ。


――――――――――――――――――――――


名 前:トルト

種 族:普人

年 齢:12

レベル:12 [4up]

生命力:72/72 [21up]

マナ量:66/66 [19up]

筋 力:32 [10up]

体 力:37 [11up]

敏 捷:50 [14up]

器 用:65 [19up]

魔 力:60 [18up]

精 神:48 [14up]

幸 運:120 [3up]


加護:

【職業神の加護・迷宮探索士】


スキル:

【運命神の微笑み】【短剣Lv14】[3up]

【影討ちLv9】[3up] 【投擲Lv5】[3up]

【解錠Lv9】[1up]【罠解除Lv9】[1up]

【方向感覚Lv6】[2up]【調理Lv8】[4up]

【光魔法Lv9】[3up] 【水魔法Lv7】[2up]

【闇魔法Lv8】[6up]【無属性魔法Lv3】[2up]


特 性:

【調理の才能 Lv1】【強運】【器用な指先 Lv1】

【魔法の素養 Lv2】


魔法:

〈クリーン〉〈ファーストエイド〉

〈クリエイト・ウォーター〉

〈デハイドレイト〉

〈ディコンポジション〉

〈ナイト・ヴィジョン〉[new]

〈シャドウハイディング〉[new]

〈ディテクト・マジック〉


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