ゴーレムボディ作成契約

 今日は人形工房へとやってきた。ローウェルは情報収集のために不在だけど、他のみんなは一緒だ。工房のドアを開くと、待ち構えていたジョットさんに声をかけられる。


「やあトルト君、待っていたよ。さっそくだけど、契約に入ろうか。こちらに来てくれないか」


 ジョットさんの言葉にもあったけど、今日の目的はプチゴーレムズの等身大ボディを作ってもらう契約を正式に結ぶことだ。そのために、わざわざ商業ギルドから人を呼んでいるみたい。


 待たせては悪いので、僕はジョットさんと一緒に奥の応接スペースへと移動した。ハルファたちは工房で人形を見ているそうだ。プチゴーレムズもアレンを除く三体はそちらに向かった。なので、僕のおともはシロルとアレンだ。


 通された先で待っていたのは、一人の男性。おじさん……というにはまだ少し早いのかな。たぶん、商業ギルドの人だと思うんだけど、僕の持つイメージとはちょっと違うね。商業ギルドの人は元気溌剌といった感じの人が多いけど、この人は柔和で穏やかそうな印象を受ける。それにこの顔……?


「はじめまして。僕はケプナー。気付いたかも知れませんが、ジョットは僕の父です。父が迷惑をかけてすみません。なんでも秘匿技術の開示を迫っているとか」


 やっぱり! ジョットさんによく似ていると思ったけど、親子だったのか。


「あ、はじめまして。トルトです。秘匿技術だなんて大それたものじゃないんですよ。ただ、ちょっと特殊なので僕以外に扱えるかどうかはわからないんですが……」


 実は等身大ボディを作って貰うにあたって、ジョットさんからは特殊な契約を持ちかけられている。報酬を金銭ではなく、『人形のボディをもとに自我のあるゴーレムを作る方法』にして欲しいと言われているんだ。


 僕自身、どうしてアレンたちのような存在が生み出されたのかはよくわからないし、教えることができるとは思えないと伝えたんだけどね。わずかな可能性でもあるなら教えて欲しいと言われて断れきれなかったんだ。


「父さんは何故そこまでして……?」


 事情を説明するとケプナーさんは困惑した表情でジョットさんを見た。どうやら、詳しい話は聞いていないみたいだね。


 問われたジョットさんはばつが悪そうにぼそりと呟いた。


「リルのためだ……」

「リルの?」


 リルというのはジョットさんの孫。そして、おそらくケプナーさんの娘にあたる少女だ。彼女は生まれつき足が不自由で、一人で出歩くのも難しいらしい。そのせいか、家に籠もりきりで、最近ではふさぎ込むことが多いみたいだ。


 ジョットさんは彼女をサポートするゴーレムを作るつもりらしい。アレンのような自律式のゴーレムなら、自分が亡くなった後も彼女を支えてくれるだろうし、心の支えにもなると考えているんだろう。


「そうだったのか……。トルト君、娘のためだというなら僕からもお願いします。どうか、娘のために力を貸してください!」

「頭を上げてください! 僕もできる限りのことはしますから!」


 話を聞いたケプナーさんが深々と頭を下げる。僕は慌てて、それを止めた。


 ゴーレムの作り方を教えるのは、アレンたちのボディを作って貰うために支払う対価なんだ。それを支払うってだけなのに、そんな風に頭を下げられると落ち着かない。そもそも、僕の方法がちゃんと伝えられるかどうかもわからないのに。


 お願いしますと繰り返すケプナーさんを落ち着かせるのはなかなか大変だったけど、どうにか契約は完了した。これでようやくゴーレム作りについて説明できる。


「ゴーレムを作るにはクリエイトゴーレムの魔法を覚える必要がありますが……」

「それに関しては問題ないよ。すでに習得済みだから」

「えっ!? そうなんですか?」

「ああ、コネを使ってスクロールを買い集めたからね」


 クリエイトゴーレムは魔術師ギルドでも取り扱っていないレアなスクロールだ。集めようと思ってもそうそう集められるものじゃない。それを集められるコネって……?


 思わずケプナーさんを見ると、彼は苦笑いで首を横に振った。


「僕のコネじゃないですよ。というより、僕も父のコネでギルド職員になったようなものですからね」


 なんと、ジョットさんが人形師になったのは二年ほど前で、それ以前は商業ギルドに勤めていたみたい。副ギルド長だったそうで、その頃に築いた人脈を活かしてスクロールを集めたんだって。


「ゴーレムは作ってみましたか?」

「試してはみたけど、やはり土でないと作れないね。それに、たぶん自我もない」

「そうですか……」


 ジョットさんは魔法技能に優れているわけでもなく、ほとんど素人といっていい。なので、現時点でできるできないを判断するのは早計だと思う。でも、僕が作ったゴーレムは最初から自我があったんだよね。プチ一号――つまり、アレンだったわけだから。


 一応試しにゴーレムを作って貰ったけど、やっぱり自我があるようには見えない。


「アレン、どうかな?」


 念のためにアレンに確認して貰ったけれど、彼は静かに首を振るだけだ。やはり、自我はないみたい。


「トルト君はどうやってるんだい?」

「それが――」


 僕の場合、無意識で自我ありのゴーレムができちゃうから、今は意識して自我無しゴーレムを作っている。そのことを伝えると、ジョットさんとケプナーさんは目に見えて落胆してしまった。


「それでは、私にはアレンのようなゴーレムは作れないのか……」

「それはまだわかりません。魔法はスキルレベルとイメージ次第で自由度が変わりますから。無魔法のレベルを上げればまた違った結果になるかもしれません」


 少なくとも、何もせずに諦めるには早いと思う。それに実は、僕にもちょっとしたアイデアがあるんだ。ジョットさんにゴーレム作りを教えるという趣旨からは離れるんだけどね。


「僕の魔法を魔道具化することってできないんでしょうか?」


 もし実現可能なら、問題は解決するんじゃない?

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