そういう体質なので

 魔道具にはダンジョンの宝箱から得られるものと、職人が作るものの二種類がある。ソフトクリームを作る魔道具なんかは後者の方。ガロンドで職人さんに作って貰った物だ。


 だったら、同じように自我ありゴーレムを作る魔道具を作ればいいんじゃないかと思ったんだけど……ジョットさんたちの表情を見る限りそう上手くはいかないみたいだ。


「私も詳しくは知らないけど、職人が魔道具を作るときにはそれぞれの機能に対応した紋章を刻むそうだよ。例えば、発火の紋章だとか、回転の紋章だとかだね。当然、実現したい機能に対応した紋章がなければ魔道具も作れないんだ」


 ジョットさんの言葉が本当だとすれば、たしかにクリエイトゴーレムの魔法を魔道具化するのは難しそうだ。そんな魔道具聞いたことないしね。対応する紋章がないんだと思う。


「トルト君のイメージに近いのはエンチャントかな。そういうスキルがあるというのは聞いたことがあるよ」


 ケプナーさんの補足によれば、術者が使える魔法を道具に付与するスキルもあるらしい。それが【エンチャント】スキルだ。以前、魔道具大国として栄えた遠方の国に、そのスキルの所持者がいたのではないかという話だ。それ以来、スキル所持者の噂すら聞こえてこないそうなので、かなりのレアスキルみたいだね。


 とはいえ、スキルが実在するのなら取得できる可能性はある。

 そう、パンドラギフトならね!


「ああ! でも、もうパンドラギフトがないんだった!」


 残していた一つは、ロロを妖精界に送るために使ってしまったばかりだ。必要なことだったから後悔はないけどね。


 突然、大声を上げた僕にびくりとしつつも、ケプナーさんは興味を引かれたみたい。


「パンドラギフト? あるにはあるんだけど……そんな外れアイテムをどうする気だい?」

「え? あるんですか?」

「うん。ちょうど今持っているけど……」


 なんと、ケプナーさんがパンドラギフトを持っているらしい。しかも、都合良く今ここに。なんでも、ダンジョン産のアイテムならどんな外れアイテムでも引き取ってくれる場所があるんだとか。今回の話のあとに、持ち込むつもりだったらしい。間違いなくダンジョン研究会のことだね。


 そういうことなら、あとで研究所に行けば貰えるだろうけど……どうせ最終的に僕の物になるなら、ここで買い取っても問題がないはずだ。ケプナーさんとしても、買い取って貰えるのならば誰でも良いらしく、ダンジョン研究会への売却価格より少し上乗せした金額で売って貰えることになった。残念ながらひとつだけど。


「で、それをどうするんだい?」


 ケプナーさんが興味津々といった感じで聞いてくる。何か特別な使い方をすると思っているのかも知れない。まあ、外れアイテムだからね。そもそも開封するという選択肢が、ケプナーさんの頭の中にはないんだと思う。もしかしたら止められてしまうからもしれないので、迅速に行動しよう。


「もちろん、開けるんですよ」

「ちょっ!?」

「は?」


 言うが早いか、ぱぱっとパンドラギフトを開ける。虚を突かれたケプナーさんとジョットさんは茫然としているね。


 そんな二人をよそに、出てきたアイテムを拾い上げる。見た目は本だ。鑑定ルーペで調べると、狙い通りスキルの書だった。もちろん、【エンチャント】スキルが取得できるものだ。早速、書を使ってスキルを習得する。


 ジョットさんたちはまだ状況についてこれていないようで、茫然としたままだ。そういうことなら今のうちにエンチャントも試してみよう。使い方は直感的にわかる。


 最初に試すのは……わかりやすくクリエイトウォーターでいいかな。エンチャントする対象はわりと何でもよさそうだ。フィアトレントの木材は納品用だから……別のにしよう。まあ、これでいいか。


「これで大丈夫だと思います。発動ワードは『水生成』にしておきましたので」

「え? これはジーリン?」


 ジーリンというのはニンジンによく似た根菜。ちょうど持ちやすいサイズかなと思ってなんとなく選んだんだ。収納リングの中身、食べ物ばっかりだし。


 突然、野菜を手渡されたケプナーさんは困惑しているようだけど、それでも呟くように「水生成」と唱えた。途端に、ニンジンの先端からどばどばと水があふれ出す。思ったよりも勢いが強い。


「わぁ!? 本当に出た!」

「なんと! いや、待て。このままでは水浸しになってしまう。とりあえず止めなさい」

「……どうやって?」


 あ、しまったかもしれない。特に水量を指定せずにエンチャントしたので魔力が切れるまで延々と出続けちゃうのかも!


「手を! 手を離してください!」

「え? ああ!」


 ニンジンを手放せば、魔力の供給が止まるので必然的に水の生成も止まる。それでどうにか、部屋が水没するのは避けられた。水浸しになるのは避けられなかったけど……。まあ、それも脱水魔法のディハイドレイトで乾かしたから問題はない……はず。


「いや、まさか、こんな簡単に魔道具が作れるとはね。ということは、トルト君は本当にエンチャントのスキルを習得したのか……」

「パンドラギフトから狙い通りにアイテムを取得したっていうのかい? いったいどうやったらそんなことが……」

「えっと……体質みたいなものです」

「そんな馬鹿な……」


 二人して、何を言っているんだという目で僕を見てくる。でも、スキルについて知らせずに説明すると、そんな感じになっちゃうからしかたがないよね。今回の取引に当たって僕のスキルについては他言無用という契約を結んでいるから、別に【運命神の微笑み】について話してもいいんだけどね。でも、それはそれで運命神様関連の話が出てきて長くなりそうだし体質ってことで誤魔化しておこう。

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