新生プチゴーレムズ

「プチ一号、調子はどう?」


 尋ねると、プチ一号は笑顔でサムズアップしてみせた。どうやら、とても気に入ったみたいだね。


 それにしても、指まで動かせるのか。人形のクオリティが高いおかげか、凄いずいぶんと細かい動作までできるようになったんだね。表情も豊かな分、感情もわかりやすくなった。


「おお、これは素晴らしい!」


 さっきまでの微妙そうな顔を一転させて、ジョットさんが興奮の声を上げた。驚くほどのスピードで僕からプチ一号を取り上げ、間近で観察している。まあ、自分の作った人形が意志を持って人間と同じように動き出したのだから、人形師として感じる物があるのだろう。別に害意があるわけじゃないだろうから、とりあえずそちらは放っておく。


 僕の方もそれどころじゃないからね。二号たちが自分たちも早くボディを換装しろとにじり寄ってくるんだ。何故か、両手を顔の近くまであげ、緩慢な動作で。まるでゾンビみたいに。どこで覚えたの、そんな演出。


 二号たちにせっつかれる形で、残りの人形もクリエイトゴーレムでゴーレム化していく。プチ一号で成功した感覚が残っていたので、さっきよりもすんなりとゴーレム化することができた。みんな、クオリティの高いボディを手に入れてニッコニコだ。もしかしたら、今まで不自由をかけていたのかもしれない。ごめんよ。


「うわぁ! みんな格好良くなったね!」

『そうだな! あ、でも、トルトの作ったヘンテコも悪くなかったぞ!』


 ハルファとシロルが、生まれ変わったプチゴーレムズの姿に喜んでる。シロルのフォローはフォローになってないけどね……。


「そうだ、トルト! せっかくだから、新しい名前をつけてあげようよ!」

「うーん、でもそれはプチ一号たちが嫌がるからなぁ……」


 プチゴーレムズは最初につけられた名前にこだわりがあるのか、改めて名前をつけようとしても、それを拒否してきたんだ。


 だけど、今日はちょっと反応が違った。


 僕らの話を聞いていた二号たちが集まって何か話しはじめた。途中から、ジョットさんの隙を見て逃げ出した一号も加わり、四人で真剣に議論している。やがて、結論が出たのか、一号が代表して僕の前に出た。頭の上に両手で丸を作っている。これはOKサインかな? そういえば、身体の構造が変わったせいかピコピコ言わなくなってるね。


「えっ、名前を変えてもいいの? うーん、そうだなぁ……」


 あれだけ頑なに改名を拒否していたというのに、どういう心変わりだろう。まあ、ボディが一新された影響だと思うけど。やっぱり、ボディに相応しい名前の方がいいと思ったのかな。イケメン剣士風の姿でプチ一号だとちょっと格好がつかないと思ったのかもしれない。


 さて、どんな名前がいいんだろうか。プチゴーレムズの期待の目がなんだかすっごくプレッシャーだ。表情がしっかりと変わるようになったからなおさらだよ。ここでセンスのない名前をつけたらがっかりするんだろうなぁ。しかも、また頑なに名前を変えるのを嫌がったりして……。これは困ったぞ。軽率に名前をつけられない。


「あ、そうだ。この人形たちに名前はないんですか?」


 ジョットさんに尋ねてみると、各人形には制作時につけた仮の名前があるという。参考に聞いてみると、プチゴーレムズたちもしっくりときたみたいだ。なので、正式にその名前を採用することになった。一号から順に、アレン、ミリィ、シャラ、ピノだ。


「みんな、改めてよろしくね!」


 僕の言葉に、プチゴーレムズはそれぞれのポーズで応える。以前だったら、一斉に敬礼のポーズをとっていたところだけど、ずいぶんと人間っぽくなったなぁ。


「でも、こうなると作業用ボディに乗り換えるのが嫌にならないかな? どうなの?」


 ちょっと心配になって聞いてみると、プチ一号……あらためアレンが首を振った。そのあとに、拳を握りしめて何か語っているように見える。表現は豊かになったけど、喋れないから正確な意味は読み取れないね。なんとなく、ちゃんと仕事はこなすと言ってるように思えるけど。


 シロルに確認してもらうと、だいたい似たような意味合いだったみたい。それは助かるね。


 まあ、作業用ボディも今の人形ボディを等身大にしたようなものにできれば一番だけどね。さすがにジョットさんに作ってもらうのは無理かな。作ってもらえたとしても、木彫りじゃあ耐久性に問題があるからなぁ。


……と思ったのだけど。


「今、作業用ボディと言ったかい? もしかして、もっと大きなゴーレムを作るということかな? しかも、できればそちらのボディも同じような人型が良いと。だったら、そのボディを私に作らせてもらえないかな?」

「えっ? えぇ? でも、作業用なので頑丈さが必要なので……」

「ふむ、木彫りでは頑強性に問題があるということかい? ならば金属を使った方がいいな。ちょうど良い素材があればいいが」

「あっ、鉄ならありますけど」

「おお、それは助かる。知り合いの鍛冶工房に声を掛ければある程度の加工まではやってもらえるはずだ。あとは……うん。なんとかできそうだね」


 あれ? いつの間にか、お願いすることになってる?

 いや、本当に作れるんなら助かるんだけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る