常識破りは得意分野

 工房のおじいさん――ジョットさんに許可をもらって、プチゴーレムズたちに各々お気に入りの人形を探してもらう。


「ふむ。造形はともかく、動きは細かいし人間味があるね。最近のゴーレムはみんなこんな感じなのかい?」


 ジョットさんは、興味津々といった様子でプチゴーレムズを観察している。やっぱり、一般的なゴーレムとは違うのかな。たぶん、自我を持たないゴーレムが世間に認知されているゴーレムに近いんだとは思う。まあ、そっちも僕が作ると基本的には埴輪型になるけど。


「わふわふ!」

「おや、どうしたんだい?」


 ジョットさんの疑問にシロルが答える。僕たちには『そんなわけないぞ!』と言っていることが理解できるけど、当然ながらジョットさんには無理だ。


「トルトのゴーレムは特別って言ってるんだよ」

「やっぱり、そうかい。こんなゴーレムが作れるんなら、私も習得したいんだけどね」


 ジョットさんは顎に手をやり、残念そうに呟いた。

 まあ、そもそもクリエイトゴーレムは魔術師ギルドにも魔法スクロールが売っていない、ちょっとレアな魔法だ。習得しようと思って、簡単に習得できる魔法じゃないけどね。


 そうこうしているうちに、プチゴーレムズがそれぞれ気に入った人形を持ってきた。


 プチ一号が持ってきた人形はかっこいい青年剣士の男性。リーダーっぽさがあるけど、ちょっとくたびれている雰囲気もあって、なんとなく苦労性っぽい。二号は、天真爛漫そうな少女の人形。軽装の戦士か斥候という感じ。ニカッと浮かべた笑顔が特徴的だ。三号の人形は黒衣の魔女だね。ミステリアスな微笑を浮かべている。四号はどこから見つけてきたのか、バニーガール。この世界にもバニーガール、いるんだね。


 なんとなく冒険者パーティーみたいな集まりになったけど、四号だけちょっと浮いてるね。遊び人ポジションかな? まあいいか。


「よし、今からクリエイトゴーレムをかけ直すからね! 人形の隣に並んで」


 指示に従って整列するプチゴーレムズ。隣にお手本の人形があるから、イメージはしやすい。これなら僕にもかっこいいゴーレムボディを作ることができるはず! ……だったんだけど。


「なんともはや……」

「これはちょっと……」


 ジョットさんとハルファが僕を見る目には、たっぷりの哀れみが含まれている。それもそのはずで、人形をお手本にしたはずのプチゴーレムたちは見るも無惨な姿になってしまった。例えるなら、ガリガリな埴輪だ。本人たちもそれがわかっているのか、がっくりと膝をついている。四号だけは、他のプチゴーレムを見て笑い転げていたけれど。


「ち、違うんだよ! ちょっと材料が足りなかったから」


 埴輪は中身が空洞だからね。人形と同じような形状にするには材料が不足していたんだ。きっと。たぶん。


 収納リングの中から、ゴーレム作成用に確保していた土を取り出して材料を追加。再度、クリエイトゴーレムを唱える。材料が十分にあったので、ガリガリになることはなかった。髪型も服装も、元の人形をそれなりに再現している。ただし、体型はずんぐりむっくりだし、顔が相変わらず目と口に丸い穴が開いているだけの代物だ。


「ま、まあ、さきほどの物よりは……」

「トルト……」


 ジョットさんがフォローしようとしてくれてるけど、ちょっと顔が引きつっている。ハルファに至っては首を横に振ってため息だ。


 まさか、お手本まで用意したのに上手くいかないなんて。僕ってステータス的には器用さが高いはずなのに。デザインセンスは器用さが関係ないってことなんだろうか。そうだったとしたら、人形作りを勉強したところで結局は同じじゃないの?


 自分のセンスのなさに愕然としていると、プチ四号が手を振りながらぴょんぴょん跳ねているのを視界の隅に捉えた。何か伝えたいことがあるみたいで、僕が視線を向けるとジェスチャで何かを示している。自分と人形をさしているけど……どういう意味だろうか。ただ、他のプチゴーレムも同意見なのか、頷いたあとにお願いのポーズで頭を下げはじめた。


 なにごと!?


 意味はわからないけど必死な願いであることはわかる。これはシロルに翻訳してもらうしかない。頼むまでもなく、シロルはプチゴーレムから事情を聞いてくれたようだ。


『ふむふむ……? なるほどな!』

「なんだって?」

『魔法でボディを作らなくていいから、この人形をそのままボディにして欲しいって言ってるぞ!』

「そんなことできるの?」

『知らないぞ?』


 いや、まあシロルが知ってるわけがないか。

 果たして、人形をゴーレム化したりできるんだろうか? プチゴーレムズは街用と作業用のボディを乗り換えることができるけど、何でもかんでも自分のボディにできるわけじゃない。ちゃんとそれぞれのボディとして作られたものだけに限られるんだ。そういう意味では、この人形をそのままボディとするのは無理だ。


 なので、僕が人形の形状を変えないまま、どうにかゴーレム化する必要がある。土のゴーレムを作るには土魔法のレベルが関わってくることを考えると、この人形のゴーレム化に必要なのは樹魔法かな。樹魔法なんて魔術師ギルドではスクロールが売ってないんだよね。スピラとローウェルは使えるみたいだけど……スピラは精霊でローウェルは森人だからかな。


 まあ、いいか。とりあえず、やってみることにしよう。ジョットさんにお願いして、人形を買い取らせてもらう。お値段はひとつ銀貨二枚。なかなか高いけど、手作業でこのクオリティなら納得だね。たぶん、提示されたのは卸値だから、実売価格はもっと高いと思うけど。


 いつもなら材料に向けて、完成したゴーレムをイメージしながらクリエイトゴーレムを使うことになる。だけど、ここには既に完成したボディがあるからね。余計なことを考えずに、右手に乗せた人形がゴーレム化することだけに集中して魔法を使ってみよう。


「〈クリエイトゴーレム〉」


 小型のゴーレム体を作ったにしては、多くのマナを消費した感覚。間違いなく魔法が発動した手応えがあった。


 思わず息を止めて見守る中、右手に乗せた人形がぴくりと動いた。おそるおそるといった様子で右手と左手を上げ下げして、動きを試している。


 成功したみたいだ!

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